第6話 三城七騎籠 七対千五百の攻城戦 後編

後藤軍は兵を分け、三拠点を同時攻撃する。北の城は後藤貴明の七百、西に位置する本城は松浦勢五百、南の城は西郷勢三百。これに対し、純忠はまず偽装工作を始める。いくらなんでも正規兵がわずか七人であることが敵に看破されては話にならない。旗を多く立て、婦女子にも装備を与え、人の気配を演出するため、バタバタと駆け回るよう指示した。そして、合図あれば登ってくる敵に石や灰を浴びせるよう申し合わせて、各所へ配備した。

序盤は大村勢がよく守った。登ろうとする敵に投石でひるませて動きの鈍ったところへの弓矢・銃撃が効いて後藤軍を数度撃退。しかし、午後になっても味方には一人も兵は駆けつけず、ここではじめて大村軍は家臣たちに見捨てられたことを実感したのかもしれない。弱気に流される大村軍へ攻めの手は緩まない。そのうちに南を攻める西郷勢が城内に突入する。内応者に門を開けさせたのだ。報告を受けた純忠は死を覚悟し、七人と共に別れの杯をかわし、「二人静」を舞ったという。

この西郷勢の突入は戦況を動かした。それも大村軍の逆転の一手となって。

かつて大村家へ仕えていた富永又介という旧臣が、援軍に間に合わず、十数人の手勢を連れて西郷勢の裏の小山に潜んでいたのだ。突入を始めて細長くなった西郷の本陣へ「大村家へ恨みを持つものでござる。助太刀したいので、大将へお目通りを」と謀って、西郷勢の指揮官に謁見し、まんまと討ち取ってしまったのだ。突然の出来事に西郷勢は大混乱。異変に気付いた大村軍は西郷勢へ反撃し、撃退する。この様子に、日和見していた大村軍の家臣も続々援軍として駆けつけて、ついに後藤勢・松浦勢を退却させるに至った。この一戦で富永又介は、勲一等とされて純忠から一字与えられ、富永忠重と改名して重臣の座に就き、七人と共に大村家を支えたという。

結果として、この危機を乗り越えた大村家は名をあげ、家臣を結束させた。キリシタンの利を生かしたポルトガル貿易で国力もつけて、戦国時代を駆け抜け、明治まで生き残ることができたのだ。

ここでめでたしめでたしと話を終えても良いが、この出来過ぎた話のウラを考えてみるのも面白い。純忠と又介の間には、はじめから約定があったのではないか?とか。純忠からすれば養子と軽んじて心を開かない家臣たちに頭を悩ませていたはずである。自分を裏切る人間をはっきり見極めたかった部分もあっただろう。それらを一気に解決し家臣団を掌握するため、あえて後藤軍を領内におびき寄せ、鮮やかな勝利を見せつけようと準備万端だったのではないかと考えてみる。そうすると奇跡のように見えたものが全て計略に見えてくる。手際の良い非戦闘員、立場を観察される家臣団。そして、内部の人間に悟られずに動く別動隊を指揮するのは、解雇されたはずの又介。少し小説的過ぎるかも知れないが。

ちなみに西郷家はこの頃、純忠の実家の兄でキリシタンの有馬義貞を子分のように扱っていたが、西郷自身は熱心な仏教徒だったので、二人の関係は良好だったとは言えない。義貞と純忠の間に情報のやりとりがあったとしても不思議ではない。

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