第36話 少女に振り回されるのも悪くない 09
護衛任務が終わって魔術陣を量産する必要が無くなった今、ユウにゆっくりと魔術を教えることが出来る。
流石に身体に刻印を刻むなんて真似は教えないけど。
シャルルとレッドデビルの戦場がいい感じに平たくなっているので練習には持って来いだ。
そして今はあの魔術陣と魔術陣の間を移動する魔術を教えているところだ。
それでたった今ユウは魔術陣を描き終わる。
「それじゃあ、さっき僕が川に用意した魔術陣まで移動してみよう。上手く出来ていたらちゃんと移動出来るはずだから。」
「境界と境界を繋げし魔の陣よ。今我の力にてその力を示せ。」
僕がユウに発動するようにお願いすると同時に詠唱を始めるユウ。
相変わらず行動が早い。
ユウが詠唱を終えると魔術陣が光輝き、その光が僕らを包み込む。
光が晴れると僕が描いた森の中にある川の魔術陣の上だった。
「おお、成功だよユウちゃん! やっぱり凄いね一発なんて。」
「当然。」
無表情でVサインを作るユウ。
最近分かったが結構お茶目な一面もある。
「あれ? ハルトにユウじゃん。突然現れてどうしたのさ。」
魔術陣で移動した先に川の岩場の上で座り込むフルアがいた。
「フルアこそどうしたの? ここに来るなんて珍しいね。」
その問いかけに欠伸をしながら答えるフルア。
「いや、暇だから散歩してたんだけど、本当に何もないからねー。フラフラしてたらここまで来ちゃったのよ。」
「それならフルアも一緒にまじゅ。」
「頭痛くなるからパス。」
フルアは僕が言い切る前に断り、岩から立ち上がるとユウの元へ歩いて行くと抱きついた。
「やっぱりあんた煙臭いね。一緒に水遊びでもしよっか? そうすれば匂いも落ちるし楽しいし一石二鳥じゃん。」
それを聞いたユウは僕を少し見つめ、やってもいいかと訴えかける。
それに僕は頷いて肯定するとフルアに一言やりたいと伝えた。
「よーし。じゃあちょっと待ってて面白い物を見せてあげるから。」
そう言うとフルアは服のまま濡れるのも気にせず川の中心に歩いて行く。
「はぁッ!! 」
川の中で何をするのかと思ったら突然拳を振りかぶり川を思いっきり殴りつけた。
水面は大きな音を立てて大量の水が空中に舞い上がる。
その中には大量の魚や水辺の生物達も一緒だ。
それをフルアは魚だけキャッチすると僕に手渡す。
なんともまあ釣り人真っ青な取り方である。
本当に狩りとかフルアがやったら直ぐなのに中々やってくれないんだもんな。
「はい。これあんた焼いておいて。お昼ごはんにするから。ちゃんと内蔵は抜いてよー。」
「わかったよ。僕らも食べていいんでしょ? 」
「当然でしょ。流石に私だけ食べる程意地汚くないって。」
「それじゃあユウちゃんフルアと遊んでおいで。魚は僕が焼いておくからさ。」
わかったと簡潔に答えたユウは服を脱ぎ始める。
「ちょっと何で服脱ぐのさ! この前人前で脱いじゃダメだって言ったのに! 」
「濡れちゃう。」
確かにそうだ。
濡れちゃうと風邪引くから濡れた服を着ちゃダメだとも言った。
「私を見なよユウ。ちょっと位大丈夫だって。それに遊び終わったら直ぐに私が背負ってギルドハウスに連れて行ってあげるから。」
確かにフルアは薄着とは言え服を着たままだ。
そしてその濡れた服から微かに下着が透けている。
この女性陣は貞操観念ってものがないのか……。
それとも僕の事を男だと思っていないのか。
多分後者だろう。
そんな風にフルアを見ていたからか、フルアが僕の視線に気がついてニヤニヤしながら近寄ってくる。
「何あんた、私の下着が透けてるからってそんなに見ないでよ。このむっつりスケベ。」
そう言うと笑いながらユウと一緒に川に戻っていく。
何やら2人で話していると思ったらユウはさっきのフルアの真似をして川を思いっきり殴りつける。
だけどさっきの様にいくはずもなく、ただバシャンと音を立てて少し水が打ち上がるだけだった。
「上手く出来ない。」
「そりゃそうだ。私だって素でやったらユウと同じ様にできないよ。魔法で強化しないと。」
「やりたい。」
ユウにお願いされてフルアは強化魔法をかける。
そしてもう一度水面を叩くと先ほどのフルアと同じように大きな水柱が出来上がった。
「できた。」
「おー凄いじゃん。それじゃあどっちが高くまで上げられるか勝負しよっか。」
「やる。」
そう言うと2人で交代で水面を叩き始めた。
僕は火に水がかからないように焚き火を始める。
すごいとかやるじゃんとか互いを褒めあって大変微笑ましい状況なのだがドンドン川の生物たちが陸へ打ち上げられていく。
「ストーップ! 二人ともそれ以上はダメ! 川の生き物達が大変な事になってる! 」
その声を聞いた2人は動きを止めて辺りを見回す。
「やっちゃったぜ。」
「大変。」
ユウはいつもの無表情で、フルアは頭を小突きながら舌を出して僕を見つめる。
「ほら、早く二人とも生き物を川に戻すよ! 早くしないと干上がっちゃう! 」
「はいはい。ちぇ、せっかく楽しく遊んでたのに。」
「わかった。」
そうして僕らはフルアとユウが打ち上げた生き物たちを川に戻していった。
しかし、沢山打ち上げたな。
早くしないと本当に死んじゃうぞ。
急いで川に戻していると、一際赤く輝く鶏の卵より一回り大きい石を見つけた。
濡れているので川の中で転がっていたようだ。
手に取って調べてみると途轍もない魔力を感じる。
見た目から魔石だと思ったがこんな魔力がある魔石なんてほとんど見たことがない。
そしてこの魔力、どこかで覚えがある。
そうだ、レッドデビルだ。
あいつ死に際に魔力を魔石に変換したのか。
そのまま処分するのも放置するのも危険だと判断し、僕はそっとポケットにしまい込む。
あんな奴でもこの魔力だ。
何かの役に立つかもしれない。
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