第27話 Highest Arms 08
「我は守る。全ての者を。我求む。その力! 顕現せよ! シルシャルマ!! 」
目の前の光珠が激しく光り輝き辺りを照らす。
空には陽が出ているのに眩しいと感じる程力強い光。
その光が収まると僕の左腕に十字を象る人が半分隠れる程大きな白銀の盾が現れた。
その盾は見たこともないのに、どこか安心し、古くから付き合ってきた友人の様にしっくりくる。
`
魔力を持つ者なら誰にでも使える可能性がある。
自分の魔力を全て武器に変え形成する人類の切り札。
身体と言う拘束具から解き放たれた魔力は凄まじく、上級魔法すらも凌駕する。
だけど自分の魔力を探りその力を外に出すことは難しく扱える人は殆ど居ない。
普通の魔法と違って魔力ではなく、魔力の核そのものを解放しないといけないのだから。
何故僕が使えたのか。
それは入れ替わる前に既に習得していたから。
さっきまで身体を受け入れていなかった僕には使えなかった。
でも受け入れた今なら使える。
やり方さえわかっていれば、要領さえ掴んでいれば後は核を探すだけ。
属性は違えど、やることは同じなのだから。
でもこの感覚だけは人に教える事はできない。
上手く伝えることができないんだ。
「ガヒャッハヒャヒャ!! 」
勝ちを確信したレッドデビルの不快な笑い声が響き渡る。
先ほど大量に使った僕の魔力は全快している。
消費し霧散した魔力もかき集め形成される。
僕はシルシャルマに思いを込める。
あの大きな火球を防ぎきれと。
シルシャルマが強く輝くと僕とシャルルの周りに光の半球を作り出す。
グロウ・スフィルと似た見た目だが、その強度は段違いだ。
あんなにも怖かったレッドデビルが今では小さく見える。
轟音を上げ火球が僕の光と衝突。
逃げている時よりも大きな音が辺りを響き渡り周囲を火の海に変える。
だけど僕らは無事だ。
僕らにはその高熱すらも届かない。
「ハル……くん? 」
後ろからさっきまで意識の無かったシャルルが僕を呼びかける。
轟音で意識が戻ったようだ。
「シャルル! 良かった意識が戻ったんだね! 」
「ハルくん……本当に、ハルくん? 」
だけどその声には力がない。
「ああ! 僕だよハルトだ! 」
「わぁ……ハルくんだ。来て、くれたんだ。うれしい……な。」
僕の姿を確認するとシャルルは僕に抱きついてきた。
いや、その表現はおかしい。
抱きしめる腕には力が入っておらず、ただ身体を預けているだけと言ったほうが正しい。
こんなに……こんなにボロボロになるまで頑張ってくれたんだ。
僕はそっとシャルルの手を握る。
その手も力なく、すっかり冷えきっている。
「ゆめ、じゃない、よね? 」
「あぁ! 僕はここにいる! 」
「あはは……ハル、くんは……いつも、わたしの、ピンチに、たすけてくれる……ね。わたしの……ヒーロー、だね。」
「ヒーローなんかじゃないよ。シャルル1人置いて逃げた臆病者だ! 」
「違うよ……だって、こうやって、来て、くれた。おくびょう、なんか……じゃない。」
「臆病者だ! 臆病で卑怯者だ! 」
もっと僕に勇気が、覚悟があればシャルルはこんな目に会わなかった。
この姿は僕がやったも同然だ。
そんな男がヒーローであるはずがない。
「そっか……じゃあ、おくびょうで、ひきょうな、わたしのヒーロー、だね。ありがと、わたしを、たすけに……きて、くれて。」
「お礼はいらない! 僕のせいなんだ! ごめん。本当にごめんシャルル! 」
「あやま、らないで。わたし、うれしいんだ。ハルくんが……やくそく、まもって……たすけに、きて、くれて。」
「もういい。もういいよ。シャルル! 喋らないでゆっくり休んで! 」
「ちいさいころも、そうだった、よね。わたしが、野犬に、おそわれたとき、みんな、いなくなった、とき、たすけて、くれた。」
「シャルル! お願いだから休んで! 」
「ねぇ、ハル、くん……。レッド、デビルは?」
「今必死に僕らを攻撃してるよ。でも大丈夫。絶対に守り切るから! 」
特大の火球を防がれた事で憤怒したレッドデビルは今度は光の膜を食い破ろうと必死に攻撃している。
あんなにも怖かったのに。
今ではもう唯の猿同然だ。
「はは……すごいなぁ。わたしは、あんなに……ひっしで、ダメ、だったのに……ハルくんは、かんたん、にふせい、じゃうんだ。」
「シャルルの方が凄いよ。僕らを逃して1人で戦ったんだから。そんな事中々できないよ。」
「だめ……だった、けどね。あんなに、こわくて、ふあん……だったのに。いまはもう、こわく……ないんだ。ハルくんが、いるから。」
「うん。だから後は僕に任せてゆっくり休んで! 」
頼むからもう喋らないでくれ。
シャルルが喋るそれだけで寿命を削っているんじゃないかと不安になる。
「だいじょうぶ、だよ。いたかった、からだも、いまは、なんとも、ない。」
「それは痛みで麻痺してるだけだって!」
「ねぇ……ハルくん。て、にぎって……ほしいな。」
さっきからずっと握りしめている。
この手を離したらシャルルがどこかに行ってしまうじゃないかと思って。
それがわからない位にもう身体に感覚がないのか。
「あぁ! 握ったよ! 今握りしめたから安心しろ! 」
「ほんとう?ありがとう……ハルくんは、やさしいね。」
そこでシャルルの会話が途切れる。
やっと休んでくれる。
安心した。
鼓動はある。
微かだがシャルルの小さい身体から僕の背中に伝わってくる。
力尽きた訳じゃない。
「すべての、かぜを……すべる、ふうじん、よ。われ、のよぶこえ、とどく、とき……いまいちど、そのちから、さずけ、たまえ。」
背中からシャルルの魔力が高まっていくのを感じる。
「ダメだって! そんな状態で魔力を……そんな強い魔法を唱えるなんて無茶だ! 本当に死んじゃうぞ! 」
「だめ……なの。」
「何がダメなんだよ! もう直ぐみんな到着するから! シャルルは休んでて! 」
「だめ……なの。ガルード、くんじゃ。フルア、ちゃんじゃ。たおせない……。」
「そんなのやってみないとわからないだろ! 僕もサポートする! 」
3人なら絶対勝てる!
シルシャルマを解放した僕ならレッドデビルの攻撃から2人を防ぎきる自信がある。
「そう、だね。たおせる、かも、しれない。でもいま、わたしなら、ハルくんが……まもって、くれるから……ぜったい、たおせるから。」
「それならフルアがシャルルを回復させてからでも!」
「だめ、だよ。だって……まっていたら、ハルくん、のまりょくが……なくな、るでしょ? 」
「そんなの気合でなんとかするから! 」
「ふふ……だったら、わたしも、きあい、でなんとか……するよ。」
「シャルルは休め!! いや、休んでくれ! 頼むから! 」
せっかくまだ生きているんだ! 助かるんだから!
自らその生命を捨てないでくれ! 命を賭けないで!
「そうだ! 戻ったら一緒に川に行こうって言ったろ!? どうするんだよその約束は! 」
「そうだった……たのしみ、だな。でも、ごめん……まもれないかも、しれない。」
そんなこと言わないでくれ。
ダメだなんて言わないで。
「はる、くん。すき、だよ……だいすき……。」
「あぁ!僕も大好きだ!だからそんな無茶はしないでくれ!」
心の底からそう思う。
本心だ。
リターンズウィンドで過ごした日々、今日の覚悟で僕はシャルルに惹かれていた。
僕を通して僕じゃない誰かを見ているなんてわかっている。
でもその好意を寄せ続けられ、こんなにボロボロになってまで誰かを庇うその姿を見てしまったら。
そんな素敵な少女好きにならないわけがない。
たまに怖い時があるがご愛嬌だ。
でもいくら僕が好意を伝えようと、それが彼女に届くことはない。
僕の言葉は別の誰かの言葉として、彼女に届くのだから。
失恋必須の恋だ。
でもだからこそ惚れた彼女を死なせたくない。
「好きだ! 好きだシャルル! 」
「ありが、とう……ハル、くん。うそ、でも、うれしいな。」
「嘘じゃない! だから」
「さよなら……だいすきなはるくん。」
シャルルの身体から魔力が一気に増幅する。
あぁ、もう止められない。
ならせめて見届けよう。
彼女の一撃を。
「ふうじんより、さずか、りしこの……ちから。すがたなき、むすう、ふうじん……まといし、たつまき、となれ。ふき、あれろ。トルタ、フィール……エク、リム……トルネ、リプス。」
僕らの前方、レッドデビルの後方に豪音轟かせながら大きな竜巻が出現する。
その竜巻は木々を斬り裂きドンドン肥大化する。
飲み込まれた物は跡形もなく消えていく。
これがシャルルの最大魔法。
「ギェ!? ガギャギャ!! 」
その様子を見たレッドデビルは竜巻に向って巨大な火球を打ち出すが、呆気無くかき消されてしまう。
防ぐのは無理だと悟るとレッドデビルはこの場から逃げ去ろうと竜巻とは別に大きく跳躍する。
「逃すか! シルシャルマ!!! 」
逃がさない。
シャルルをあれだけ攻撃していたぶって嘲笑ったんだ。
シャルルはずっとこの一撃の為に耐え続けたんだ。
そのシャルルの攻撃だけ逃げるなんて許す訳無いだろ!!
喰らえよ! シャルルの渾身の一撃!
シルシャルマがまた新たに光輝くとレッドデビルを光の球で包み込む。
内側からレッドデビルが暴れているが、そんな事ではビクともしない。
そして全てを切り裂く竜巻の中に飲まれるのを確認すると、魔法を解除する。
「ギュガアアグアア! ガアアアアあああああ!! 」
レッドデビルの不快な断末魔が森にシラクネ村に響き渡る。
シャルルの作った竜巻は徐々に勢いをなくし、そこに残ったのは竜巻が作った地面への爪跡だけだった。
「やった……のか? やった! やったぞシャルル!! 」
僕が呼びかけても反応がない。
でもまだ微かに鼓動を感じる。
「シャルル! シャルル! 」
無駄かもしれない。
でもこの呼びかけでシャルルが目を覚ますなら僕は呼び続けよう。
回復薬はもう無い。
「おいハルト! どうなった!? 」
「これまた凄い事になってるわね。」
僕は呼びかけることに必死で2人が到着したことに気が付かなかった。
「ガルード! フルア!! フルア! 早くシャルルを! 」
「どうしたのって。これは酷い……ごめん。ちょっと2人はどいてて! 」
フルアは急いでシャルルを治療する。
いつもとは違って真剣なフルア。
そんな姿は今まで見たことがない。
「大丈夫だよね。大丈夫だよねフルア! 」
「大丈夫! 私の全魔力にかけて絶対に助けるから! だから静かにしてて! 」
その様子を僕とガルードは黙って見ているしか無かった。
「何があったんだ。それにお前、その腕の盾はどうした? 」
「うん……これは。」
突然僕らを守り続けていたシルシャルマが砕け散ると全身の力が抜ける。
そのまま僕は白い光の中に意識が飲み込まれた。
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