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「ちゃんとした自己紹介が遅れたね!

さっきも言ったけどボクの名前はアイル!ちゃんと覚えてね!

ボクは1人っ子で、15歳なんだ~

好きな食べ物はトマトで、嫌いな物はネバネバした物!

ね!お互いもっと自分のこと教え合おうよ!」


……め、めちゃめちゃ楽しそうに笑いかけてくる…


「わ、私は…17歳で…兄弟は…いたのかわからない

好きな食べ物…は…甘い物

嫌いな物はない…よ」


「ええ!?嫌いな物ないの!?だってネバネバした物はさあーーー」


アイル君はネバネバしたものについて語り始めた

……よく喋るなあ

嫌いな物のことを話しているはずなのにどこか楽しそう


「でさぁ!?………あ…マリアンヌ」


「えっ?」


アイル君は突然真剣な顔つきになった

その視線の先を見ると


「なに…あれ…」


犬のような姿をしていて、黒い毛が所々禿げている

涎を垂らしながらこっちを見つめる赤い目

色んな所からボコボコした肉が飛び出ていて…紫色の血のような液体が出ている


「ひっ……!?」


「あれは"幻獣になれなかった者"さ

野生に気をつけてっていうのはこいつらのことでね」


「幻獣…なれなかった…?」


どういうことか聞こうとしたら、幻獣になれなかった者は物凄いスピードでこっちに向かってきた


「きゃぁあああああ!!」


怖くなりしゃがみこんで目を瞑った


「大丈夫だよ」


アイル君の声が聞こえたすぐ後に、苦しそうな鳴き声が聞こえ…途絶えた


そっと目を開けると…目の前に…さっきの…生き物の……生首……


「いやぁぁあああ!!!!」


「落ち着いてマリアンヌ!」


「いやっ!!!いやぁ!!!!」


「マリアンヌ!」


「いや…もういやぁ……!」


「ここは危険だ、早く町にいこう

歩ける?」


「…………立てない……」


腰が抜けてしまっている

足もガクガクと震えていて立てそうになかった

その時、体が浮いた


「きゃっ!?」


「じゃあ、しばらくこれで我慢してね」


アイル君に…お姫様だっこされている…?!


「いややめて!重いの!下ろして!」


「重くないよ」


「恥ずかしいよ…下ろして…」


「恥ずかしくない」


何度言っても下ろしてくれそうにない


「じゃあ行こうか」と言って歩き始めた


私より少し小さいのにすごい力…

それに、さっきの生首……切ったのも……アイル君……なんだよね……?


「ね、ねえ…幻獣になれなかった者って…?」


「そのまんまだよ

ほら、最初に見た動物達のようになれなかった者のことさ」


「飛んでる馬…とか?」


「そう

マリアンヌがいた表の世界とは違ってこっちは成長するにはリスクが伴うんだ

心の中の自分に打ち勝つ試練があるんだよ

それに負けると幻獣になれなかった者になる

自分の意識がなくなって違う"ナニカ"になってしまうんだよ」


動物達は…そんな試練をしなくてはいけないんだ…


「まあもちろん、人間もあるよ」


「え!?」


「動かなくなるまで生き物を襲い続けるらしい」


人も…失敗したらあんな姿になってしまうの?

想像しただけで怖くなった


「動物も人間もその他の生物も全部引っ括めて屍者(ししゃ)って呼ばれてるよ」


「屍者……」


「屍者を見つけたら真っ先に殺す様に言われてるんだ

……屍者に心が全くないなんて誰が決めたんだろうね」


「アイル君……?」


一瞬、アイル君の目が闇を帯びた気がしてゾッとした

でもそれはほんの一瞬で、すぐにいつものニコニコ顔に戻った


「屍者に襲われて負けでもしたら骨の髄まで喰われるから気をつけてね!」


「え、えぇ…!?」


「ははっ!大丈夫だよ!マリアンヌを守るためにボクがいるんだから!」


「………うん」


アイル君の笑顔は太陽みたい

この笑顔を見てると何故か安心する


「もうそろそろ着くよ!」


「ね、ねえ、もう歩けるよ?」


「……?大丈夫大丈夫!ここまで来たら最後までこのままでいさせてよ!」


「う、うん…」


何が大丈夫なのかは聞くのをやめておいた


「まず宿を手配してからーーどうしよっか!」


「き、決まってないの?」


「うん、ご主人に会うのが君の目的だけど…やっぱ旅はノリって言うしね!」


「い、言わないよ!」


「旅をしていけばご主人に会えるよ!」


「……その、ご主人って…?」


「ん?ボクがキミのお父さんに仕えてるからだけど…何か変かな?」


「そ、うなの……?」


ふ、初耳だ…

アイル君は何をやっている人なの…?

私のお父さんも…


「マリアンヌが、旅の道を決めていくんだよ

ボクはキミがどんな道を選ぼうとも付いていく」


「……頼もし…いね」


「でっしょー!?」


「やっぱボクって頼りになるからね!」と言って笑っている

どうして…

どうして、アイル君は

私にここまでしてくれるんだろう


「あ!ほら!見えた!走るよー!」


「…うんっ!」


自然と、笑顔が溢れた

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