第50話 掴んだ未来、失う物は
ミイナ.side
そこから私はシャル姉の胸で嗚咽を漏らしながらいっぱい、いっぱい泣いた。
今まで流してきた涙の量と同じ位泣いたと思う。
シャル姉とお兄ちゃんはそんな私を嫌な顔せず泣き止むまで支えてくれた。
涙が枯れることは無かったけど、全身の疲労感からか、泣きながら意識が段々と深い底に沈んでいく。
そんな深い底から意識を取り戻した時、私は温かい布団に横たわっていた。
見覚えがある。
ここは一昨日皆で一緒に寝たお姉ちゃん達のテントだ。
あれ? 私は何をしてたんだっけ?
まだ意識が覚醒していない頭を必死に動かし眠りに付く前の事を思い出す。
「あ、ミイナちゃん。目が覚めたんだね。よかった。ここは私達のテントの中だよ。」
ベッドの隣に座っていたシャル姉は私が目覚めた事を確認すると優しい声で教えてくれた。
私の隣のベッドではフル姉が死人の様にピクリとも動かず横たわっている。
シャル姉の落ち着きから見て問題ないのだろうけど少し気になってしまう。
「ねえ、シャル姉? 私が寝る前の事を教えて貰えるかな? 」
「まだ混乱してるみたいだね。わかったよミイナちゃん。」
それからシャル姉はあの戦いの事。私が泣きつかれた後の事を噛み砕いて教えてくれた。
そっか。
夢かもしれないと思ったけど、本当の事だったんだ。
よかった。本当によかった。
「私はどれくらい眠っていたのかな? 」
安心したのもつかの間、私はレーミアスちゃんと一緒にいるユウの事を思い出す。
もし、これで約束の1日が過ぎていたらと考えると居てもたっても居られなくなった。
「私ユウを迎えに行ってくる! 」
「落ち着いてミイナちゃん! 」
慌てて出ていこうとする私をシャル姉は腕を掴んで引き止めた。
だけど、シャル姉の力じゃ私を止めることは出来ない。
「シャル姉、手を離して。じゃないと怪我をすることになるよ? 」
私は冷たく言い放つとシャル姉の手を振り払う為に魔物の力を引き出す。
全快には程遠いけど、あの鳥の魔物と戦った時位には解放できた。
「だから何でお前は1人で突っ走るんだ。」
お兄ちゃんの声が突然聞こえたと思った時、頭に軽い衝撃が響いた。
「だって、お兄ちゃん!ユウが危ないの! 」
「落ち着けって。まずは状況を説明しろ。」
私はレーミアスちゃんがユウ一緒にいる事を説明した。
私が1日で帰ってこなかったら代わりにレーミアスちゃんがこの村を襲うこと。
それだけじゃない。
私の帰りが遅いだけでユウが何をされるかもしれない。
だから私はユウの安否を確認して早くここに連れて来たいとお兄ちゃんに伝える。
「他の奴も居たのか。チッ、思ったより厄介だな。だけど1日経ったら代わりに襲うって言ってたんだろ?ならまだ猶予はある。ユウには悪いがここは回復に専念しよう。」
「ユウがどうなってもいいって言うの!? 」
私はお兄ちゃんの悠長な態度に苛立ちつい声を荒らげてしまう。
だけどお兄ちゃんは怯むことはない。
「落ち着け。確かに俺達はお前達を助けるって言った。だけどただ死にに行くのはゴメンだ。今戦えるのは俺とシャルル、そしてお前だけだ。」
「だったらいいよ! 私1人で助けるから! お兄ちゃんの嘘つき! 」
私の為に死んでやるとかカッコイイ事言ってたのにいざ、その時が来たら助けてくれないんだ。
ガッカリだよお兄ちゃん。
「待て待て。お前を助けるって言っただろ。勝手に死にに行かれてもこっちが困るわ。」
「私は死なない! ユウを助けるの! 」
「ユウを助けたいのなら俺の言うことを聞け! 」
突然のお兄ちゃんの怒号に思わず身体が竦んでしまう。
そこからお兄ちゃんは諭すように落ち着いて私に話しかける。
「レーミアスって奴がいるんだろ? そいつはどれ位強いんだ? 」
「わからない。レーミアスちゃんが戦ってる所を見たこともないの。」
「そうか。ならどんな魔物と融合してるのもわからないな。どうせトンデモないのが入ってるに決まってる。そんな未知の相手に全力の出せない俺達が戦っても負けるだけだ。」
「じゃあどうすればいいの? 」
「幸い相手は1日の猶予をくれてるんだ。その間ならユウは無事な筈。だから今は出来るだけ魔力を回復させる。幸い俺と、シャルルは魔力を使い切ってないしな。ハルトとフルアは宛にするな。当分使い物にならない。」
「そういえば何でガルード君は魔力が切れてないの? ハイエストを使ったのに。」
シャル姉が不思議そうに質問する。
「教えてなかったか? 俺のハイエストは大地の魔力を俺の魔力に合成してるんだよ。」
「そんな無茶苦茶な事してたのガルード君!? 」
シャル姉の驚きっぷりからして途轍もない事をしていたって事はわかる。
だけど何が無茶苦茶なのだろうか?
「そんな訳で大地の魔力を使ってるから燃費がいいんだ。まあ、全力出したら俺もぶっ倒れるけどな。ハハハ。」
「笑い事じゃないよ。もしも自分の魔力が戻らなかったらどうしてたの全く。」
「何がそんなに危ないの? 」
私は話についていけず、思った事をそのまま質問していた。
それをシャル姉はお兄ちゃんに物言いたげな表情を向けながら答えてくれた。
「えっとね。魔力の存在はわかるよね? 」
「うん。私のこの力の源でしょ? 」
「そうだよ。その魔力の元になる核がある。魔力を持つ人には全員あるの。もちろん魔物もね。その核から力を引き出して使ってるの。」
「そうなんだ。じゃあ私の中にもあるんだ。」
シャル姉は私の答えに頷いてからテントを見渡してから立ち上がると、髪飾りを1つ手に取り私に見せてくれる。
「例えばこの髪飾りがあるけど、これにガルード君の置物をくっつけたらどうなる?
「よくわからなくなる。」
「おい。なんだよその例えにその答え。」
お兄ちゃんのツッコミを無視してシャル姉は続ける。
「全く別物になるでしょ? ガルード君はこれをその魔力の核でやっていたの。確かに魔力は上がるけどそれは全く別の物。ガルード君、核が壊れても知らないからね。ミイナちゃんにわかりやすく言うと、髪飾りにガルード君の置物を接着剤でくっつけて、無理やり剥がしたら髪飾りが壊れちゃうって事だよ。」
「今まで壊れた事ないからわからねえな。大丈夫問題ないって。話が大分反れたな。俺達は夜が空ければ魔力が戻るがお前はどうだ? 」
「わからない。だけど全快になるには時間がかかるかも。」
「助けるって言ったが、フルアが居ない今現状お前頼りな所が大きい。情けないけどな。」
歯がゆそうに悔しそうに大きなため息をつくお兄ちゃん。
「お兄ちゃんとシャル姉が居てくれるだけでも心強いよ。でも、あの金の大槌を使ったらお兄ちゃんの方が強いよね? 」
何をそんなにお兄ちゃんが自分を軽んじているのかわからない。
「あー、あれな。まず詠唱に時間掛かるから発動するまでお前に援護して貰うことになるだろ? と言うか、俺達が魔法を使う間は全部お前が援護する形になるんだよ。」
「そっかお兄ちゃん達は詠唱がいるんだもんね。大丈夫だよ。元々私は1人で戦ってたんだもん。」
「いざとなったら私も強化魔法で前線に入るから大丈夫だよ。」
そのシャル姉の発言を聞いてますます俯くお兄ちゃん。
「お前ら2人に前線任せて俺は1人で後ろに居るのがホント情けない。かと言って、俺が前線出た所で高がしれてるしな……。さっきの話に戻すが、あの大槌は使えたとしても機動力が足らなすぎる。魔法に対してはほぼ無敵と言ってもいいが、接近戦を仕掛けられたら辛いんだ。それとあの大槌で生み出した武装は俺自身が使うことは出来ない。」
「そんな欠陥武器に私はやられたんだ……。」
「だけど、仲間がいればいいんだよね? 私かミイナちゃんがいれば問題ないよ。」
「結局ハイエストを使ったとしてもお前ら頼りなのが悔しい。なんだよ女2人が頑張って戦ってるのに援護しか出来ない男って。普通逆だろ。」
「だったらお兄ちゃんはその女2人がやられないようにしっかりサポートしてね。」
「頼りにしてるからねガルード君。」
お兄ちゃんは暫く落ち込んでいたが、短く喝を入れると勢い良く立ち上がった。
「くよくよしたってしょうがねえ。俺はやれることをやるだけだ! 2人共、全力で休むぞ! 」
「ガルード君もそんなに張り切ってたら身体休まらないよ? 」
「それもそうだな。ミイナ、ユウを助けたいなら今は身体を休ませろ。お前の回復次第で勝率が左右されると思え。回復すればするほどユウを助ける道につながるんだ。」
「わかってるよ。もう飛び出したりしないって。」
私達はそのままお兄ちゃんの言うように身体を休ませる。
明日襲ってくるであろうレーミアスちゃんに備えて。
▽
お兄ちゃんは自分のテントで、私はシャル姉のテントで隣合わせで横になることに。
シャル姉は静かな可愛らしい寝息を立てている。
本当は私も仮眠を取らないといけないのだろうけど、ユウを待たせていると思うとそんな気分にはなれなかった。
辺りが夜独特の静けさに包まれている。
虫の鳴き声と風の囁きを聞きながら私は明日を待っていると、肌全体に刺さるような強い気配を感じた。
その原因には心当たりがある。
私は1人でテントの外に出るとその気配の元に歩き出した。
「こんばんはミイナ。もう、すっかり日が暮れてしまったのだけど村人の死体が無いのは何故なのかしら?」
そう、気配の主はレーミアスちゃんだ。
殺気を振りまきながら村を歩き私を探していたようだ。
「どうしたのレーミアスちゃん。まだ約束の時間は来てないと思うんだけど? 」
白々しい私の質問にレーミアスちゃんは大声を上げて笑い出す。
「こんな村あなたの力なら5分もしない内に制圧できるじゃない。なのにこんなにも夜が深くなっているのは何故かしら? まさかあなた任務を放棄した訳じゃないわよね? 」
私はどう言い訳してもいいのかも思いつかないし、そもそもそんな事をするつもりは無いので、ハッキリと告げた。
「私は止めるよ。村を襲うのも。人を殺すのも。あいつの為に何かをするなんて絶対嫌。」
「そう、残念ね。ミイナ。貴方はここに来る前は死んだ目をしてたのに、今は先を見据えた目をしてる。どういう心境の変化があったのかしら? 何かいいことでもあった? 」
「うん。その通りだよレーミアスちゃん。とっても、とっても良いことがあったの。」
そう私が答えるとレーミアスちゃんは笑いながら地面を踏み砕くと、今度は憎悪に満ちた顔で私を睨みつける。
「貴方って本当そうよね。ムカつく。ムカつくわ。でも、私達化物を受け入れる人なんて居ると思ってるの? 」
その言葉に私はチクリと胸が痛む。
お兄ちゃんはああ言ってくれたけど、内心では私の事を化物扱いしてたのではないだろうか。
私はお兄ちゃんに責められていた時の目を思い出す。
確かにあの目は私を見ている目じゃなく、魔物を見ている厳しい目だった。
「またそうやってお前は1人で落ち込みやがって。そんなに俺達が信用ならないか?」
私はその声を聞いた瞬間、心が昂ぶり思わず後ろを振り向いた。
そこにはお兄ちゃんとシャル姉が立っている。
「ミイナちゃんは化物なんかじゃないよ。」
シャル姉は私が欲しい言葉を私に向かって言ってくれる。
「シャル姉……。お兄ちゃん……。」
「あら。これはこれはごきげんよう。そして初めまして。もしかして全部事情は知っているのかしら? 」
レーミアスちゃんはお兄ちゃん達に気がつくとさっきまでの増悪な表情ではなく、上っ面な笑みを浮かべながらお兄ちゃん達に質問した。
「ああ、ミイナから全部聞いた。」
「その上で、貴方達はミイナに肩入れすると。」
お兄ちゃんとシャル姉は無言で頷いた。
「そう。本当に気に食わない。……なぜ貴方だけ! 貴方はいつもそう! 私と貴方何が違うって言うの!? 」
レーミアスちゃんは私に憎悪を突きつけながら、魔物の力を解放した。
腰からは緑の大きな蠍の尻尾が生え、素肌には緑の甲羅の様な物が浮き出てくる。
それを見たお兄ちゃんとシャル姉も戦闘態勢に入る。
「ねえ! ユウは!? ユウは無事なの!? 」
「ユウ?ああ、あの子ね。」
必死にユウの安否を確認する私を見て、レーミアスちゃんは冷酷に微笑する。
「食べたわ。」
「え?」
一瞬何を言っているのか理解できなかった。
脳が理解することを拒んでいる。
そんな私の唖然とした表情を見てレーミアスちゃんは満足そうに見つめる。
「いいわその表情! 最高! ……あの子はね、ペガサスが合成されてるの。そのペガサスの血は清純で生命力に満ち溢れている。飲むもの全てに命と力を与えると言われているわ。だから他の魔物はペガサスを見つけるとこぞって襲いに来る。それ故にペガサスは滅多に姿を見せないの。それ故に幻獣とまで言われている。どうしてあの男がそんな幻獣を捕獲したのかはわからないけどね。」
「Aランクのオオイカズチに、幻獣ペガサスと来たか……。」
レーミアスちゃんの言葉にお兄ちゃんはそっと呟いた。
だけどそんな事はどうでもいい。
「だからそんな子が近くに居たらつい、つまみ食いしたくなっちゃうでしょ? だから食べたの。本当に最高だったわ。あんなに美味しい血は初めて! 力も漲ってくるの! でも安心して。まだ死んではないわ。こんなに珍しい子そう簡単に殺す訳無いじゃない。」
死んでいないと聞いて私はホッと胸を撫で下ろす。
だけどレーミアスちゃんはユウを傷つけて血を飲んだと言った。
軽傷で有るはずがない。
ユウを傷つけるなんて絶対許さない。
私も魔物の力を解放しレーミアスちゃんを睨みつける。
「そうそう。そう来なくっちゃ。私は初めから貴方が気に食わなかったの。だから直々に手を下せて嬉しいわ! 」
「黙れ! あんたを倒してユウを助けるんだ! 」
私はレーミアスちゃんに突撃しようと姿勢を低く構える。
「ミイナ! お前はユウを助けに行け! 」
その声に私は振り返る。
お兄ちゃんは苦虫を噛み潰したような表情で私を見る。
「お前は直ぐにユウを助けに行け。思った以上にヤバイ。こいつの話が本当なら直ぐにでも魔物に襲われるぞ。居場所がわかるのはお前しかいない。急げ! 」
「でも、レーミアスちゃんが……。」
お兄ちゃん達だけでレーミアスちゃんを相手にできるのかと不安に思っていると、お兄ちゃんはいつもの調子で答える。
「こいつは俺らが相手をするから心配すんな。お前が居なくてもなんとかなるさ。お前が先走らないで居てくれたから魔力も回復する事が出来たからな。ユウを危ない目に合わせて済まなかった。後はもう我慢しなくていいぞ。」
「あら、言ってくれるのね。そう簡単にいくかしら? 」
「ほら! さっさと行け! 」
私はお兄ちゃんの行けと言う声と共に駈け出す。
お兄ちゃんは大丈夫だって言った。
だからお兄ちゃん達を心配する必要はない。
「行かせないって言ってるでしょ! 」
「どこ見てるんだよ。お前の相手はこっちだって言っただろ? 」
レーミアスちゃんが駈け出した私を止めようと尻尾を私に突きつけるが、それより先にお兄ちゃんが岩でレーミアスちゃんを押し飛ばした。
その隙に私はそのままユウの居る森へ全速力で走り抜ける。
ユウ。
待っててねユウ。
私は明かりも持たずに森を最短距離で駆け抜ける。
この身体になってから夜目が効くので障害物なんて問題にならない。
最速で最短で無我夢中に走る。
いつもの私達の寝蔵に到着するとユウは力無くぐったりと倒れこんでいた。
ユウの服は腹部からはルビー色に輝く血が滲んている。
だけどその外傷から見るに私が想像していたよりも酷いものではないようだ。
どうやらレーミアスちゃんの尻尾で軽く刺したのだろう。
ユウの傷を止血していると、森の奥から呻き声が聞こえ始める。
ああ、本当に魔物が引き寄せられてるんだ。
確かにユウの血を見ていると私でも啜りたくなる衝動に駆られる。
だけど、そんなものは理性とユウに対する思いでカバーできる。
お前たちみたいに本能のままに生きる奴らとは違うんだ。
「ユウに近づくなああああああ!! 」
私は魔物に向かって大きく放電する。
汚い悲鳴と共に黒い煙を上げながら消滅する魔物たち。
「お姉ちゃん? 」
ユウがぼんやりと目を開けて私を見つめてくる。
「ごめんね。ごめんねユウ。私はしっかりしていればこんな目に合わせることは無かったのに。」
必死に謝罪する私をユウはゆっくりと右手を上げて私の頬を軽く抓った。
「また謝った。禁止。言ったはず。」
ユウは虚ろな目のまま柔らかく微笑み、聞き覚えのある言葉を私に言った。
私のせいでこんな怪我をしたのに、なんでそんな優しく笑うの?
「ごめん。私のせいで。」
「また言った。次言ったら怒る。」
「ごめ……。無事でよかったユウ。」
私は反射的にもう一度謝罪しそうになるも、寸前の所で飲み込み、ユウの傷に響かないように抱きしめる。
それをユウは優しく抱き返してきた。
本当に無事でよかった。
だけど、ユウを助けて安堵している場合じゃない。
早く戻ってお兄ちゃん達に加勢しないと。
「ユウしっかり捕まるんだよ? 」
「わかった。」
私はユウを背負うと来た道を逆走する。
手負いのユウを背負っているので先ほどの速度は出せないけど、それでも私は急いで走った。
村に近づくに連れてお兄ちゃんとレーミアスちゃんの戦闘の音が聞こえてくる。
音が聞こえるって事はまだお兄ちゃん達は頑張ってるって事だ。
よかった間に合った。
レーミアスちゃんの甲羅は傷だらけで、お兄ちゃん達は息が上がってるものの目立った外傷は少ない。
「ミイナも戻ってきた。拮抗してた戦いもこれで終わりだな。もう諦めろ。」
「なんで! なんでお前ら如きに勝てないのよ! 私は人間を辞めたのに!? 」
レーミアスちゃんはお兄ちゃんに向かって走り出すがそれをお兄ちゃんは壁を作り出して阻止する。
それを怒りながら邪魔そうにレーミアスちゃんは尻尾で砕くが、先ほどお兄ちゃんが立っていた所にはもう誰も居ない。
シャル姉の魔法で強化されたお兄ちゃんはレーミアスちゃんの右側面に回りこんでいる。
お兄ちゃんを見失ったレーミアスちゃんにシャル姉は風の弾丸を数発打ち込む。
それを甲羅でレーミアスちゃんは甲羅で回避するが、お兄ちゃんが追撃にと岩を作りだし挟み込む。
「ミイナ! 」
お兄ちゃん達の戦いを見つめていた私はその声でハッとする。
私はレーミアスちゃんに向かって強く放電した。
それを受けたレーミアスちゃんは大きく悲痛な声を上げた。
「よく考えればミイナクラスの魔物なんてそう簡単に居るはずがないわな。お前の魔物はサーペントジャベリンって言って猛毒を持つ魔物だ。だけど、尻尾の針さえ気をつけていればどうってこと無い。元々が素早い魔物でもないからな。ミイナ。昨日の俺は忘れてくれ。弱気になってらしくなかった。」
お兄ちゃんは照れくさそうに頭を掻いて私に言った。
「なんで……。なんでなのよ……。」
レーミアスちゃんは私の放電でかなりのダメージを受けたみたいだ。
よろよろと立ち上がり私を泣きそうな顔で睨みつける。
「何故貴方はそうやって私の得られなかった物ばかり! 私のマルクは耐えられなかったのに貴方のユウは生きている! そしてそんなにも強力な力を手に入れて! 」
レーミアスちゃんは悲鳴にも似た声で私に語りだす。
そうだ。レーミアスちゃんにも弟がいたんだ。
そして私はあの牢屋で見たことがない。
私はユウしか見ていなくてそんなことも気が付かなかったんだ。
「私も初めて村を襲った時、貴方と同じだったのよ? 久々の外の世界で浮かれていたわ。このまま逃げやろうと考えていたの。そこで村人と仲良くなったりもした。マルクを失った悲しみも和らいだの。それほど楽しかったわ。本当に楽しかった。」
「だけどね。終わりの日は一瞬だった。たまたま魔物が村人を襲ったの。それを見た私は力を解放して助けたわ。でも、その村人はお礼を言うどころか怯えた顔でこう言ったわ。化物って。」
「村に逃げ帰った村人は直ぐ様私の事を皆に広めた。だから私は力を隠さずに皆に会ったの。でも皆こぞって化物って罵ったわ。」
「それで私は気がついた。私達にもう人と同じように生きるなんて無理だって。受け入れてくれる筈ないって。私の居場所はもうあの男と私達化物の所にしか無いんだって。だから、私は働いてきた。こうやって村を潰して仲間を増やす為に! 」
「なのに……。なのに貴方は!! なんでこいつらに姿を晒して受け入れられてるのよ! 私は拒絶されたのに! 」
「全部とは言わないわ。どれか1つ……。せめて1つでも貴方の手にれた物が私にもあればこんなにも惨めな思いをすることはなかったのに! 教えてよ! 貴方と私何が違うのよ!? 」
「レミちゃん……。」
つい私は一緒に遊んでいた頃の呼び方で呼んでしまう。
こんなに取り乱すレミちゃんは見たことがない。
私とレミちゃんの違いなんて私にはわからない。
レミちゃんにどう声を声をかけたらいいのかわからずにいると、お兄ちゃんがレミちゃんの前まで進んでいく。
「お前とミイナの違いを知りたいのか? なら教えてやるよ。」
「何よ!? なにが違うって言うの!? 」
「運だ。」
そのお兄ちゃんの告げた言葉にレミちゃんは絶句する。
そして、今度はお兄ちゃんに向かって叫びだす。
「そんな……。そんな不確定な物のせいで私はこんな事になってると言うの!? そんなの認められる訳無いじゃない!! 」
「認めるも認めないも別にお前の勝手だが、運が良い悪いで劇的に状況が変わるって事はよくある。だけど、その事を受け入れて前を向ける人間が未来を掴めるんだ。俺はそう教わった。」
「何よそれ……。」
力無く項垂れるレミちゃんにお兄ちゃんは屈み込み続ける。
「お前は今まで途轍もない悪運だったかも知れない。だけど、ここに来てようやく運が向いてきたと思うぞ。俺達に会えたんだからな。」
「貴方達に会えたからって何になるのよ!? 」
「その生活から解放してやる。お前が望むならな。」
「無理に決まってるでしょ!? あなた達なんかよりもずっと強いのよ!? それにこんな私を人間は受け入れてくれなかった! 今更居場所なんてないのよ! 」
「ミイナにも言ったが、やる前から諦めんなよ。可能性は0じゃねーんだぞ。まぁ、なんだ。居場所になってるやるなんて恥ずかしい事は言わねーが、少なくとも俺たちはお前をそんな目では見ることはない。」
「初対面の相手にそんな事言われても嬉しくともなんともないわ! 」
お兄ちゃんの提案を呆れて否定するレミちゃん。
だけど私もそう思う。
初対面の相手にそんな事言われても信用できないし、嬉しくもない。
「それだ。初対面の相手なんだから話半分で聞いてろって。失敗したのなら今の生活に戻るだけなんだからいいだろ。」
「でも、裏切ったってわかったらあいつに私は始末されるのよ? それはどうするのよ。」
「あーもう。面倒臭えな! 今俺に始末されるか、あいつに始末されるか選べ!? これで文句ねーだろ! 」
何故お兄ちゃんはレミちゃんを諭してた筈なのに逆ギレしてるのだろうか。
それを聞いたレミちゃんは呆気に取られていたが、しばらくすると吹き出して笑いだした。
「なによそれ。でも、そうね。そう言われたら仕方ないわ。貴方の誘いに乗ってあげる。その代わり、今言った事をしっかり守ってくださいね? 」
そんなお兄ちゃんの対応に毒気を抜かれたのか意外とあっさりと折れるレミちゃん。
何か思う所があったのかな?
だけど私はまだユウにこんな仕打ちをしたレミちゃんを許す訳にはいかない。
私はユウをシャル姉に預けると2人の前まで歩いて行く。
「レミちゃんが今までそんな事を考えてたなんで知らなかったよ。だから私達にキツく当たってたんだね。私の事はいい。でも、ユウを傷つけて不安な目に合わせたレミちゃんを許せない。だから約束して?もう二度とユウを……。いいや、人を無闇に傷つけたりしないって。」
「そうね。この人達が約束を守ってくれるのなら、私もその約束を守ってあげる。」
そうして私達は握手をした。
そんな私達を満足そうに見つめるお兄ちゃん。
「おっし、とりあえずなんとかなったな。本当なら元凶を倒しにって行きたい所なんだが、お前ら2人の話を聞いてるとトンデモなく強いらしいじゃないか。そんな奴らの所にわざわざ行く気はねえ。ハルトとフルアが起きたらサッサとメグリナリアまで帰るぞ。」
「でも、このままだともっと他の村が襲われちゃうんじゃ? 」
シャル姉が不安そうにお兄ちゃんへ質問する。
「ミイナとユウが第一だ。別に俺たちは正義の味方ってわけじゃねーんだし。後はミイナ達に聞いたことを集会所やギルド組合、守護騎士団にでも話せば勝手に解決してくれるだろ。あいつらは強いからな。特に守護騎士団。」
「本当にいいのかな……。」
「俺達の目的を忘れるなよシャルル。お前だって必要以上に危険な目には合いたくないし、合わせたくないだろ? 」
シャル姉は色々と悩んでいたが、最後には納得したみたいでお兄ちゃんの提案を受け入れた。
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