寿限無の真実
結城藍人
寿限無の真実
「和尚さん、お久しぶりっす」
「おお、
「ええ、今日戻ってきたんすよ。このあたりも結構変わりましたねぇ。ついさっき、
「アハハハハ。あの子は元気じゃからなあ」
「ところで、あのガキの妙に長い名前、和尚さんが付けたんですって?」
「おいおい、それは考え違いじゃよ。
「本当にそうですかい?」
「……どういう意味じゃ?」
「いえね、あの名前、確かに長すぎるんですが、よく考えてみるとバラバラでも変な名前じゃないですかい? 上方じゃあ最近は、付けたヤツの頭ん中がお星様みてえだってんで『キラキラ名前』なんて呼び方してますがね」
「な、何じゃと!?」
「だってそうでしょう。まず、いきなり『
「む、むう…」
「次が『
「う、うむ……」
「その次が『
「アレは改名後の芸名も食い物で、名前としては変じゃろうが……」
「それに『
「いや、さすがにあの六つ子の名前に比べればマシだと思うんじゃが……」
「でも、次はさすがに酷すぎでしょう。『食う寝る所に住む所』って、本気で名前として考えたんですかい?」
「ああ、いや、それは『生きる上で必要なもの』という意味の例として出したので、そのまま名前に付けるとはさすがに思ってなかったんじゃが……」
「それに、次の『やぶらこうじのぶらこうじ』ってのも酷いでしょう」
「いや、儂は『
「そうなんですかい? それにしても、藪柑子って木は確かにめでてえモンかもしれませんが、名字ならともかく名前に付けるような言葉じゃねえでしょう」
「うむむ……」
「それに、『パイポ』って国だの『シューリンガン』って王様だのも、どんな字を書くんだか想像もつきませんぜ。それに国や王様の名前はともかく、『グーリンダイ』ってのはお
「そ、それも長生きした例として出しただけじゃ」
「そして『
「うぐ……」
「でもねえ、和尚さん。ここまではおっそろしく変な名前なんすよ。ところが、最後の一つだけは『
「そ、それがどうした?」
「和尚さん、あんた、本当は『長生きする名前』って言われて、思いついたのはこの『長助』だけだったんじゃねえんですかい?」
「な、何?」
「でも、この名前じゃあ、あんまりにも平凡だ。そのまま言ったんじゃあ、熊の野郎にも『何だ詰まんねえ』とか思われかねねえ。そこであんたは考えついた」
「……何をじゃ?」
「その前に、思いっ切り変な名前を連発することを、でさあ」
「ぬ……」
「普通なら、『寿限無』だの『五劫のすり切れ』だのと言われても、そんな名前を付けるヤツはいねえ。いくらありがたそうな由来を語って聞かせたところで、ちょっと冷静になりゃあ、名前として変だって気付くだろうさ……普通ならな」
「……ああ、そうじゃよ、そうなんじゃよ!」
「だから、あんたは、思いっきり変な名前を連発したあとで、最後に本命の『長助』を出した。そこまで変な名前を出した後なら、平凡な『長助』がむしろいい名前に聞こえるだろうと思ってね」
「……」
「何も言わないでいいっすよ、和尚さん。あんたにとっての不運は、熊の野郎がトンデモねえお調子者だったって事でさあ。まさか、あんな変な名前を全部付けちまうなんて、お釈迦様でも思わねえでしょうよ」
「……儂も、人を見る目が無かったということじゃな」
「だけどね、それはまた、あんたにとっての幸運でもあるんですぜ」
「……それはどういう意味じゃ?」
「だってそうでしょう? 全部付けられたせいで、みんなその『長さ』にばっかり気を取られてて、それぞれの名前自体が変だって事には、今まで俺以外は誰も気付かなかったんすから」
寿限無の真実 結城藍人 @aito-yu-ki
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