第38話 少女に振り回されるのも悪くない 11

フルアとユウは水遊びを終えると本当に僕を置いてベースキャンプへと帰っていった。

一緒に付いて行ってもよかったのだが、身体強化の副作用が辛いので止めてゆっくり帰ることに。


「おう、おかえりハルト。遅かったな。」


ベースキャンプに入るとテーブルに座ってガルードとフルアとユウがトランプをしていた。

既に2人はもうシャワーに入り終えた後のようだ。

シャルルとミイナの姿は見えないが、奥からいい匂いがするので竈で何か作業をしているのだろう。


「ただいまガルード。シャルルとミイナはどうしたの? 」

「シャルルとミイナはキッチンで夕飯を作ってる。もう少し時間がかかりそうだけどな。」

「そうなんだ。じゃあ僕は竃で2人を手伝ってこようかな。」


そう言いながら竃に歩いて行くとガルードに腕を掴まれる。


「お前はこっちだ。ユウが強いんだよ。ちょっと手伝え! 」

「負けない。」

「3人で飽きてきたところだしねー。夕飯まで付き合ってよ。」


特に断る理由もないので僕は3人のトランプに参戦することにした。

何をやっているのかと思ったら唯のババ抜きだったのだが、2人の言う通りユウは強かった。

ポーカーフェイスなのはもちろんのこと単純に運がいい。

そんなこんなでくだらない雑談を交えながらトランプをやっていると、シャルルとミイナが竃からこちらにご飯を運んでくる。


「皆ご飯できたよ。トランプ片付けて準備してねー。あッ、ハルト君も帰ってきたんだ! おかえりなさい。」

「ただいまシャルルとミイナちゃん。」

「美味しく出来たんだよ! いっぱい食べてねお兄ちゃん。」


エプロン姿の2人がお皿を運び始めたので僕らもトランプを中断し、2人の手伝いを始めた。


「今日のご飯はミイナちゃんが好きなハンバーグなんだ。」

「私も一緒に捏ねたんだよ! 」


よく見ると僕らのお皿のハンバーグの大きさがマチマチだった。

ガルードとユウのは大きくて僕とフルアとシャルルとミイナのは2人のに比べると小ぶりだ。

多分ガルードとユウのはミイナが作った物なのだろう。


「頑張ったな。だけどこんなに大きくしてちゃんと火が入ってるのか? 」

「うん、それは大丈夫だよ。私も確認したから。」

「それなら安心だな。」

「ちょっとお兄ちゃんそれはどういう意味? 」


不安そうに突っついてたガルードだったがシャルルの言葉を聞いて安心したようで、大きなハンバーグに切れ込みを入れて口にする。


「よく出来てるじゃんか。美味いぞミイナ。」

「えへへ、そうでしょ? ありがとうお兄ちゃん。」


確かに見た目は大きすぎて不安になるが、ガルードが切れ込みを入れた時の肉汁は美味しそうであった。

それを見て僕らも食べ始める。

僕のはシャルルが作ったであろうものなので当然ながらいつもの様に美味しかった。

食事を終え、皆で片付けているとフルアがミイナをジッと観察するように見ていた。


「そういえば、ミイナ今日はオシャレじゃん。どうしたの? 」


フルアのこの一言で気がつく。

確かにいつもの服装ではなく、初めて見る服装で髪に銀色の小さな髪留めがついている。


「可愛いでしょ? これは私の服をあげたんだー。髪留めはガルード君が作ってあげたんだよ。」


ミイナが嬉しそうに言うと、ガルードは知られたくなかったのか恥ずかしそうに視線を外に向ける。

何時もならそんなガルードを直ぐ様いじりそうなのだが、今回のフルアは羨ましそうにシャルルを見ていた。


「シャルルだけなんかズルい。じゃあ、私はユウに服プレゼントする! 」

「いいの? 」

「でも、フルアの服って大きすぎない? ユウは着れないでしょ。」


率直な感想を口にする僕。

女性にしては背が高いフルアにまだ成長途中のユウだ。

シャルルでもフルアの服は着れないと思うのに大丈夫なのかな?


「それなら私が調節するから大丈夫だよ。楽しみだなーフルアちゃんはどんな服をユウちゃんに上げるんだろ。」


料理だけじゃなくてそんな家庭的な特技があったんだシャルル。


「ユウ。服が貰えてよかったね! これでお揃いだよ。」

「嬉しい。」


盛り上がる女性陣。

蚊帳の外の僕達男性陣。


「それでケーキはどうなったんだ? 」


話に置いて行かれるのが嫌だったのか盛り上がる女性陣に水を差すガルード。

それにシャルルが優しく答える。


「えっと、まだケーキを固めてるから明日にならないと食べられないんだ。」

「ごめんねお兄ちゃん。明日になったらみんなで一緒に食べようよ! 」

「楽しみ。」


ミイナとシャルルの言葉を聞いてユウが嬉しそうに頷く。

どんなケーキなんだろうな。

僕も楽しみになってきた。

明日が待ち遠しい。


「それじゃあ、早速ユウ改造計画を始めましょうか。」

「ハルト君達はここで待っていてね。ああ、でも遅くなりそうだから先に寝ててもいいよ。」


みんなが女子テントに進む中、シャルルだけ僕らに振り返りそう言ってくれる。


「だってさガルード。何しようか? 」

「そうだな。なら俺らは魔法の練習でもするか? お前が魔法で俺の攻撃を防ぐ。まぁ、お前じゃ無理だろうけどな! 」

「言ったなこいつ! ならやってやろうじゃんか! 昨日の決着今つけようか! 」

「そういえばなんだかんだであやふやだったからな! やんぞコラ! 表出ろ! 」


僕らは笑いながら互いを煽りながら外に飛び出す。

その後僕らは2時間をめぐる死闘を繰り広げ、結果ガルードが勝った。

いや、確かに制限時間や攻撃回数は決めてなかった僕が悪いけど魔力さえ切れなかったら負けなかったのに。

当たるまで攻撃してくるんだもん。

普通に考えて僕が不利だった。

汚いガルード汚い。


「俺の勝ちだなハルト! 」

「ガルードズルいよ。僕だって最初全部防いでたじゃん。」

「最初防いでたって結果的に防ぎきらなかったら意味が無いんだよバーカ。」

「だからってただの遊びに魔力切れるまで攻撃してくるかな普通……。」


僕に攻撃を当てると決着が着いたと言わんばかりに近づいてくるガルード。

仕方ない悔しいがここは負けを認めよう。


「寝る前にいい運動になったな。魔力も限界まで使ったし、シャワー入って寝るとすっか。」

「次は負けないからねガルード。」

「おう、いつでもかかってこい。」


そうして僕らはベースキャンプへ戻ると、女子部屋に居たはずのみんながテーブルに集まっていた。


「おかえりなさいハルト君、ガルード君。ユウちゃんの服も完成したんだー。見てよほらっ。」

「素材がいいからね。思った以上に可愛くてさー。どうよ2人共! 」


シャルルとフルアが左右に避けるとそこにはいつもの黒いワンピースではないユウが現れた。

黒いマリンキャップに身体のラインが分かる位ぴっちりな暗めの赤いシャツにグレーのハーフパンツ。

おへそが大胆に露出していて、普段のユウの幼さやあどけなさにそこはかとないエロスが調和されている。

小さい子がちょっと背伸びしてる感じでいいと思う。


「本当に似合ってるねユウちゃん。すごくいいと思うよ。」

「ありがとう。」

「……なんか目がイヤラシイんだけど大丈夫かなシャル姉? 」

「大丈夫だと思うよ。ね、ハルト君? 」


あ、声は優しく微笑んでるのにどこか怖い笑顔のシャルルだ。

だから僕は手なんて出さないって。

全裸のユウ相手にも何もしなかった紳士な男の子なんだからね?


「しかし、ミイナとは随分正反対な服装だな。」

「うん。ミイナが可愛い系だったからね。同じだとつまらないと思ってちょっと小粋な感じにしてみたのよ。」


ガルードの言葉に自慢気に答えるフルア。

ユウ本人も無表情だがまんざらでは無い様子で嬉しそうなのだが少し目が虚ろだった。

軽く小さい欠伸をしている。


「もう夜も遅いし今日はお開きにしようか。2人はどうする? よかったら泊まって行きなよ。」

「いいじゃん! せっかくなんだから泊まって行きなよ。大体昨日も泊まっていけばよかったんだよ。」


ユウも眠そうだし、泊まっていくことを進めるとフルアがそれに賛同する。

でもその様子にミイナは少し戸惑っている。


「ねえ、ミイナちゃん。私達には遠慮しなくていいんだよ。だから、ミイナちゃんが思った事を言ってくれればいいの。」

「シャル姉……。ユウはどうしたい? 」

「お姉ちゃんに合わせる。」


不安そうにユウに聞くミイナだったが、ユウはいつもの様子で答えるだけだった。

それからミイナは何かを飲み込むように覚悟を決めると顔を上げた。


「私達ここに泊まりたい。」


その一言を聞くとフルアは勢い良くミイナを抱きかかえる。


「よく言った! じゃあ、お泊りパーティーしないとね! 」


お泊りパーティーは確かに楽しそうだ。

だけどもうユウはウトウトしているので早く寝かせてあげたい。


「もう寝る時間だって言ったじゃない! また今度にしてよ。ユウだって眠そうなんだよ。」

「大丈夫……。ふわぁ……。」

「大丈夫じゃないよ! 」


本格的に眠そうなユウ。

フルアもその様子を見てしぶしぶ了承する。


「ガルード。さっきから会話に参加してないけどミイナちゃんと一緒に寝なくていいの? 」

「馬鹿野郎俺にそんな趣味はない。大体あんなのが近くにいたら暑くて寝れないってーの。お前こそいいのかよユウと一緒に寝なくて。あ、それよりシャルルの方がいいか。」

「な、なにいってるんだよそんなことないって。」


隣にシャルルなんていたら眠れるものも眠れなくなっちゃうじゃないか。

そんなやりとりを無視して女子4人はテントに戻っていく。

そこから先は僕らには何があったのかわからないけど、きっと微笑ましく寝ているのだろう。

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