第32話 少女に振り回されるのも悪くはない 05

「えっと……。その時私何か言ってなかった? 」

「いいや、何も言ってなかったよ。」


嘘だよ。

好きだ、大好きだって聞こえた。

でもそれをシャルルが無かったことにしたいなら僕もそれに答える。

だって僕はシャルルの思うハルトじゃないのだから。

その好意を受ける資格がない。

あー! 個人的には今直ぐにでも告白したいけど!

なんだよその格好!

布団から顔だけ出すとか可愛いじゃんか!


「おーい。どんな感じよお二人さん。……何してるのシャルル? スノーマンの真似? 」


ちょっと空気が気まずくなりそうな時にタイミング良くフルアが戻ってきてくれた。


「えっと。フルアちゃんこれはね……。」

「まだちょっと混乱してるみたいなんだよ。」

「まだ目覚めたばかりだし仕方ないか。そうだ、そろそろお昼だからご飯でも買ってくるけどシャルルは食べれる? 」


フルアの問いかけにシャルルは少しお腹を見つめると、恥ずかしがりながら何か軽い物をと答えた。


「フルア僕も買いに行くよ。」


シャルルとこのまま二人っきりだと気まずくなりそうだし。

その申し出にフルアは微妙な反応を示したが、何か諦めた様に許可を出した。


「全く、あんたらにはがっかりだよ。それじゃあシャルルはユウと一緒にお留守番してもらえるかな? ごめんねハルトは腰抜けみたいだから。」

「わかった。任せてフルアちゃん。」


散々な言われようである。

いや、実際逃げてる訳だから仕方ないか。


「それじゃあ、ユウちゃんお願いね。シャルルも無理しないようにね。」

「うん、わかってる。大丈夫だよ。」

「ユウは何が食べたい? 」

「甘いの。」

「はははそっか、甘いのか! わかった買ってくるからね。」


ユウの答えに笑いながら出て行くフルア。

確かに無表情で甘いのと答えるユウは面白い物があった。

やっぱり歳相応の女の子なんだな。

っと、早くしないとフルアに置いて行かれちゃうな。


「それじゃあ行ってくるね。」

「うん。いってらっしゃいー。」


そういえばフルアと2人で買い物なんて初めてかもしれないな。

そんな事を思い追い付くと、不満そうな顔をしたフルアがそこにいた。


「私はとやかく言いたくないけど、あんたこのままだとシャルル別の人に取られても知らないからね。」

「な、何言ってるんだよ。僕とシャルルはそんな仲じゃないって。」

「ふーん。いいけどさ。距離が近すぎるのも問題だねー。」


その後僕とフルアは宿屋にあるレストランでお弁当を買うか、パン屋でパンを買うか話し合い、パンを買う事にした。

村人の話ではあのパン屋は本当に美味しいらしい。

中でもリンゴパイが美味しいとか。

きっとユウに買ったら喜ぶだろう。

その後は特に会話も無くなったので村を眺めて歩いているとふと木陰に気になる物を発見した。


「何やってるだあいつ。」

「うん? どうしたのハルト。あぁ、これはまた。」


僕らは木陰まで歩いて行き、気持ちよさそうに寝ている人物の頭を思いっきり撫で回した。


「痛ってえな! さっきも言ったろ撫でるならもっと優しく撫でろって。」

「お前も人の事言えないじゃないか! この前散々色々言った癖して! 」

「さっき? へー、ふーん。あんたシャルルが寝込んでるのに自分はこんな少女に介抱してもらってたんだ。」


俺はこの前の怒りをぶつけ、フルアはクズを見るような目で見ると流石のガルードも動揺している。


「いや、コレはミイナがやりたいって言って。」

「うん? あ、ごめんお兄ちゃん私寝ちゃってた。お兄ちゃん気持ちよかった? ってフルア姉に変態じゃんどうしたの? 」

「うん、その呼び方はやめようか。」


何故この子は僕に対して敵対心が強いのか。

大好きな妹が取られていると思われているのかな?


「そんで、お前ら2人はなんでこんな所にいるんだよ。」

「お昼ご飯を買いにパン屋までね。」

「あそこのパン屋って美味しいよねー! 私ももう一回食べたいよ。」


ミイナは既に食べたことがあるようで、その味を思い出し思わずヨダレが出そうになり慌てて口元を拭いた。


「そうそう、ロリコン二号に朗報だけどシャルルがさっき目覚めたよ。」

「なんだって!? 早くそれを教えろよ! それじゃあ、今夜はパーティーだな! 」


シャルルが目覚めた事を知り喜ぶガルード。


「パーティーって何するのお兄ちゃん? 」

「パーティーって言ったら焼き肉だろ! ハルト狩りに行くぞ手伝え! 」

「え、僕も行くの? 」


てっきり1人で行くのかと思ったのに。

僕は今からフルアと皆のお昼ご飯を買いに行く途中なのだから遠慮したい。

そうフルアに目線で合図を送る。

そうすると大きく頷いてくれた。

よかった伝わったみたいだ。


「わかった。全く男ってホント肉が大好きだよね。買い物は私に任せてハルトはガルードと一緒に狩りに行ってきな。大物じゃないとゆるさないからね! 」


全然伝わってなかった。

いや、どう考えてもフルアの方が狩りに向いているだろと物言いたげに見ていると、フルアは笑顔で親指を立ててきた。

こいつ、あれか。

面倒だから押し付けやがったな。


「おう、ついでに野菜とかバーベキューに必要な物も買ってきてくれ。」

「仕方ないな。ミイナはどうするよ? 」


フルアの問いかけに少し考えるミイナだったがお兄ちゃんについていくと笑顔で答えた。

これはこれは相当好かれているご様子で。


「そんじゃ、狩りは任せたよロリコンビ。最低二種類の肉は欲しいな。ノルマ二匹ね。」

「誰がロリコンビだ! 」


不名誉なコンビ名に思わずガルードとハモってしまった。


「どう考えてもこいつの方がロリコンだろ! 」


またしてもハモる。


「少女を裸にする犯罪者と一緒にしないでくれ。」

「いや、少女に介抱されるのもヤバイ人間だろ。」

「はっはっは、息ピッタリだねロリコンビ。それじゃあ、その調子で大物頼むよ! ミイナもこいつらサボらないように見張ってね。」

「うん。わかったフルア姉。」


僕らはフルアと別れると村の外れの森に移動した。


「今日の獲物は鳥と猪だ! わかったな野郎ども! 」

「おー! 」


よくわからないハイテンションぷりを見せるガルードと元気よく返事をするミイナ。

確かに頑張ってくれたシャルルには美味しい物を食べてもらいたい。

うん、僕も気合を入れていこう。


「そんで、狩りをする場所の検討はついているの? 」

「そんなものはない! ハルト! 魔術で探索するんだ! 」

「ガルードは僕を便利屋か何かと勘違いしてないか? 」


そんなことができたら苦労はしない。

そりゃ設置した魔術陣に獲物が入ると反応するものはあるけど、広範囲の索敵なんてできないって。

シャルルみたいな風魔法使いならできるだろうけど、僕には無理だ。


「ねぇ、あっちに兎が居るみたいだよ。」

「兎か……まあいいか。よし! そんじゃあっちに行くぞ! 」


ミイナが自然にそんな事を言うと、ガルードが直ぐ様そっちに向って歩き出す。


「え、そんなに適当に決めていいの? 」

「こういうのはノリが大事なんだよノリが! 」


せっかく気合を入れたというのに、真面目にやる気があるのかこの2人は……。

まぁ、でもまだ時間もあるし遊びながらでもいいのかな。

どうせやるなら楽しい方がいいし。


「ほら、お兄ちゃんあそこ。」

「どれどれ。お、ホントに居たよ。すげえなミイナ。」

「コレくらい楽勝だよ。」


ミイナが物陰に隠れながら自慢気に指差す方向に大きな3匹の兎がいた。

ええー、なんで分かったのこの子。


「そんじゃ捕まえるとするか。」


ガルードはそう呟くと石の檻で3匹の兎を囲った。


「ガルードの魔法って本当に便利だよなー。」

「何言ってるんだよお前だってこれくらい出来るだろ。」


言われて気がつく。

確かにグロウ・スフィルの位置を獲物に設定すれば閉じ込める事ができるな。

そういうえば、レッドデビルの時に同じような事やってたじゃん。

あの時は無我夢中だったけど。


「そっか、意外と何とかなるものだね。」

「それで捕まえた兎はどうするのお兄ちゃん? 」


ミイナに言われてナイフを取り出すガルード。

そのままトドメを指すのかと思ったが、そのナイフを僕に手渡してきた。


「ハルト。頼んだ。」

「ええ!? ガルードがやる流れだったじゃん! 嫌だよ鹿や猪ならともかく兎なんて。」

「俺はもうダメだ。目があってしまった……あのつぶらな瞳が……。」


さっきまでのテンションとは打って変わって凄い沈んでいるガルード。

そんな俺達のナイフのなすりつけ合いに嫌気がさしたのかミイナは呆れながらナイフを受け取り兎に近づいていく。


「な、お前に出来るのか!? あの可愛い小動物たちを……。」

「そんな馬鹿な事言ってたら何も始まらないよ。生きるためには仕方ない犠牲じゃんか。」


思ったよりもたくましい子だな……。

いや、よく考えたらユウと2人と生活してるんだもんな。

これくらい普通なのかも。


「よし、ミイナ隊員の頑張りにより一種類確保することに成功した。」

「ミイナの頑張りっていうかミイナだけだよね頑張ったの。」

「そう思うならお前も働いてよ変態。」


冷ややかな目で俺たちを見つめるミイナ。

いや、僕だけに向けているわこれ。


「こんな小さい子が頑張ったんだ。次は俺達の番だな! 」

「うん、頑張らないと。」


そろそろ僕に対するミイナの評価を上げておかないと……僕の心が折れそうだ。


「あっちに狸がいるみたいだよ。」


だからなんでわかるんだよ。

何か彼女だけがわかる事があるのかな?


「狸なんてそんなショボイ獲物は却下だ! もっと大物を狙う! 最低でも鹿か猪だ! 」

「さっき鹿じゃなくて鳥って言ってなかったっけ? 」


僕の主張を呆れた表情で返すガルード。


「おいおい、兎に鳥って。そんな小物ばかりじゃパーティーにならないだろうが。」

「つまんない男だな変態は。」


便乗して僕を罵倒するミイナ。

もうやめてこれ以上はいけない。


「わかった。そこまで言うなら僕も本気で狩りに行くよ。」

「お、言ったな?ならどっちが先に狩れるか競争しようぜ。」


面白くなってきたと勝負事が大好きなガルードが乗ってきた。


「いいよ。それじゃあ先にトドメをさした方が勝ちね。もちろん魔法じゃなくてナイフでね。」

「なんだよ。そんな事言われなくても卑怯な真似はしねえって。」


自信満々に胸を張りながら答えるガルード。


「何時ぞやのレースの時最低な事をしたのは誰だっけ? 確か目の前の男にそっくりだった気がするんだけど。」


その言葉を発した途端に俺から目を逸らして口笛を吹き始めるガルード。

露骨である。

釘を刺さなかったら絶対やってただろこれは。

遠距離攻撃の手段が無い俺には絶対に勝てない勝負になるところだった。

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