4.開演2
「……なにしてんだ、あいつら」
『おい、犬居、どうした』
「いえ、ちょっと事務所の外が騒がしくて」
『それくらいがちょうどいい、あの街はな―――それで、どうだ、オヤジの様子は』
「政治家の手引きで国外逃亡した
『そうか』
「ヤクザの嫁じゃなきゃいいってことでしょうか」
『そうだといいがな。プライベートエデンは、どうなってる』
「どうもこうもありません。教祖を失って空中分解、やってたシノギも全部ばらされて、ぺんぺん草も残りませんよ、あれじゃあ」
『それは良かったな。やりたい放題だ』
「次期市長候補は、こちらを徹底的に潰すと息巻いていますが」
『そうかそうか。せいぜい頑張れや。たまには連絡寄越せ』
「国際電話にいくらかかると思ってるんです。―――安藤さんも達者で」
『おう、精進しろよ、若頭』
「はい。お幸せに―――おや」
『どうした』
「いえ……安藤さん、あなたの車、ヒロにやったんですね」
俺たちに並走してきたベンツの運転席側の窓が開き、幼馴染の人懐っこそうな笑顔が見えた。
「よぉ、サブ。楽しそうなことしてんな」
「命がけだ。乗せて行っては―――くれないようだな」
見ると、助手席にはマナミが、後部座席にはアカネ、シンジローさん、ジョンさんが乗っている。つまり、満席だ。
「サブ、先にハートオーシャンに行ってるからね」とアカネ。
「イブちゃんも頑張ってね」とマナミ。
「青春してるな、少年」とジョンさん。
「サブく―――」
「アンタは何も言うな」
「な、なぜ!?」
オチに使われたシンジローさんが狼狽する。
「何か言ったらアンタのしてきた悪行を嫁にばらす!」
「そんなご無体な」
「パパー?」
「ははは!じゃあな、サブ、楽しみにしてるぜ!」
軽い修羅場を発生させたことに意気を上げた俺は、数十メートル先にできた人だかりに向かって突っ走っていく。
「川上幸喜元市長と、そのお父上が行っていた行政は、ホームレスの子供たちを増やし、反社会的組織とカルト宗教を増長させる結果となりました。この膿は、わたくしが必ず出し切って見せます。再びナゴヤ市民の皆様の信頼を取り戻すべく、榊莉乃、粉骨砕身し―――って、なにあれ!?」
榊莉乃の素っ頓狂な声によって選挙カーのマイクがハウリングを起こし、聴衆からは軽いブーイングが起こった。
元市議、次期市長候補の名演説を遮ってしまったことに一抹の罪悪感を抱き、榊莉乃に向かって口の動きだけでごめんと言う。
「あなた何してるの!また妙な騒動を―――って、違う違う、皆さん、今のは別に、そう、関係ない人です、はい」
街の歴史上最年少の市長を目指すおっちょこちょいな女性の声がナゴヤの暮れてきた空に響き、大きな笑い声が巻き起こった。
「ねぇ、サブ」
そろそろゴールにたどり着くところで、イブが息を弾ませながら話しかけてくる
後ろからはヨンジーが「ぶっころーす!」と笑顔で叫びながら、俺に追いつかないくらいのペースで走っている。
伊野波さんは、体力のないシーナを背負って「重くなったなぁ、こころちゃんは」と悲鳴を上げ、その隣では彼の息子や娘たちが「頑張ってブルースさん」と囃す。
そして前方を見ると、ペースメーカー役を買って出た―――わけではないだろうが、レノンが先頭を切り、その先には先着したヒロ、マナミ、ジョンさん、アカネ、シンジローさん、天谷店長やセイレーンの被害に遭ったSing 4 youをはじめとする音楽仲間たち、リョウ、エミと、エミが引率する野良猫たち、そしてネクサスのメンバーまでもが出迎えに来ていた。
「みんなが、サブを待ってるんだよ」
隣から、イブの声。
「俺は、ただのオープニングアクトだぞ」
こんな、出演時間三十分の駆け出し再出発ミュージシャンのライブにこんな人数が出張ってくる。どう考えてもおかしな話だ。
そう、ナゴヤは今日も、そしてきっと明日もイカレている。
リリリリ-Re:Re:Re:Re:- 完
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