第23話

(馬鹿な!)

 胸中で、総司は毒づいた。裏切られたのは全てである。三対一でも向かってくるという無謀さだけではない。

 彼女が狙ったのは総司ではなく、未だに呆然としている貫那の方だった。

(人数を減らすつもりか!?)

 総司は咄嗟に腕を突き出した。その勢いで、袖口から黒い鉄の塊が出現し、手に収まる――ほんの少し前、貫那の喉元に突きつけていた銃。

 照準はすぐに定めることができた。相手は一直線に貫那へ向かってきている。狙いは身体の中央。そこならば、多少逸れてもどこかに命中する。

 総司は即座に引き金を引いた。

 銃声、火花、命中音。それらが同時に夕刻の街路を彩って、少女は弾かれた。アスファルトの地面を転がり、道の反対側にある電柱に当たって止まる。

「ちょっと、撃ったの!?」

「この手合いはさっさと片を付けないとまずい。それも狙いが俺でなく、貫那の方だった」

 批難じみた声を上げる結生へ向き直り、面倒臭そうに答える。と、彼女の声音はなぜか拗ねるようなものに変わったが。

「貫那を守るため、ってこと?」

「そんなつもりはねえよ。死体を盾にこっちへ向かってきたら面倒だっただけだ」

「無差別な殺人鬼なの?」

「さあな。貫那に心当たりを聞くのがいいだろ。まあどのみち、相手は――」

 と、ヘルメットの少女へ目を向け直すと。

 彼女は驚くべきことに立ち上がっていた。メットの中で軽く頭を振っているようだが、致命傷を受けた形跡はない。

 ただし彼女の脇腹には、明らかな弾痕が刻まれているのだが。

「……防弾チョッキか!}

 それを白衣で隠していたのかと推測できた。あからさまに戦闘用とは思えない格好であるため、想定していなかったが。

(だったら、防弾されていない部位を狙うだけだ)

 敵の攻撃的な気配はさらに強くなり、即座に向かってくるかとさえ思える。総司もそのつもりで、再び銃を構えようとして――

「…………」

 しかし。彼女は突然、くるりと反転して駆け出した。

「へ?」

 意表を突かれたというより肩透かしを食らって、間抜けな声を上げる。少女はその間に素早く近くの角を折れ、細道の先へ消えていった。

 しばし、きょとんとする。少女は撤退したようだったが、理由がわからずに悩む。なんらかの罠も考えたが……

 総司が首をひねっていると、意外にも答えは自ら現れてくれた。

「おい、さっきのはなんだ?」

「こっちの方からだよな?」

 聞こえてきた男の声は、先ほどの少女のはずがない。駐車場の方からだった。それも複数、不安そうにざわめきながら近付いてくる。アウトレットパークの客たちらしい。

「って、あんたが銃を撃ったから!」

 ハッと気付いて、結生が声を潜めながら言ってくる。総司もそれでようやく思い出した。

「まずい、俺たちもさっさと逃げるぞ」

「殺し屋のくせに、考えなしに撃つから!」

 いつかの仕返しのように言ってくる結生の言葉を無視して。総司は何事もない風を装いながら、少女が消えたのとは別の方角へ歩き出す。

 と、数歩進んだところで足を止め、振り返る。そこでは結生が――

「ほら、あなたもさっさとしなさいよっ」

「…………」

 未だに呆然としている貫那を無理矢理に立たせ、引きずっていこうとするところだった。

「あれは、そんな……」

 彼女はなぜか、震えながらぶつぶつと呟きを繰り返していた。

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