第39話 隠した正体
ガルード.side
翌朝、目が覚めテントを後にし、テーブルに向かうとハルトとフルアがくつろいでいる。
まだ眠い目を擦りながら俺に気がついていない二人に朝の挨拶をする。
「おう、おはよう。二人とも早いな。」
「おはようガルード。早くないよ。もう10時だ。」
「依頼が終わって気が抜けてるのかもしれないけど、ゆっくり寝過ぎじゃない? 」
呆れながら挨拶に答えるハルトとフルア。
「いいだろ別に。メグリナリアに戻ったら働かないといけないんだからこっちにいる間はゆっくりさせろって。」
別に自営業なのだから忙しさなんて自分のさじ加減だが、信頼に関わるからな。
好きでやってることで金貰える訳だし、いいんだけどさ。
「あー、確かにガルードは人気だからね。」
「そんで。他の3人はどこにいるんだ? 」
俺が問いかけるとフルアがニッシッシと誂うように笑うと竈を指さす。
「今は3人でお昼ご飯のサンドイッチを作ってるよ。ミイナちゃんがね、あんたと一緒に散歩したいんだってさ。この色男め。」
「シャルルとユウはその手伝いって感じだね。ユウは作るって言うよりはつまみ食いしたいって感じかな。」
「あー、そういうことか。でも俺行くなんて一言も言ってないぞ。やりたいこともあるんだが。」
その発言にフルアが呆れた顔で肩を竦める。
「あんたさー。もうシャルルも起きた事だしこの村から帰るんでしょ? 後ちょっとなんだから付き合って上げなよ。」
「そうだよ。僕らが居なくなったらまた2人だけになるんだよ? 可哀想じゃん。なら一緒に居られる間は一緒に遊んで上げなって。」
完全なアウェーだ。
確かにあいつは色々絡んでくるが、肝心な所を踏み込んで来ないんだよ。
そこが尺に触るから一緒に居たくないところが有るんだよな。
俺が2人の前で渋っているとシャルルがキッチンから様子を見に顔を出してきた。
「ガルード君おはよう。今日はミイナちゃんとお出かけするんだって? 朝から張り切ってたんだよ。」
「ほら、ガルード。これで一緒に行ってあげないなんて可哀想じゃない? 」
「もう諦めて一緒に行ってあげなって。」
シャルルの言葉に畳み掛けるように被せてくる2人。
「え、ガルード君行かないの? ミイナちゃん一生懸命作ったんだよ。ガルード君の好きなサンドウィッチを私に色々聞いたりして。」
トドメにこのシャルルの哀愁漂う顔だ。
なんというかこれで断ったら完全に悪役だ。
「あーもう分かった分かった! 一緒に行くから寄ってたかるなってーの! 」
俺が皆の責めに折れてやけくそ気味に言うとフルアは嘲笑し、ハルトとシャルルは安堵していた。
そのやりとりをキッチンから覗いてたいミイナが飛び出してきて俺に抱きついてくる。
こうして俺は今日もミイナと2人で一緒に過ごすことになった。
「お兄ちゃん散歩に付き合ってくれてありがとう。」
「いいって気にすんな。経緯はどうあれ俺が行くって言ったんだから。」
あれだけ皆に言われたら断れる物も断れないけどな。
ミイナは昨日シャルルから貰った服で俺がプレゼントした髪飾りをつけている。
多分新しい服を来て歩きたかったんだろう。
俺達は村の中を抜け川辺まで歩いて行く。
「ねえねえお兄ちゃんはイチゴパフェって知ってる? 」
「知ってるけど食べたことないなー。」
そう答えると信じられない物を見るように驚くミイナ。
「え、都市に住んでて食べたことないの? あんなに美味しいらしいのに! 」
「美味しいらしいってお前も食べたこと無いじゃないか。」
「だってここら辺じゃ売ってないんだもの。でも聞いた話だと凄い美味しいんだよね。一度食べてみたいんだー。」
目を輝かせて空を見つめるミイナ。
「そんなに食べたいならシャルルにでもお願いすれば作ってくれるだろ。」
「頼んでみたけど材料が無いんだって……。」
「……ならメグリナリアに来たら奢ってやるよ。」
残念そうにしているミイナを放っておけなくてついそんな事を言ってしまった。
あーもう、子供に弱いな本当に。
「本当!? 約束だよお兄ちゃん! 」
残念な様子から飛び跳ねて喜ぶミイナ。
お前がメグリナリアに来たらなと言う言葉は見送っているようだ。
「パフェと言えば、昨日はどんなケーキを作ってたんだ? 」
「えーっとね。タルト見たいなケーキだったよ。確かシャル姉はリンゴブーストとか言ってた! 」
「何だその格好いいケーキは! 」
美味しいのか疑問だがひと目拝んでみたいものだな!
「戻ったらみんなで一緒に食べようね。」
「おう、正直どうでも良かったが楽しみになったわ。」
「どうでもよかったって……。ちょっとそれは酷いよお兄ちゃん……一生懸命作ったのに。」
「自分が食べたかったからじゃなかったのか。」
「違うよみんなで食べたかったんだよ! そうそう、今日作ったサンドイッチも凄いんだよ! サンドイッチって具材を挟むだけだと思ってたけど、シャル姉の作るのは凄い手が凝ってるだよ! 肉をすり潰してバターみたいに塗ったりするんだよ! 」
「手が凝ってるだけじゃなくてシャルルのサンドイッチって凄い美味いんだぞ。あれは絶品だ。」
外出する時にお弁当によく作ってくれる。
正直いつもどんなサンドイッチなのか楽しみなところがある。
「そうなんだ。楽しみだなー。」
「なんだお前味見しなかったのか? 」
「うん、だって楽しみは最後にとっておきたかったんだもん。」
「なら期待していいぞ。」
「うん! 」
川に向って歩いてる俺たちだったが、少し離れた場所から突然砂埃が立ち上がる。
木々が邪魔で詳細はわからない。
「どうしたのかな突然? 」
「わからない。もしかしたら魔物が出たのかも知れない。ミイナ俺の側から離れるなよ? 」
ミイナは怯えた様子で俺の服を掴んでいる。
だけど魔物だったら村に行かれるのはマズイ。
俺だけで対処出来る魔物だといいんだけど。
この前のレッドデビルみたいな奴だと辛いが、Bランクなんてそうそう滅多に遭遇するもんじゃねえ。
俺達は何が待ち受けているか分からないから慎重に砂煙が上がった位置まで進んで行く。
「ひ、酷い……。」
目的地に到着するとミイナは思わずそう呟いた。
死の匂いが充満している。
そこには俺達よりも大きな鳥がキラーエイプの腸をほじくり返して遊んでいた。
この可能性はちょっと想像してなかった。
なんで同じ場所にBランクが2匹も出現すんだよ。
どんな確率だおい。
魔界じゃねーんだから勘弁してくれ……。
`サヴェーグル`
鉱物の豊富な山に巣食うことが多い鳥族の魔物だ。
生息地から分かる通り鉱物を主食にしている。
攻撃方法も鉱物を食べているからか、魔力で鉄を生み出し攻撃してくる。
いや、むしろ逆で魔法で鉱物を使うから鉱物を食べているのだろう。
キラーエイプを襲って食べているのは魔力を集める為か。
「ミイナ、お前は……ここで隠れてろ。」
「わかったよお兄ちゃん。」
怯えながら頷き木陰に見を潜めるミイナ。
本当は逃げて欲しかったが逃げたミイナをあいつが追いかけたら俺は防ぐすべがない。
なら俺が目の届く範囲で隠れてくれた方が安全だ。
相手は捕食に夢中でまだこっちに気がついていない。
今がチャンスだ。
ミイナは不安そうに俺の裾を掴んでいたのでゴメンなと言い一歩下がるように指示した。
それがいけなかった。
ミイナが一歩下がると同時に枯れ木の弾ける音が森に響き渡る。
その音がきっかけでサヴェーグルは顔を上げこちらをジッと見つめている。
「ハルト! フルアを連れて今直ぐ村の東口付近の川辺まで来てくれ! シャルルは村人の護衛を頼む! 」
魔石で要件だけ伝えると俺はもうどうにでもなれとサヴェーグルの前に飛び出した。
「フォル・アドラ! 」
その俺を見て空に飛び上がろうとするサヴェーグルを逃さないように上空に岩を作り出す。
だが、その行動も虚しく軽々避けて相手は有利な空に飛び出す。
空に飛ばれると俺からの攻撃手段は限られてしまう。
手は無いわけではないがフルアやシャルルが居ないと無駄に魔力を消費するだけになる。
ここは防いで援軍が来るまで防御に徹するべきだ。
サヴェーグルは俺に攻撃された事で敵と認識し、甲高い叫び声と共に翼を大きく羽ばたかせるとサヴェーグルの周りに人の拳大程の鉄が生み出される。
そして俺に向って……と言うよりは俺ごと森を吹き飛ばすかの如く広範囲に降り注ぐ。
「ふざけんじゃねえぞこいつ! 」
いきなりこんな無茶苦茶な攻撃しやがって!
俺はサヴェーグルに気が付かれない様にミイナの隠れている木陰まで近づくと鋼鉄の壁を作り出す。
衝撃を直接受けないように左右に受け流す曲線状だ。
最初盾で防ごうと思ったが質量のある鉄が大量に打ち下ろされたら直撃は防げても腕が拉げるだろう。
周囲から響き渡る豪音が収まる事を確認してから役目を終えた壁を分解する。
「どうだ! お前とは練度が違うんだよ鳥野郎! 」
言葉なんて通じないが近い魔法を使う者として勝利宣言をしておく。
サヴェーグルは先ほどと同じく大きく羽ばたくが今度は何も起こらない。
何も起こらないので唯の威嚇かとサヴェーグルの出方を伺っていたが、地面の違和感に気が付き直ぐ様後ろに大きく跳ぶ。
さっきまで俺が居た場所から俺を追いかけるように鉄の針が押し寄せてくる。
だが所詮は鳥公だな。
「ディメンション・スパイク! 」
こういった自然を使った魔法は先に魔力で変化させたモン勝ちなんだよ。
俺は迫り来る鉄の針に向って岩の針を生み出していく。
コレで相殺できると思っていたのだが、針と針がぶつかり合う瞬間途轍もない魔力に俺の魔力が飲み込まれた、
そして俺の針をかき消すようにサヴェーグルの鉄針が俺に向って襲いかかる。
「クソッ! 」
俺はミイナと離れるように横に避ける。
あんな簡単に発動しておいてなんて魔力だ。
抑えこむことさえ出来ないなんて。
フルア達を待つと言ったが、このままやられっぱなしなんて我慢できる訳なかった。
「バレ・アドラ!! 」
俺はサヴェーグルに向って岩の弾丸を打ち出す。
そして直ぐ様次の詠唱を開始。
「我が想像の赴くままに創造せよ! クレアシオン! 切り刻め! 鉄円の刃! 」
岩の弾丸を囮にサヴェーグルの上へ人丈程の丸鋸を創りだすとそのまま回転させ落下させる。
サヴェーグルは予想通り岩の弾丸を避けるため丸鋸の軌道上へ。
丸鋸に気がついたサヴェーグルは鉄を打ち出して防ごうとするが、回転の力により弾かれる。
「喰らいやがれ!! 」
直撃する瞬間器用に反転し回避するサヴェーグル。
だが、その翼からは出血が見られる。
直撃はしなかったがダメージを与えることができた。
喜んでばかりは居られない。
先ほどとは違った怒気の含んだ雄叫びを上げ急降下を仕掛けてくる。
俺はさっきと同じように横に飛んで避ける。
サヴェーグルはそのまま上空に飛び立ち旋回し再び俺に襲いかかる。
確かに動きは早い。
だけど単純で避けられない攻撃じゃない。
こいつが突撃し続けるなら大分時間が稼げそうだ。
また方向転換できないタイミングで横に飛んで避けようと構えていると、一瞬で景色が横に吹き飛んだ。
「がハッ!? 」
いや、景色が吹っ飛んだんじゃない。
全身が千切れそうな痛みからして俺が何かに突き飛ばされたんだ。
途切れそうになる意識を総動員し衝撃のある方を確認する。
そこには有るはずのない鉄柱が存在した。
サヴェーグルが自分を囮に鉄柱で攻撃してきたのか。
さっき俺がやったように。
いや、違う。
囮じゃない。
鉄柱で動きを封じて、本命は自身の突撃か。
俺が高をくくって勘違いしてただけだ。
木に当たって呼吸もまともに出来ず動けない俺に迫り来るサヴェーグル。
こんな所で呆気無く魔物にやられて死ぬのか……。
「あーあ。もう少しで綺麗に楽しく悲しくスッキリお別れ出来たのに。」
サヴェーグルが目前まで近づいた時、隣からそんなミイナの声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます