第29話 少女に振り回されるのも悪くはない 02

ガルード.side



「お兄ちゃん元気ないよね。」

「あ?そんなことねえって。」


子供はそんなこと気にしなくていいんだよ。

俺はこの村での日課となっているオブジェ作りをしている。

任務も終わったし思ってたより早くこの村とお別れになるからな急がないとな。

まあ暇つぶしなのだからそんな必要はないのだけど。


「お兄ちゃん村人を避難させたり色々やってたじゃん。仕方ないって。」

「そうなんだけどな。なかなか割り切れないんだよこういうのは。」


俺がもっと早く現場に到着できれば2人はこんな無茶することなかった筈。

小さい、それも女の子に命を賭けるような真似をさせてしまった。

護衛任務なのだから魔物と戦うのは仕方ないが、あんな化け物がいるなんて予想外だった。

2人1組で組むべきだった。

いや、あの場にはシャルルとハルト2人で居たのだから関係ないか。

どうすればよかったのか頭の中で思考がぐるぐると回る。

でも収穫もあった。

あのハルトが己ガ魔力ノ理想武器ハイエストアームズを習得するとは思ってもみなかった。

上級魔法すら使えなかったのにな。

仲間の窮地で覚醒って格好いいじゃねーかハルト。

流石は元英雄フレーズってところか。


「もー。そんな辛気臭いと私もつまんないじゃんか。」

「なら別の所にいけばいいだろ。」


その一言が不味かった。

ミイナの表情が膨れ上がると俺の手を引いて村の方に歩き出す。


「お、おいどこ連れて行こうって言うんだよ。」

「デート。こんな同じ所にいるから悪いんだよ。だから一緒に行こ。」

「本当お前って勝手だよな。わかったわかったから手離せって。」

「デートなんだから手繋がないとダメでしょやっぱり! 」


眩しい笑顔で答えるミイナ。

だがコレは非常にマズイ。

ハルトじゃないがロリコンの烙印待ったなしだ。


「やめろー! 恋人ごっこに付き合うとは言ったがこんな所他人に見られてたまるかー! 」

「もう。こんな美人相手だからってそんなに恥ずかしがらなくてもいいよお兄ちゃん。」


俺はミイナに手を引かれるがままに村まで歩いてきた。


「そんで、この何もない村で何するんだよ。」


もうこうなったらどうにでもなれと開き直っている。

それがよかったのか村人には仲の良い兄妹と見られているようだ。


「何も無いって言ったってお店はやってるんだよ?買い物しようよ買い物! 」

「お金持ってるのか? 」


ミイナは笑顔で一瞬固まるが、何事も無かったかの様にお店に入っていく。


「ねえねえ、このパン美味しそうだよ! 」

「へえ、結構色々なパンが売ってるんだな。」


言っちゃ悪いがこんな田舎でここまで種類があるとは思わなかった。


「この村はリンゴが良く取れるんですよ。なのでジャムパンはもちろん、リンゴパイが美味しいですよ。」


俺達が商品を眺めていると店のおばさんが手のひらサイズのパイを薦めてくる。

それを聞いたミイナは目を輝かせた。


「ねえねえ! お兄ちゃんこのパイ食べたい! でもお金がないの……。」


落ち込んだ様に俯きながら上目使いで俺を見つめるミイナ。

ったく、そんなあざとい事しなくても買ってやるってーの。


「それくらい出してやるって。心配すんな。大人舐めんなよ。」

「毎度あり! 」

「わーい! ありがとうお兄ちゃん! 」

「それじゃあ俺は肉が入ったパンでも買うかな。見たこと無いし美味そうだ。」


パン屋を後にした俺達はパンを片手に、次の店を探している。

ミイナはリンゴパイを初めてお菓子を食べた子供の様に目を輝かせ幸せそうに食べている。

そんなに美味しいのかそのパイ。

確かにこのパン屋のパンは美味しい。

俺の食べている猪肉と香草のパンは、猪特有の臭みを香草で上手く消しているのがわかる。

多分パンにも同じような香草を練り込んでいるのだろう。

その上で肉の旨味も邪魔しないような香り付けになっている。

この村で開くには惜しいパン屋だ。


「なあ、そんなに美味しいのか? ちょっと一口食べさせてくれよ。」

「え、嫌だよ。だってこんなに美味しいのに。お兄ちゃんに上げたらその分ミイナの幸せが無くなっちゃうじゃん。」


本気で嫌がりパイを後ろに隠すミイナ。

こいつ……。

普段大人ぶってる癖にこういう所は見た目通りだな。


「それなら俺の幸せも分けてやろう。それなら平等だろ? 」

「お兄ちゃんのも確かに美味しそうだけど……。私の幸せには程遠いと思うの。だからその半分と一口交換することを主張します。」


等価交換ではなく自分の得するように交渉してくるなんて、なんて子供だ。

しかしながらミイナが美味しそうに食べるそのパイは一口食べてみたい。


「しかも今なら私の間接キス付きだよ? 」


ミイナは自分の唇に手を当てて流し目で俺を見てくる。

は、そんな色気で俺が釣られると思っているのか。

ハルトじゃあるまいし。


「その付加価値は俺の間接キスで相殺されるだろ。」

「うら若き乙女のキスと男のキスを一緒にしないでよ……。」


うわーと口に出しながらあからさまに引いているミイナ。


「まあ、でもいいぞ。その条件で交換しようじゃんか。」

「え、いいのお兄ちゃん? 」


俺が交換するのが予想外だったのか目を丸くして驚くミイナ。

初めから交換させないつもりだったのだろう。

でも、あんなに美味そうに食べていたら気になるじゃんか。

だけどもう一つ買う気にはなれないしな。


「はい。お兄ちゃん。あ、そうだ。私が食べさせてあげるよ! あーん! 」

「そこまでされる覚えはねえ! 自分で食べる! 」

「えー、なら私も一口でいいからあーんさせてよあーん! 」

「いや、半分やるから自分で食べさせろ! 」


こんな人前で、しかもこんな子供にあーんさせられるとか末代までの恥だ。

恥ずかしくてもう人前に歩けないわ!

顔を左右に動かしながら避ける俺にミイナは必死に食べさせようとする。

なんか素早く避けている様子は端から見たら一種のスポーツだなこれ。

いや少女と遊んでいる単なる間抜けな男か。

必死に避け続けていると観念したのかミイナは悔しそうに無言でパイを渡してきたので俺も半分パンを渡した。

もちろん食べてない方だ。

不満そうに受け取り食べるミイナだったが、これも予想外に美味しかったのか直ぐに機嫌が直った。

ちょろい奴だな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る