第06話 八王乱 起――洛陽動乱
船にて
故に
その倫司に、
この件に関し、因果応報、と述べるのも幾分
「
倫司が、醜態を晒す宮中の奸賊らを討滅せん、なる名目の元立ったのも、当然の帰結である、と申せました。またこの動きに、他の司馬氏一門も呼応します。倫司を首魁とし、軍勢が洛陽入り。賈氏一門の栄華は瞬きにも満たぬものと果てました。
これにて大団円、世は並べて事もなし、となってくれれば良かったのですが、ご存知の通り、この変事は、更なる大乱の
親、兄弟ですら食み合うが権臣のならい。倫司に呼応した各地の司馬氏とて、内心では
賈氏打倒が成るや、倫司は懦弱なる司馬衷に帝たるの資格なし、と帝位を剥奪、自ら次なる帝を名乗りました。これが他の一門に倫司打倒の大義名分を与えました。
八王、なる名がつくほどです。実際は八ではきかぬ、多くの司馬氏が倫司排除に声を上げました。とは申せど、その全てを拾い上げる必要もありますまい。
ともあれ、今は倫司に話を戻しましょう。
「白髪が増えたな、
並み居る壮士らの先頭に立ち、
「此度の御活躍、孤人の耳にも届いております。中でもご子息、
「宮仕えは君に
「まさか。
「では、そういうことにしておこうか」
倫司が動いた、と言うのであれば、無論元海様もそこには従っておりました。この時には既に
――王を、元海様とお呼びするのです。今この場だけは先主を劉聡様と、主上を劉曜様とお呼びさせて頂きましょう。
若き日の元海様を彷彿とさせる
良くも悪くも人目を引かずにおれぬのが、劉曜様のさだめなのでありましょう。この時も、覚えず孤人は不調法にも程がある眼差しを劉曜様に投げていたようでした。
「おい」
劉曜様の赤き瞳が、孤人を射抜くのです。
「殺されたいようだな、貴様」
衆人の居並ぶ中にも関わらず、劉曜様は剣をすらりと抜き放ちました。
義父上の霊廟の前にて、いかほど
「元達。先生は、いかに身罷られた」
「安んじてはおられました。晋に遷らされてより後、仕えるべき主を失い、ならばせめて主の事跡を
「先生らしい」
涙しつつ、元海様は微笑まれました。
「先生のお言葉は、その全てに罠を疑わねばならなかった。ならばその
元海様の後背に、
劉聡様の怒りようの烈しきこと、却って元海様が止めに入らねばならぬほどでありました。
倫司の尖兵として軍を率いた元海様は、その精兵らを自在に操り、瞬く間に洛陽を制圧致しました。その戦働き振りは、都の住民に
都の住民。そう、孤人が寄食していた陳家にても、この点は全く変わりません。
都に住まう漢人らに取り、匈奴とは兇暴たる
漢族、匈奴。義父上のごとく、分け隔てなく接して下さる方が寧ろ、
「元達。洛陽も、そろそろ潮時ではないか」
元海様が、孤人に仰りました。
「と、申しますと――?」
「倫司は、越えてはならぬ一線を越えた。この先洛陽は大いに荒れよう。その趨勢を占うは、容易きことではない。が、何れにせよ多くの民が巻き添えとなろう。そこに君も付き合う必要はない」
民、の一言に重きがなされたのを感じ取るのです。
天下の安寧。
過日、元海様が述べられた言葉を思い出しました。元海様の思いは、日に日に踏み
乱を治めるだけの力を持ち得ず、ならばせめて乱を司り、あたら火の粉を撒き散らさぬよう試みる。後日元海様は、猛毒を呑む思いで、そう決意した、と仰りました。胸中の苦しみは、いかばかりであったことでしょう。
また劉曜様には、どれだけその思いが伝わっていたのでしょうか。
やがて孤人は、洛陽を下る決意を致しました。三國志にまつわる取材にて各地にそれなりの伝手は出来ておりましたが、向かう先は
間もなく、更なる火の手が上がりました。その火は瞬く間に晋国全土を覆い、各地に悲憤を撒き散らします。また各地にては、晋に押さえ込まれ、不遇を託っていた諸族が不穏な動きを示しておりました。その中には、匈奴諸部族もおりました。
元海様は、匈奴を説得し、倫司の先鋒として糾合する、と言う名目で并州に遣わされました。そして并州に到達するや、匈奴を吸収し、独立を宣言。
この頃匈奴に、
左賢王、即ち元海様の名代として、匈奴諸部を束ねていた王は
八王の乱は、結果としては元海様を覇道に導く好機となりました。しかし、そのことをいかほど元海様は喜ばれていたことでしょうか。
後日、
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