かにさる合戦
結城藍人
かにさる合戦
「猿さん猿さん、ここ、ひどい職場ですよ! 確かに猿さんが
「ほー、それでこんなに早く大きくなったのかい、柿の種ちゃんは……いや、もう立派な柿の木だね。実もおいしそうじゃないか」
「そうなんですよ! 知ってますか『桃栗三年柿八年』って言葉を? 普通は私たち柿って実がなるまでは八年、つまり約三千日は必要なんですよ! それが三日ですよ、三日!! 一千倍の速度で成長させるとか、無茶すぎるでしょう! どこぞの飲み屋チェーンのブラック社長だって、そんな命令しませんよ!!」
「しょーがねーじゃん。おにぎりとか、俺が食えるモンと交換してくれそうなのが蟹のヤツだけだったんだからさ。で、今も実を取るって条件で半分は貰えることになってるんだ。悪ィけど、大人しく取られてくれや」
「え~!? 猿さんに実を取られたり食べられたりするのはいいけど、蟹に渡さないでくださいよ。実を食べられるのはしょうがないけど、そのあとで
「あ~、やりそうだなあ、蟹のヤツだと」
「ねえ、この青い実だったら、おいしくないし、まだ
「さすがに信用失うから、あんまやりたくないんだけどなあ。でもまあ、柿の木ちゃんが酷い目にあったのも俺のせいだってんだから、少しは協力してやるよ。全部とは言わないけど、最初の一個は青い実を投げてやるからさ……おーい、蟹ィ、これから投げるからしっかり受け取れよ~。それっ! ……あ、あれ?」
「おー、さすが私の実、ナイスストライクですね!」
「ちょ、おま、勝手に弾道変えるんじゃねえよ! 蟹の頭直撃して、死んじゃったじゃないかよ!? これじゃ、俺、殺人犯になっちまうだろ!」
「不幸な事故ですよ、事・故!」
「俺、知らねえからなっ!?」
「あ、猿さん、ちょっと!? ……逃げちゃった。お礼においしい実をいくつか持って行ってもらいたかったのにな」
◆ ◆ ◆
「あれ、雉さん、怖い顔して、どうかしたんですか?」
「やあ、柿の木さん、君も猿君には恩があったよね?」
「ええ、そうですけど」
「猿君が無残に殺されたんだ! 栗と蜂と臼と牛糞の奴らに!!」
「ええっ!?」
「蟹の件は事故だったのに、仇討ちと言い張って、卑怯な罠にかけて惨殺したんだ!! 許せるものか! 犬君や桃君とも協力して、絶対に仇を討ってやる!! 君も協力してくれるよね?」
「え、ええ……」
こうして、猿と蟹の不幸な行き違いによる仇討ち合戦は、本格的な全面戦争へと移行していったのだとさ。おしまい。
かにさる合戦 結城藍人 @aito-yu-ki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます