第35話 少女に振り回されるのも悪くはない 08

ガルード.side




「おいおい。もうちょっと落ち着いて踊れよ。流石に目が回ってきたぞ。ってなんだお前泣いてるのか? 」


俺を振り回しながら踊るミイナの目に一粒また一粒と涙が流れていく。


「え? あ、あはは。あれだよ煙が目に入っただけだって。」


笑いながら誤魔化し目元を拭くミイナ。

だけど生憎ここには風上だ。


「バーカ。こっちには煙来ないだろ。何で泣いてるんだよ。言ってみろって。」

「う、うん。あのね。今日一日本当に。本当に楽しかった。いや、お兄ちゃんたちと会ってからずっと。それで今日だけで凄い幸せだったの。……無理なのに。こんな幸せが、楽しい日々がずっと続けばいいのにって思ったら悲しくなっちゃって。」


口に出した事で今にもその楽しい時間が終わると思ったのか不安そうに俯くミイナ。

今まで親が死んで、ユウと2人で暮らしてたんだもんな。

この2人は魔法も使えないし、魔石もない。

この年頃でそんな2人っきりの生活とか考えただけでも辛い物がある。

こうやって遊んだりすることって無かったのだろう。

友達も作らず今まで生きることに必死だったに違いない。

そう言えば前にもこんな事があったっけ。

そうだ、ハルトとシャルルと一緒にギルドを作ろうと誘った時だ。


「俺たちがシラクネ村からメグリナリアに帰るからか? 何が無理なんだよ。そんなに楽しかったって言うなら俺達と一緒に来ればいいじゃん。ギルドに入れてやるよ。身寄りが無いんだろ? 」

「え、本当に? 」


その言葉が予想外だったのかミイナは目を丸くして俺を見つめるが、何かを悟った様に首を横に振る。


「ありがとうお兄ちゃん。でも、無理なんだ。そう言ってくれただけでも本当に嬉しい。それだけでお腹いっぱいだよ。」

「何が無理なんだよ。お前ら2人位なんとかなるって。気を使ってるなら気にすんな。」


まさか断られるとは思ってもみなかった。

俺が大丈夫だと説得しても、ミイナは憂いを帯びた表情でそれを受け止め断るだけだった。


「お兄ちゃんは優しいね。でも、この話はおしまい。今日はもう帰るね。ユウ帰るよー! 」

「わかった。」


ミイナはフルアと踊っているユウに声をかけ、他の皆に挨拶をして森の中に歩いて行く。


「お兄ちゃん達もうこの村から出るんだよね? それまで、それまでは私達とこうやって仲良くして欲しいな。」

「お、おう。当たり前だろ。また明日来いよ。」

「ありがとうお兄ちゃん。」


いつもと違った切ない笑顔で別れを告げるミイナ。

なんでだ。

そんな顔をするのなら俺たちと一緒に来ればいいのに。


「やーい。ガルード振られてやんの。」


その様子を見ていたフルアが俺を茶化しにやってくる。


「俺にそんな趣味はねえって。ただ、俺はあいつらにもう少し楽しんで欲しかったんだ。」

「私もあの2人を入れるのは賛成だったんだけどね。でも、孤児を次々ギルドに誘ってたらキリが無いからコレっきりにしなさいよ。」

「ああ、わかってる。俺だってコレが最後のつもりだった。」


最初はハルトとシャルル。

次はミイナとユウ。

それで終わりにしようと思ったのに。

俺たちと一緒にいるのが楽しいって言ったのになんで断ったんだミイナは。

あいつがそれを選んだのなら深入りしないほうがいいのかもしれない。

でもあいつは我慢していた。

何を我慢してるか知らないが、子供がそんな顔するんじゃねえよクソッ。


翌日、昨日の夜は何事も無かったかの様にいつもの笑顔で現れるミイナ。

そしてまたデートだと言い俺を外に連れ出す。

俺はまあ、あと少しの付き合いだし、その間だけでも楽しませてやろうと素直に使い合うことにする。


「お兄ちゃん今日は何をしようか? 」


弾んだ声でそう問いかけるミイナ。

そうだなーと腕を組んで考えるがふと気になった事があり聞いてみた。


「お前なんか煙臭くない? ちゃんと昨日身体や服洗ったか? 」


それを聞いたミイナは最初唖然としていたが、涙目になりながら顔を真っ赤にさせてペシペシと俺を叩いてくる。


「最低だよお兄ちゃん! お、女の子にそんなこと言うかな普通! 」

「ごめんごめん。だってお前何時も同じ服だし、普段は気にならないけど昨日はバーベキューだったからついさ。」

「私だって好きでこんな服着てる訳じゃ……。昨日だってしっかり水浴びしたのに。」


俯きながら小さく愚痴るミイナ。

そりゃそうだろう。

こいつだって年頃の女の子なんだ。

もっと色々オシャレや色んな服を着たいだろう。

化粧は……まだ早いな。


「それじゃあベースキャンプでシャワー浴びてこいよ。ついでに服も洗ってやる。」


この俺の言葉にミイナは恥ずかしそうに小さく答えた。


「服……。これしか無いの。」


マジかよ。

人より小さいシャルルでもこいつよりは大きいから服を貸りる事は出来ないし。

服なんて俺は作れない。

かと言ってこんな小さい村に服屋なんて無いしな。


「それじゃあ服が乾くまでギルドのテントにいろよ。それで俺のマントでも羽織って服乾くの待ってろ。」


そう言って気がつく。

これどこかで聞いたことがある流れだな。

ああ、そうか。

ハルトがユウを裸にした時の流れだ。

だが俺はあんな変態と違ってそんなことはしない。


「いいの? それじゃあお言葉に甘えさせて貰おうかな。」

「おう、うちのシャワーは特別製だぞ。水と火の魔石を合成したものだからな。直ぐ温まる。」


俺が作った特注品だからな。

ベースキャンプの隣にシャワールームを作っておいた。

フルアがうるさいからな。

3人くらいなら余裕で入る広さで設計してある。

いやー、出来てよかったエンチャット。

武器とかは作らないがこういった物にはお世話になっている。

フルアが使うと直ぐに魔力がなくなるけどな。

もっと節約しろって言ってるのに止めないんだからあいつ。


「それって危険じゃないの? 」

「危険だったら誰も使わないだろ。フルアかシャルルがギルドのテントにいるはずだから使い方は2人に聞いてくれ。」

「ありがとうお兄ちゃん。」


俺とミイナは今歩いて来た道を戻りだす。

その間、何時も手を繋いでくるミイナは俺と距離を取って歩いている。

臭うと言ったのが流石にショックだったようだ。

俺は別にそんなもん気にしないからいいんだけどな。

いや、手を繋ぎたかった訳じゃない。


「シャルルー!フルアー!いるかー!?」


ベースキャンプに到着した俺たちは、シャルルとフルアがいるか呼びかける。

すると奥からエプロン姿のシャルルが手をタオルで拭きながら現れた。


「どうしたのガルード君。ミイナちゃんと遊びに行ったんじゃないの? 」

「おう、ちょっとな。こいつが煙臭かったからシャワー使わせてやってくれ。」


そう言うとまたミイナが赤くなりながら俺の背中を叩いてくる。


「そうだよね。あんなにバーベキューしてキャンプファイヤーまでやったら当然だよ。こっちだよミイナちゃん。」


シャルルはそう言うとミイナの手を引いてシャワールームに案内していく。


「そういえばフルアとハルトはどうしたんだ? 」


2人がシャワールームに入る前に俺はシャルルを呼び止める。


「フルアちゃんは出かけてて、ハルト君はユウちゃんと魔術の練習してるよ。」


そうか。

まあ人数が少ない方が煩くなくていい。


「シャルルはエプロン姿で何してたんだ? 」

「うん。私は約束したケーキを作ってたんだー。まだ作り始めたばかりだけどね。」

「本当シャル姉!? やったー! 」


ミイナは喜びながらシャルルに飛びつき、それをシャルルは受け止め優しく頭を撫でる。


「ほら、ミイナ。シャワーを浴びたらこれ使えよ。」

「うん。ありがとうお兄ちゃん。」


俺はミイナに洗濯済みのマントをミイナに投げ、お礼を言い受け取るミイナ。

その光景を不思議そうに見つめるシャルル。


「え、なんでミイナちゃんはガルード君のマントを受け取るの? シャワー浴びるんだよね? 」

「ああ、こいつはそれしか服がないらしいんだ。だからついでに洗濯してやってくれ。その待ってる間だけそれを着てもらおうと思ってな。他のものじゃ代用できなかったから。」


少し考えるシャルルだが直ぐに納得してくれた。


「そっか。着るものがないんだ。そうだ! なら私が作ってあげるよ! 」

「そんなこと出来るのシャル姉? 」


シャルルの意外な言葉にミイナも驚きを隠せない。

確かに裁縫も上手かったけど、そんな一から服を作るなんてできるのか?


「うん。私のお下がりになっちゃうけどミイナちゃんが着れる様に調節してあげるね。」

「ありがとうシャル姉! うわー! どんな服だろう楽しみだなー。」


俺に臭うと言われて俯いたミイナはどこに行ったのかと言うぐらい、今日一番のハイテンションである。


「それじゃあ、早くシャワー入っちゃおうか。」

「あれ? そういえばシャル姉も入るの? 」

「うん。シャワーの説明にミイナちゃんの服も洗濯しないといけないし。ガルード君が洗うのも嫌でしょ?それなら私も一緒に入った方がいいかなって。」

「うん、それは絶対に嫌。わざわざゴメンねシャル姉。」

「気にしないで。私もシャワー浴びるの好きだからさ。」


さて、俺は女達の長風呂が終わるまでどうやって暇潰すかな。

飯でも作ってるか?

いや、シャルルが今作ってるみたいだからやめておこう。

そうだな。

シャルルは服を作るって言ってたから俺も代わりの物を何か作ってやるとするか。


「あー気持ちよかった! お兄ちゃん出たよ! ありがとう! 」


シャワールームから元気よく出てくるミイナ。

その姿は髪の毛が少し滴り何時もよりもペッタンコで何だか別人のようだ。

着るものが無いので当然だが俺が貸したマントを羽織っただけで、そんな元気よくいると素足以外にも色々見えそうで危ない。

見えた所でどうしたって話ではあるが。


「ちょっと待ってミイナちゃん。もっとしっかり髪の毛を拭かないと傷んじゃうよ。」

「大丈夫だよコレくらい。」


シャルルもいつものゆるふわヘアーじゃなくストレートになり、服装は先ほどと同じ服を着ている。

当然か。

まだどこにも出かけてないだろうし、着替える意味が無い。

しかし、風呂あがりでストレートだと普段よりもちょっと大人っぽく見える。


「ねえねえ、お兄ちゃん。シャル姉って脱いだら凄いんだよ! それにすっごくいい匂いなんだ! 」

「そっか、脱いだら凄いのか。それはハルトに教えてやれ。」


ハルトなら既に知ってそうな気もするが。

普段はローブ姿の事が多いからスタイルまではわからないよな。

子供っぽいと思ってたが意外と大人なんだな。

それでもフルアには勝てないだろうけど。


「ちょちょ、ちょっと何言ってるのミイナちゃん!? そんな事ないよ普通だよ普通! 」


ミイナがシャルルの個人情報を暴露したせいで風呂あがりな事もありほのかに赤かった顔が更に真っ赤になる。

そしてミイナがまた変なことを言わないように追いかけ回すシャルル。

その手から必死に逃げるミイナ。

だからその格好で暴れるなミイナ。

しかし、その走り回るミイナから完全に煙の匂いは落ちたみたいだな。

洗剤のいい匂いがベースキャンプに充満していく。


「もう、そんな子には服作って上げないよー。」

「えー! 嫌だよ! 作ってお願いシャル姉! 」


追いかけても捕まらないと判断したシャルルがそんな幼稚で意地悪な事を言い出し、今度はミイナが必死にシャルルに付きまとう。

シャルルはそれを受け止め、ミイナの額に人差し指を当てて、もう勝手にあんなこと言っちゃダメだよと注意した。

それをミイナが頷くと、シャルルは女子用テントで作業してくるねと表情を緩める。


「ゴメンお兄ちゃん。私も行ってきていい? シャル姉の裁縫見たい。」

「おう、行って来い。俺は適当に暇潰してるから気にすんな。」


俺の許しを得ると、ミイナは嬉しそうにシャルルのテントに飛び込んでいった。

あの格好で俺の側をうろちょろされても困るし、これは丁度よかったな。

そんじゃ、俺は作業も終わった事だし自分のテントで昼寝でもしようかね。

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