第30話 少女に振り回されるのも悪くはない 03
ガルード.side
「次はあそこに行こうよ! 」
「今度はなんだ? 」
ミイナが指さしたお店は屋台で出している置物屋だった。
木を掘り出して色々作っているみたいだ。
「ほう。なかなかいいチョイスじゃないか。」
村を歩いた時には無かったので初めて見る。
木造に関しては俺はさっぱりだからこういうのは新鮮だ。
よく見ると動物がメインで可愛らしい物も多いが魔物を象った男心くすぐる様な置物まである。
「なかなかやるな店主。」
「へ、へへ。俺にゃコレしかないからな。」
若いひょろ長な店主を褒めると照れくさそうに頭をかいた。
「素直に凄いって。頑張ればマワリルでも店出せると思うぞ。」
「いやー、口が美味いな旦那。マケるから好きなの買ってってくれよ。」
「お、悪いな。ってことだ何か気に入ったのがあったら買ってやるぞ。」
さっきからコレまた目を輝かせて見ているミイナに声をかける。
やっぱり女の子らしく動物が好きなようで、さっきから色々見比べているが小鳥を象った置物をチョイスした。
それをミイナに買ってやると大事そうに受け取る。
「お前鳥が好きなのか? 」
「うん! 鳥っていいよね。可愛いのに自由に空を飛び回ってさ。羨ましいよ。」
確かに空を飛ぶのって憧れるよな。
俺は飛んだことあるけど確かに気持ちがいいもんだ。
「なぁ、お前空飛べたらどうするよ。」
「突然どうしたの? そうだね。凄い感動するかな。私の憧れなの。空を自由に飛び回れたら世界が変わるんだろうな……。」
どことなく切なさを感じる顔つきで空を見上げるミイナ。
憧れているけどそんなの無理だってどこか諦めている顔だ。
その横顔を見ているとこっちまで哀愁漂う気分になる。
「そっかそっか。」
それなら叶えてやろうじゃんかその憧れを。
俺はポケットに入っている魔石を取り出し手と一緒に地面に押し当てる。
「我が想像の赴くままに創造せよ。クレアシオン。創造されし物、異物を受け入れ混ざり合え。生み出されるは世の理から外れる物。されどこの世は受け入れる。エヴォ・イグジス。」
俺は魔法で薄い鉄で出来た羽を作り、そこに取り出した風の魔石を合成する。
「突然どうしたのお兄ちゃん? そんな鉄の羽じゃ飛べないと思うよ。あ、唯のオブジェか。綺麗な羽だね! 」
「何言ってるんだよ。飛ぶ為に作ったに決まってるだろ。」
一瞬何を言ってるのか理解できないようだったが、直ぐにどうやらからかっていると判断したようだ。
でもミイナの顔は少し期待しているようにも見える。
「嘘だと思うならコレを背負ってみろよ。そうすればわかるから。」
「ホントに? それで嘘でしたーとか言ったら怒るからね。」
「せっかく人が好意でやってるのに。そんなに嫌がるんだったら俺が使うぞ。」
代わりに俺が背負うとするとミイナは慌ててそれを阻止する。
「お兄ちゃん私やる! やらせて! 」
「たく、初めからそう言えばいいんだよ。そんじゃ、羽に飛びたいってお願いしてみろ。」
「そんなのでいいの? 」
「ああ、とりあえず浮くことを考えろ。」
腑に落ちないミイナだが俺の真面目な顔を見て疑いながら目を瞑る。
「そのままでいい。浮きたいって念じろ。それでいいから」
「浮きたい……浮きたい……。」
小さく浮きたいと一言繰り返すミイナ。
10秒程しただろうか。
徐々に羽から風が放出されてミイナの身体は浮き上がっていく。
「おいミイナ。目開けてみいな。」
「ちょっと人の名前をダジャレに使わないでよ! って、お兄ちゃんどうしたの? 縮んだ? 」
「バーカよく見てみろって。」
「うわー! 凄い! 凄いよ! 私浮いてる! 」
最初は初めて空に浮いた衝撃で感動していたが、徐々に空中に固定される恐怖が押し寄せてようでじたばたと暴れ始めた。
「ちょっとこれどうやって降りるの!? 怖いよ! 地面に足が付かないのって凄い怖い! 助けてお兄ちゃん! 」
「あっはっはっは! 怖いだろ! すげー怖いんだよなそれ! 俺も最初すげー落ち着かなかったわ! 」
「ちょっと笑ってないで助けてよ! 」
手足をバタバタさせながら怒るミイナ。
すげーな空中でダダコネてる子供みたいだ。
いやー、子供をからかうのってやっぱり楽しい。
純粋だから直ぐダマされる。
まぁ、可哀想だからこれくらいにして本番行くか。
「そのままお前の行きたい方向に念じればいいんだよ。ほらやってみろ。」
「今直ぐ降りたい! 」
「ばっか! それじゃあ意味無いだろが! ほら上でも良いから自分が思うがままに指示しろって! 」
「じゃあ、ゆっくりあの大きな木まで連れて行って! 」
ミイナは直ぐ近くの大きな木を指さしながら叫んだ。
その声に反応して羽は大きく羽ばたくとゆっくりと木の天辺までミイナを連れて行く。
「おーい! どうだ空飛んだ気分は? 」
「確かに飛んだけどさっきの印象が強すぎてイマイチ感動出来ない。」
「なんだよせっかく夢叶えてやったのに。もっと自由に飛んでみろって。大丈夫危なくなったら助けてやるから。」
「わかった。」
最初はおっかなびっくり色々飛び回っていたミイナだったが、意外と自由に飛び回れる事を確認すると徐々にスピードを上げ始めた。
「おーい! 調子はどうだ? 」
「最高だよお兄ちゃん! 空を飛ぶってこんなに気持ちがいいんだね! 全身で風を感じるんだよー。」
喜んでもらえたようで何よりだ。
だけどその楽しい時間ももう終わりのようだけどな。
「よし、じゃあこっちに戻ってこい! もうそいつの魔力も無いから危ないぞ。」
「嫌だよ。だってこんなに気持ちがいいんだよ。私もっと飛びたい! 」
あのバカ。
ドンドン高く飛びやがって。
魔力が無くなったらそのまま墜落すると言うのに。
出力が下がるんじゃなくて急に魔力が切れるから早めに切り上げないとダメだと言うのに。
案の定空高い所でそのまま落下し始める。
「きゃあああああああああああ! 」
俺は急いで俺の下に岩の柱を作り出し、そのまま柱から飛び出してミイナを捕まえる。
そして今度はパラシュートを作りゆっくりと落下していった。
「きゃはははは。楽しかった! 」
「楽しかったじゃねえよ! もう少しで死ぬ所だったじゃねえか! 俺がいるからいいけど。」
ミイナを叱りつけるとミイナは反省することなく、俺の身体を思いっきり抱きしめる。
「お兄ちゃんが助けるって言ったから、絶対大丈夫だと思ってた。これで助けてくれるの二回目だね。」
くそ、そんな笑顔でそんな事言われたらこれ以上怒る気になれないじゃんか。
「そんで、どうだったよ憧れていた空を初めて飛んだ気分は? 」
「さっきから言ってるけど本当に最高だったよ。ありがとうお兄ちゃん。」
「そいつはよかった。それじゃあチンケな夢が叶ったんだから次は大きな夢を見つけろよ。」
「……もっと遠くまで飛べたら。」
「どうしたミイナ? 」
最後にミイナが何か言ったようだけど上手く聞こえなかった。
聞き返しても何でもないのお兄ちゃんと言っていつもの笑顔を見せるだけだ。
「そうだ。この事は内緒にしておいてくれ。」
「この事って空を飛んだこと? 」
「俺がそれを作った事だ。」
それが俺みたいな使いきりの不完全なものでも。
魔剣や魔道具を作れってうるさいに決まってる。
「うーん、お兄ちゃんがそれで困るなら黙っておくよ。」
「おう、ありがとうな。」
なんでこんな好感度を上げることをしてしまったのか。
気分を良くしたミイナが今度は腕に抱きついている。
歩きづらいし鬱陶しいったらありゃしない。
「お兄ちゃん今度は何しよっか? 」
「そうだな。」
ミイナの問いかけに答えようと思ったがつい我慢出来ず大きな欠伸が出てしまう。
「もうデート中に欠伸しないでよ。しょうが無いなー。それじゃあお昼寝しようか。」
「どこで寝るんだよ? 」
ギルドハウスから少し遠いし、皆いるからそんな所では昼寝はしたくない。
そんな事を思っているとミイナは木陰に俺を先導し座り込む。
まさか。
「はい、お兄ちゃん。ここ使っていいからね。ほら遠慮しないで。」
ミイナは自分の膝を指さしてから両手を広げて俺を待つ。
そんな恥ずかしい真似できるかと思ったが、さっきからあいつは俺を誂う為にやってるのではないか?
それなら1回その手は通じないと教えてやれば大人しくなるだろう。
「おう、じゃあ遠慮なく。」
俺はミイナの膝に遠慮無く頭を乗せる。
ミイナはそんな俺の頭に手を添えて軽く撫で始める。
「こういうのって憧れてたんだ。」
あれー?
反応が違う。
恥ずかしがる俺を誂ってるだけだと思ったが違ったようだ。
しかし思った以上に頭を撫でられるのって気持ちが良いな。
なんだろうさっきから男としての尊厳が凄い勢いで下がっている気がするが気のせいだろう。
「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはああやって不思議な物を作れるけど武器とか作ったりしないの? 」
「内緒だって言ったろ。まあ、ここだと誰も聞いて無さそうだからいいか。そうだな。作ってもいいんだよ実際。」
「なら何で作らないの? 」
「例えばその武器を人に売ったりするだろ? 多分高値で売れると思う。珍しいし需要が高いからな。だが、その武器が自分の手元から離れて何してるかなんてさっぱりわからないだろ。極端な話魔物じゃなくて人を殺す可能性だってある。直接関係なくても俺がその人を殺したも同然だろ? 自分の知らない所でそんな事が起きるなんて耐えられないからな。」
「ふーん。お兄ちゃんって優しいんだね。流石私の見込んだお兄ちゃんだよ。」
俺の答えが嬉しかったのかミイナは優しく撫でていた俺の頭をワチャワチャと強く撫で始めた。
「痛ってえな! 撫でるならもっと優しく撫でろよ。」
「あれぇ? 撫でるのはやめろって言わないんだ。」
ニヤニヤしながらミイナは優しく撫で始める。
しまった。
結構気持ちよかったからついあんなことを言ってしまった。
「お兄ちゃん寝てもいいからね? 元々そのつもりなんだし。」
「おう、じゃあお言葉に甘えさせて貰うわ。」
その後ミイナは何も言わず優しく頭を撫で続け、俺はその心地よさに意識を奪われていった。
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