第08話 八王乱 転――漢を襲う
この点につきましては、明確に述べておくべきでしょう。孤人は、元海様の単于推戴なる功を疎んだのです。
「一番目立たぬ機を狙ったか。君らしいな」
とは申せど、旧交を温めんがために参ったわけではありません。元海様が天下に覇たるを
敢えて構わず、孤人は口火を切りました。
「まずは
元海様、いえ、匈奴諸部を取り囲むは、何れもが容易く斬り伏せるも叶わぬ難敵ばかり。彼の者らを
旧友の顔が、たちまち主の顔に切り替わりました。孤人の焦燥を、元海様は、十全にお汲み下さったのです。
「
速やかなる受容への歓喜と、ようやく愚考の試しの場を得たことと。血湧き肉躍るとは、恐らく斯様な折に用いるべきなのでありましょう。
かねてより孤人が抱えていた、万余の詞。みだりに洩らさぬ為にも、一度口許を引き締め、拱手致します。
「なすべきは、漢朝
十余年もの間、抱いていたその一言を、遂に口外致しました。
元海様が息を呑まれたのを察します。
「――続けよ」
「単于の御意向、
幾分の早口上にはなっていたように思います。伝うべきを、余すところなく伝え切れたのでしょうか。述べ足りぬところはあったでしょうか。幾ら顧みたところで詮無き事です。なすべきことをなした。後は、主に全てを委ねるのみ。あるいは、刑場に赴く
暫しの黙考、やがて、元海様が苦笑されました。
「恐ろしいな、元達。君の示す道は、転び方を間違えれば大逆ともなろう」
「
「言うてくれる」
元海様が壇上に戻られます。玉座に、深く腰掛けられました。
「天意とは、いかなる物であろうか。何ゆえ天下に
元海様が、天を仰ぎます。
覚えず孤人も、それに倣っておりました。
「――
その、小さな呟きに。
時を得た。
孤人の気宇は、高まるのでした。
「昔、
斯くして元海様は、漢を襲われました。
それはまた、司馬氏に対する明確な宣戦布告と呼ぶべきものでもありました。
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