第45話 殺した願いと溢れる思い 02
「やってみればわかるよ。覚悟がないかどうかね! 」
フルアの言葉を皮切りにミイナは大きく変貌した。
手から鋭い爪が伸び、頭から猫の様な耳に金色に輝く尻尾が生えて、ミイナの周囲からは雷の様な物が溢れでている。
何時もの可愛らしい姿からは想像出来ないような荒々しい姿だ。
本当にガルードの言った通りなんだね……。
小さな女の子に魔物を埋め込む何て真似が許されていいはずがない。
僕は思わず拳に力を込める。
その僕の肩をガルードは軽く叩いた。
「怒る気持ちはわかる。俺も同じ気持だ。だけどそんなに力んでるといつもの力が出せないぞ。」
ガルードは昨日まで激昂していたはずなのに今は落ち着いている。
その頼もしい姿を見て僕は力を抜く。
そんな基本的な事も忘れてしまうなんてダメだな。
僕の悪いクセだ。
何時もこうやって直ぐに頭に血が上りフレラに咎められる。
「ごめんガルード。もう大丈夫だから。」
「ねえ、戦いはもう始まってるんだよ? 何そんな余裕ぶっこいてるの? 」
目の前にいたミイナが消えると共にそんな苛立った声が横から聞こえた。
「ミイナの言うとおりだよ。もう戦いは始まってるんだからしっかりしてよ。」
横に大きく滑りこむミイナに対して、僕らとミイナの間に立つフルア。
おそらく飛びかかってきたミイナをフルアが迎撃したようだ。
「余裕こいてた訳じゃない。フルアならコレくらい防いでくれるって信じてただけだ。ミイナ、言ったよな。俺じゃなくて俺たちが全員が相手だって。」
「ふーん。初弾を防いだくらいで調子に乗らないで。こんなのただの様子見なんだから! 」
このミイナの行動を皮切りに本格的な戦闘が開始される。
「アリティ・レイジア! 全快で行くよシャルル! 」
「オッケーだよフルアちゃん! レシ・フィール! まだまだ行くよ! 風が歌うは歓喜の歌。その歌聞きし者。歓喜の舞。踊る力を授からん! 」
「来た来た! ひっさびさの全力! 腕がなるね! 覚醒せよ我が魔力! 我目指すは遥か高みへ! アリティ・ブルク・プリシオン! 」
フルアは自分に強化魔法を掛けると、続け様にシャルルがフルアに強化魔法を掛ける。
それを受けたフルアが全ての強化魔法を向上させる上級魔法唱えた。
ただ向上させるだけでなく、強化時間を大幅に縮めるデメリットもあるのだけどそんなことも言ってられないのだろう。
今回はガルシアさんの時とは違いフルアだけ集中的に強化してる。
あの時は全員で逃げないといけないから魔力の消費の問題や身体への負担でここまで魔法の重ね掛けができなかった。
陽動をフルア1人に任せるのは口惜しい。
本当なら僕も混ざるべきなのだろうけど、今の僕の身体能力だと2人の魔力の無駄使いになる。
フルアが撹乱して僕とガルードがサポート、攻撃の要はシャルルとフルアって担当だ。
男2人がサポートなんて情けない話だが使える魔法の関係上仕方ない。
強化魔法の4重掛けなんて無茶に耐えられるフルアの身体も凄いが、その強化されたスピードのついていくミイナもミイナだ。
肉弾戦では互角だと悟ったミイナはフルアの一瞬の隙を突き、一気に離脱し右手から大きな雷撃を僕らに飛ばす。
レッドデビルの様に軽く出したミイナの一撃も途轍もない威力を発揮している。
「聖なる光よ。我が脅威から守護する盾と成れ! 」
僕はハイエスト抜きで使える一番強固な盾を召喚する。
だがその盾はミイナの雷撃が直撃すると徐々に崩壊し始める。
「ディメンション・シールド。」
僕だけじゃ防ぐのは無理だと判断したガルードは僕の作り出した光の盾の直ぐ後ろに鉄の盾を作り出す。
でもその盾も直ぐに崩壊し始める。
「グロウ・スフィル!」
2つの盾に阻まれた雷撃は僕らの包む光の球体を突破することはできない。
「あんたの相手はこっちだよ! 」
雷撃を交わし、接近していたフルアがミイナに飛び蹴りを仕掛ける。
ミイナはそれを大きく横に飛んで回避する。
「虚空から生み出されし風ノ渦。天に昇る竜の如く舞い狂え!ハリトル・フレシオン・ストラ 」
今まで詠唱に専念していたシャルルが空中にいるミイナを見て魔法を解き放つ。
ミイナが横切るであろう場所には大きな風の渦が吹き荒れる。
それをミイナは全身から目が眩む様な雷を放出し相殺した。
「動きが早すぎてこっちの攻撃が当たらないね。凄いよ、あのフルアのスピードについていきながら僕らに攻撃までしてシャルルの魔法まで回避するんだもの。」
「やっぱり素直に当たってくれるような相手じゃないか。こうなったらプランBだな。」
「ちょっとアンタら! 人が必死になって戦ってるのにそんな無駄口叩いてる暇なんてないよ! 」
確かにそうだ。
こうしてる今でもフルアの魔力はドンドン消費されていく。
今もミイナの動きを全力で抑えているフルアからしたら焦りのない僕らに苛立つのも理解できる。
「わかってるって! フルアBだ! 」
「了解! 」
ガルードが大声でフルアに作戦の変更を伝えるとフルアは端的に返してきた。
ミイナには何のことかわからないだろうが僕らにはそれで十分だ。
「我が想像の赴くままに創造せよ。クレアシオン! 」
ガルードが魔法を唱えるとフルアとミイナの闘いを中心に細い道を作り出した。
「頼むぞ。」
そう呟くと僕の背中をガルードは押し出した。
ミイナは突然出現した壁に挟まれて戸惑うが、その隙を逃さないと言わんばかりにフルアは距離を詰め思いっきりミイナを殴り飛ばす。
ミイナは壁に2、3度バウンドしながら後ろに吹き飛ぶが、直ぐ様地面に着地すると同時に腕と足で踏ん張りブレーキをかける。
踏ん張り終わりミイナが顔を上げた瞬間フルアがその顔ごと蹴りあげる。
正直ここまで上手く行くと思っていなかった。
蹴られたミイナは高く打ち上がる。
その先には石橋に立つ僕とシャルルが待ち受ける。
ガルードが細い道を作ると同時に作った物だ。
「グロウ・シルド! 」
「我が背負うは精霊の翼。仇なす物を吹き飛ばす強靭な風。今ここに!」
僕が光のシールドで打ち上がるミイナを受け止めシャルルが直ぐ様強力な突風で打ち返す。
その先には当然フルアがいる。
フルアは笑みを浮かべながら回転すると、戻ってきたミイナの腹部を思いっきり蹴り飛ばした。
ミイナは遠くの樹に思いっきり叩きつけられ、その衝撃で樹の幹がへし折れる。
かなりの衝撃だけど大丈夫かなミイナ……。
そんな僕の心配を他所にミイナは咳をするとともに血を吐きながらフラフラと立ち上がる。
「ミイナちゃん……。」
シャルルが心配そうに近寄ろうと声を掛けた時、ミイナは鋭い目つきでシャルルに飛びかかる。
「私達は戦ってるんだよ! 甘いってシャル姉! 」
「グロウ・シルド! 」
近くに居た僕は咄嗟に守護の盾を出し攻撃を防ぐ。
ミイナが飛びかかってくれて助かった。
これが先ほどの雷撃だったら防ぐことができなかった。
盾に防がれたミイナは舌打ちしながら距離を取る。
「随分焦ってるじゃないかミイナ! だけどまだ終わりじゃねーぞ! 創造されし物、異物を受け入れ混ざり合え。合成されし物。世の理から外れし物。されどこの世は受け入れる。エヴォ・イグジス。」
ガルードが焦りの見えるミイナを嘲笑い今度は石斧を作り出しミイナに投げつける。
ミイナはそれを軽く腕を払うと斧はそのまま地面に突き刺さる。
ミイナが払いのけると同時にフルアが距離を詰めミイナに回し蹴りを仕掛けたが今度のミイナはその蹴りを受け止め、そのままフルアとミイナの打撃戦が始まった。
先ほどのダメージが残っている用で互角だった接近戦も少しずつフルアが押す形になった。
「境界と境界を繋げし魔の陣よ! 今我の力にてその力を示せ! 」
フルアが誘導した先には僕が仕掛けて置いた魔術陣がある。
そしてフルアだけがその魔術陣に残った時、僕は急いで発動させた。
「時間だ。」
ガルードがそう呟くと先ほど投げた石斧が光と共に弾け飛び、取り残されたミイナはそのまま爆発に飲み込まれる。
「グロウ・スフィル!」
魔術陣でフルアが来ると同時に魔法の球体を作り出し、僕らは爆発をやり過ごす。
粉塵が晴れるとそこには地面に倒れこんだミイナがいた。
至近距離からかなりの爆発に巻き込まれたのだ。
ミイナと言えども無事ではすまない筈。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます