2.帰宅2
浴びせる紫外線を容赦しなくなった夏の太陽がようやく傾きに入る午後2時頃、ナゴヤ駅前から市バスに乗って十分ほどのところにある住宅街に着いた。
「どこに行くの?」
バスの運賃を払うお金も持ちあわせていなかったイブが訊いてくる。俺はやけっぱちに答える。
「築五十年の豪邸だ。二階建てで、小さな庭付き一戸建て。両サイドが月極駐車場で、騒音問題もバッチリな良物件だ」
「そんなところに住んでるんだ。意外」
「どこかの剛力アイドルが公共物を破壊したせいで、そんなところに行くことになったんだ。我慢しろ」
「あぅ……ごめんなさい」
手を繋いで歩く二人の少女を先導しながら、俺は深くため息を吐く。
ひしゃげた道路標識を見咎められる前に、逃げるようにその場を離れたが、行くあてなど自宅くらいしか思いつかない。かくして俺は女子高生と幼女の連れ去り事案に相当しそうな行為に手を染めることとなってしまった。
「お前ら、姉妹か?」
黙っていてもしょうがないので、会話を繋いでみる。
「違う。一緒に、“根元”から逃げてきたの」
「なるほど、そこの小さなお嬢さんが家の大黒柱を叩き折ることはないってことか」
「私だってしないよ!」
全く説得力の無い言葉に俺が苦笑した直後、誰かの腹が鳴った。振り向くと、シーナが道の真ん中でしゃがみこんでいた。
「お腹減った……」
弱々しい声で呟くシーナに、イブが心配そうに声をかける。
「シーナ、大丈夫?あの、サブ……さん?」
「サブでいい。あと、もう少し行ったらスーパーがあるから、そこで何か買って行こう。シーナ、俺の背中に乗れ」
もう一歩も歩けないといった体のシーナを背負う。俺もかなり細い部類に入るが、両肩に体重を預けてきたシーナは、まるで空気の詰まった袋でも運んでいるような軽さだった。
「ありがとう。サブ」
シーナを背負って歩き出すと、隣に並んだイブから礼を言われる。だが、俺は首を横に振る。
「別に何も特別なことはしていない。ただの成り行きだ。でも、感謝しているのなら、一つ頼みがある」
「なに?」
「“家主”がうるさいから、物は壊さないでくれるか?」
「信用ないな!もうしないって言ってるでしょ!!」
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