第34話 少女に振り回されるのも悪くない 07

「それじゃあシャルルの回復とクエスト完了を祝って! 乾杯!! 」

「乾杯ー! 」


猪と兎の解体が終わると、皆は解体が終わるのを待っていたかのように僕の周りに集まってくる。

ガルードはミイナと一緒に竈や、机、金網や串など結構しっかりした物を作っていた。

そして何より一番気になったのが、何故か一番拓けた場所にキャンプファイヤーが作られていた。

時間掛かった原因はコレだろ。

ミイナの身長よりデカイぞ。

よく薪をこんなに集めてきたな。

でもバーベキューにいらないよねこれ。


そしてガルードの準備した机に野菜やら飲み物を並べていくフルアとシャルル。

野菜は村の人に分けてもらったと言っていた。

飲み物は果汁を絞ってシロップで味を整えて作ったものとか。

ユウとミイナがいるから作ったらしい。

意外にもそういった気遣いするのかフルアも。

ユウもミイナも美味しそうに飲んでいる。


「開戦じゃー! 肉を並べろー! 」

「はーいお兄ちゃん! 」


すっかり仲良くなったなミイナとガルード。

二人ともハイテンションで肉を並べていく。


「あんたら肉だけじゃなくて野菜もしっかり食べなよ。せっかく貰ってきたんだし。」

「バーベキューの野菜って肉の脇役だけど無いとそれはそれで寂しい物があるよね。」

「なら、お前にやるよハルト。」


フルアが肉ばかり焼く2人に注意し、僕がそんな事を言うとガルードは僕のお皿に次々と野菜を乗せていく。


「まだ焼いていないのに乗せるなー! せめて焼いてから乗せてよ。」

「せっかくのバーベキューなんだから楽しく皆好きな物を食べようよ? たまにはいいんじゃないかな? 」


そんなやりとりを見たシャルルが楽しそうに微笑みながら言う。

その姿にフルアは諦めたように首を竦める。


「今日の主役がそう言うなら仕方ないか。」

「流石シャル姉いいこと言う! 」


それからは皆思い思いに肉を焼いていく。

塩コショウもいいけど、シャルルの用意してくれたタレも甘辛くて美味しい。

野菜に良く合う。


「焼き肉って何で大した事やってないのにこんなにも美味しいんだろうねー。これでお酒があったら最高なんだけどなー。」


皆満足そうに食べてる中1人だけ満足し足りなそうなフルア。

この村にはお酒があまりないらしく、手に入れることが出来なかったそうな。

うん? お酒か。

そういえばマワリルでお土産用に買った赤ワインがあったなそういえば。


「フルア、お土産用に買った赤ワインがあるけどどうする? 」

「飲む! 」


この村に来てから飲んでいないらしく目を輝かせて即答するフルア。

こんなんでよく我慢出来たな。


「一本しか無いから大事に飲んでよ? 」

「なんだ一本だけか。まぁいっか。有るだけよし。」


フルアはビンを開けるとそのまま飲み始める。

いや、お酒飲む人他に僕とガルードしか居ないからいいんだけどせめて少し女の子らしく飲んで欲しい。

僕もガルードも貴重なお酒をフルアからわざわざ貰おうとはしない。


「かっこいい。」


僕の隣で野菜を少しづつ食べているユウが小さくそう言った。

ユウにはそんな男らしい事を真似しないで欲しい。


「ユウちゃんはお肉食べないの? さっきから野菜ばかり食べてるけど。」

「野菜好き。」


焼いた野菜はもちろんのこと、人参やら生で食べられる物はそのまま食べてる。

本当に好きなようだ。


「そうなんだ。でもお肉も食べていいんだからね? 野菜ばかりじゃ飽きるでしょ? 」

「平気。」

「ユウは野菜が好きでね。本当は普段からいっぱい食べさせてあげたいんだけど中々無いから……。」


そのやりとりを見ていたミイナが申し訳なさそうに教えてくれた。

確かに肉と違って野菜は栽培してるものが多いから、お金が無いと手に入れにくい。

山菜や肉なら探せばあるもんな。


「そんなこと今は気にするなって。せっかくのパーティーなんだから楽しくやろうぜ。ほら、この内臓食ってみろよ美味いから。」

「えー、内蔵って美味しいの? 」

「おう。ボアファングのは特にな! 」


落ち込んでいるミイナを元気づけようとしたのか、ただ単にしんみりしたのが嫌だったのか話題を変えるガルード。

恐る恐る串焼きにした内蔵を口にするミイナ。

だが一口食べると勢い良く食べ始めた。


「本当だ。口の中で蕩けるみたいに食べやすいし美味しいね! 」

「そうだろ。臭みもシャルルが消してくれたからな特別美味いぞ。」

「大したことはしてないよ。香草と特性のタレに付けただけなんだから。」


その特性のタレが凄いと思うんだけど。

本当に料理に関して色々知っているなシャルル。

僕のご飯を毎日作って欲しい、って毎日作ってるか。

申し訳ない。


「はい、シャルルこっちのお肉も焼けたよ。ユウちゃんもお芋焼けたよ。」

「うん。ありがとうハルト君。」

「ありがとう。」


僕は大事に育てていたお肉をシャルルに野菜をユウに渡す。

二人とも嬉しそうに受け取ってくれる。

我ながらチョロいなと思いながらついまた渡したくなってしまう。


「甘い。」

「ユウちゃんは本当に甘いものが好きなんだね。今度何かお菓子作ってあげるね。」


そのユウの一言にシャルルがそんな事言うとミイナが飛んでくる。


「シャル姉私も食べたい! 」

「そんなに慌てなくても作ってあげるから安心して。ケーキとクッキーどっちがいいかな? 」

「ケーキ。」


こうやって話している3人を見ていると三姉妹みたいで微笑ましい物がある。


「いいよね。こういうの。」

「変態ね。」


3人を見ながらそう呟いたのをフルアに聞かれたようで何か勘違いされた。

皆で集まって食べるのがいいって言ったつもりだったのに。


「いやー、食ったな! 腹いっぱいだ! 」


バーベキューも落ち着き、今はガルードとミイナが用意した謎のキャンプファイヤーの前でのんびりしている。

なんで夜の火ってこんなにも綺麗で見ているだけで落ち着くんだろうか。


「そうだね。美味しかったからつい食べ過ぎちゃったよ。」

「ハルトなんだかんだ言って肉ばっかり食べてたよな? 優等生ぶった癖に。」


ガルードがニヤニヤしながら僕の片腹を肘で突っついてくる。


「うっ……。だってお肉が美味しかったからつい。残るのも勿体無いし。」

「そんなこと言っちゃって食べたかったんだろ肉が。」

「何2人で座りながら話してるの! まだまだ夜はこれからだよ! 」


ミイナは僕とガルードの手を引いて強制的に立たせる。

そして僕の手を離してガルードの手を両手で繋ぐとその場で踊りだす。


「お、おいなんだよ突然。」

「だってキャンプファイヤーが有るんだよ? なら踊らないとダメでしょ! ほら、シャル姉とフルア姉たちもやろうよ。」


謎のキャンプファイヤーはこのためだったのか。

ガルードの両手を掴んでぐるぐると回るミイナ。


「ほら、ミイナもああ言ってるからシャルルと踊ってきなよハルト。私はユウと踊るからさ。」


フルアが僕の背中を叩きながらユウの元に迎えに行く。

フルアが近づくと無言でユウは手を取りその場で踊りだす。

いや踊っていると言うよりはフルアがユウを振り回している様にしか見えない。

これで踊っていないのは僕とシャルルだけだ。

僕はシャルルの元へ向かうのが照れくさかったが、それを優しく笑顔で受け入れてくれるシャルル。


「シャルル一緒に踊らない? 」

「うん。もちろんだよ。嬉しいなーハルト君から誘ってもらえるなんて。いつもこういうのに参加しないんだもん。」


そう言って僕の手を取るシャルル。

そして辿々しいステップで踊り始める僕ら。

前を向くとシャルルと目が合い笑いかけるシャルル。

その笑顔が近くて恥ずかしくてつい目を逸らしてしまう。

その反応が初々しいからか今度はクスクスと声を出して笑うシャルル。

仕方ないじゃんか、好きな人と手を繋いで踊ってるだけで心臓がおかしくなりそうなんだから。

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