第51話 掴んだ未来、失う物は 02

ミイナとの戦いで魔力が切れた僕はハイエストアームズの反動でそのまま意識を失った。

ミイナがフルアの一撃で地面に倒れ込んだ所までは覚えているのだけれど、その後どうなったのかはわからない。

だけど、ガルードの事だからきっとミイナを改心させているに違いない。

その証拠に僕はベースキャンプで寝ていたのだから。

何故、テントではなくて外なのかはわからないけど、こうやって生きているって事は無事に解決したって事でいいんだろう。

そして何故か僕の隣でガルードも寝ている。

とりあえず起こして結果を聞こうかと思ったけども、竈の近くから物音が聞こえるのでシャルルが居るのだろう。

僕はガルードを無視して、シャルル達の元へと向かった。

シャルルとミイナが一緒に仲良く作業していた。

その光景を見て僕はようやく不安な気持ちから解放されホッと胸を撫で下ろす。

よかった。上手くいったんだね。

だけど、その隣で2人を見つめているエメラルドに似た輝きを持つ髪の女性は誰なんだろう?

シャルルよりも若干身長が高いけど、フルアよりは小さい。

最初に出会ったミイナと同じような服装をしているが、しかしサイズが合っていないので胸元が大変な事になっていて健全な男子としては目のやり場に困る。

どう声をかけたらいいのか立ち尽くしている僕に気がついたシャルルが笑顔で手を振ってきた。


「おはようハルト君。目が覚めたんだね。身体の調子はどうかな? 」

「おかげ様で無事に全快だよ。ミイナちゃんもおはよう。そちらの方はどちら様かな? 」

「ごきげんよう。貴方は確か、外で寝ていた間抜け面の方ね。」


見知らぬ女性は僕に目線だけ向けて挨拶する。


「初めまして。僕はハルト。貴方の名前は? 」


僕は名乗りと共に右手を差し出す。

すると女性はクスリと笑うと身体が変貌し、腰から伸びた蠍のような不気味な尻尾を僕の手に差し出す。


「初めまして。私の名前はレーミアスよ。ミイナと同じ化物のね。」


それを聞いた僕はレーミアスと名乗る女性の目を見つめ、恐れずに尻尾を強く握りしめた。

僕の返しが以外だったのかレーミアスさんは少し驚き戸惑っている。


「レミちゃんはどうして化物扱いされたくないのにそういうことするのかな。」

「ふん。変な同情なんてされるよりはマシよ。まあ、でもこいつは合格ね。」


良かった。

何だかよくわからないけど認めてくれたようだ。

僕らのやりとりをハラハラして見ていたシャルルはご飯はもう少しだから待っててねと伝えてくれた。

僕は身支度を揃える為にテントに戻る。

そこには人形の様に可愛らしい寝顔を覗かせるユウがいた。

僕はその表情を微笑ましく見守りながらテントに踏み出す。


「ユウの寝込みは襲わせないぞ! 変態め! 」


ミイナが叫びながら僕に飛び蹴りを仕掛けてくる。

その勢いに負けて僕はテントに転がり込みユウに思わず抱きつく形になる。


「あー! 何やってるんだよ! ユウが怪我したらどうするんだよ! ユウから離れろ! 」


ミイナがやったのに散々な言い草である。

僕が飛びついた衝撃とミイナの声で静かに寝ていたユウは目を覚ます。


「ハルト。」


ユウがそう寝ぼけざまに呟くと僕をギュッと抱きしめる。

それを見たミイナは更に声を荒らげて僕らに近づく。


「ユウから離れろ変態! 」


ミイナがユウから僕を力尽くで引き剥がそうとするが、ユウもそれを必死にしがみついて中々離れない。

ついさっきまで命のやりとりをしていたとは思えないこの状況にあの出来事はやっぱり嘘だったのではないかと思ってしまう。


「離れないとこの爪で切り刻むよ? 」


力を隠す必要がなくなったミイナは僕に長く鋭い爪を突きつける。

ああ、やっぱり本当のことだったんだよね。


「あんた達は朝から何やってるのよ。ハルトあんたロリコンだって弁明する気はないでしょ。」


騒ぎを聞きつけたフルアがテントを覗きこんできて呆れた顔でそう言った。


「フル姉! いいところに! こいつをユウから引き離すの手伝って! 」

「いやいや、ユウが僕にしがみついてるんだって! 」

「ユウがそんな事するわけないだろ! 自惚れるのもいい加減にしろって! 」

「なんだかわからないけど。とりあえず引き剥がせばいいのね。」


フルアはテントに入るとユウの首根っこを掴むと猫の様にそのまま持ち上げる。

ユウはフルアに持ち上げられるとジタバタと手足を動かして抵抗していた。


「フルア。そのままユウを連れて外で待ってて! 」

「はいよ。」


そのままフルアはユウを連れてテントから出て行き、ミイナもその後に続く。

僕は1人になったのを見計らうと急いで身支度を済ませた。

僕がテントを出てくる頃にはシャルルがテーブルに用意していた朝ごはんを並べている。

テーブルに乗せられた食べ物達を見ると、朝ごはんにしては豪勢な物が並んでいる。

理由をシャルルに尋ねてみるとレーミアスとミイナ達がいるから何時もより張り切って作ったのと答えた。

シャルルにガルードを起こして欲しいとお願いされたので、僕は文字通りガルードを叩き起す。

無理やり起こされた事で不機嫌になるガルードだったが、シャルルの用意した朝ごはんを見ると直ぐに機嫌が直った。


「さて、これからの方針を話すぞ。方針って言っても簡単な予定だけどな。まずはこの村の修繕だ。修繕と言っても、誰かさんのせいで殆吹き飛んだからほぼ一から作りなおしだ。」

「ごめんなさい。」

「あー、やっぱり直さないと駄目? 」


ガルードの言葉で申し訳なさそうに俯くミイナと、修繕と聞いて面倒臭そうなフルア。


「当たり前だろ。原因は俺らにあるんだから。それに村がほぼ全壊してるんだぞ? このまま放置するなんて村人が可哀想じゃないか。」


現在村人には避難してもらう際に拵えた洞穴で寝泊まりしてる。

流石にそのまま洞穴で暮らしてもらうには心苦しい。



「そりゃそうか。報酬だけ貰ってはいサヨナラなんて後味悪いしね。仕方ない。頑張るか。」

「ミイナとユウは当然だが、レーミアス。お前にも手伝ってもらうからな。」

「はぁ!? なんで私もやらないといけないのよ。関係ないじゃない。」

「まあいいからいいから。どうせやること無くて暇だろ。なら手伝えって。」


なんで私が。と文句を言いながらも渋々了承するレーミアス。

口は悪いけど根はいい子みたいだ。


「で、修繕が終わったらメグリナリアに帰るぞ。と言っても帰りは徒歩だけどな。流石にマワリルには俺もツテがないし。」

「皆でピクニックだと思えば大丈夫きっと楽しいよ。」


シャルルが手を叩いてそんな前向きな発言をするもレーミアスはそんなわけ無いじゃないと否定する。


「ユウが居る限りそんな楽はできないわ。この子に釣られて魔物がどんどん寄ってくるんだから。」

「なんだよユウが悪いって言うの? 」


レーミアスがうんざりとした表情で発言するとミイナが睨みつける。


「そこまでは言ってないけど、実際この子の体質はかなりのものよ? 心当たりがあるんじゃない? 」

「それは……。」


確かに魔物は縄張りを作ってその中を出ることは殆ないので、こんな森の中でも人の集まる村に魔物が出るなんて話は滅多に聞かない。

それなのにこの村に来てからは魔物ばかり相手にしてる。

更にはレッドデビルやサヴェーグルまで出てくる始末だ。


「まあ、一概にはこの子のせいって訳じゃないんだけどね。私達が森を荒らしてるせいで居場所が無くなった魔物たちが新たな縄張りを求めてた所にこの子を見つけたってところでしょ。」

「って事は帰り道に魔物を襲われる事を考慮しないといけないんだね。でも大丈夫だよ。このメンバーならちょっとやそっとの魔物には負けないって。」


不安そうにしているミイナに僕がそう言うと皆も同意してくれた。

僕の隣に座っているユウは僕にそっと身を寄せる。

それに気がついた皆の視線が突き刺さるけど流石に僕ももう慣れたものだ。

僕は悪く無いと開き直って気にせずにいこう。


「フルアとミイナとレーミアスは俺と一緒に森から木を集めてくれ。ハルトとシャルルとユウはそうだな。村人に話をして作業を手伝ってもらえるように頼んできてくれ。」

「えー!? 嫌だよ私もシャルルと一緒がいい! 」


ガルードから重労働を命じられたフルアは文句を垂らすが今日のガルードは譲らなかった。

実際フルアの魔法はこういった肉体労働に向いているから適材適所だ。

普段は疲れるし面倒臭がってやらないけども、流石に事態が事態なだけに頑張っていただきたい。

話もまとまったし、ご飯を食べ終わると皆ガルードの言われた通りに集まって作業を開始する。

僕らは洞穴に行くと待ちわびたように村人達が出迎えてくれた。

とりあえず魔物の恐怖は無くなったとシャルルとガルードが予め伝えていたようだ。

僕らはこの事件の真相を村人に伝える。

もちろんユウとミイナ、レーミアスが犯人だったなんて事は伝えず被害者とだけ伝えた。

その事を村人から誰か都市マワリルの集会所に連絡してもらい、国に対処を仰ぐ事に。

残った村人達はどうしたらいいのかって聞かれたので僕らが壊した村の修繕を手伝って欲しい事を伝えると、魔物から村を救ってくれただけでも十分だ気にするなと笑ってくれた。

でも、これは僕らがケジメとしてやりたいと思って始めたことだ。

だから最後までやり通したい。

それから何人かの力自慢の男達はガルードの元へ向かい、残った人たちは料理をするための材料集めをすることになった。

僕とユウと狩りに覚えのある人は森の中へ、シャルルとその他の村人達は山菜と残った畑から野菜を回収して皆のために料理を担当して貰うことになった。

ユウはミイナ同様、直ぐに獲物の場所が特定できたので狩りはスムーズに進んだ。

これなら村人全員分の肉を集めるのは思ったよりも楽かもしれない。

僕らは捕まえた獲物を調理してもらうためにシャルル達の元に預けると、再び狩りに戻った。

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