第26話 Highest Arms 07

息を切らしながらシャルルとレッドデビルの戦場へ到着。

火柱が上がった後、轟音や魔法が何も無かった。

嫌な予感がする。

シャルルが上級魔法で更地にした地面はボコボコで、周りの木々も焼け落ちている。

その中心から少しズレた所に赤い影が動き、その赤い影から赤い影が浮き上がり地面を転がった。

その転がる赤い影から見える金色になびく物が見える。


「シャルル!! 」


間違いないあれはシャルルだ。

レッドデビルがシャルルを蹴り飛ばし甚振って遊んでいる。

間に合わなかったのか?

僕の呼び声で微かにシャルルの足元が動く。

良かった最悪の自体には間に合ったようだ。

そしてその呼び声で僕の存在に気がついたのか、レッドデビルがこちらに興味を移す。

新しい玩具を見つけた悪餓鬼の様に卑しく笑う。

そして僕が何故この場所に現れたのかわかっているのか、僕に目を向けたままシャルルに向って小さな火柱を走らせる。

おそらく下級魔法でも止められる威力の魔法。

でも瀕死のシャルルはそんな威力の魔法でも致命傷だ。

挑発しているのだ止められるものなら止めてみろと。


「させるかあああああああ! バレ・フレム! 」


僕はダメ元で入れ替わる前に使えた魔法を発動させようと試みる。

だけど結果は不発。

小さな火が手のひらから出るだけだ。

何でだよ……。

なんで使えないんだよ!

魔力はあるのに!

アイツは僕の魔法が使えたのに!


今後使える様になっても意味が無い……。

今この瞬間、この場所じゃないと。

僕がハルトじゃないから?

ハルトにならないとダメなのか?

なら……それでもいい。

もう戻れなくなっても。

僕がハルトの代わりになろう。

いや僕がハルトだ!

だから答えてくれハルトの身体!!!


その時、頭の中で歯車が噛み合うような気がした。

頭の中に知らない使ったこともないような魔法が浮かび上がる。

これがハルトの魔法?

僕はハルトの言っていた事を思い出す。


「俺の魔法じゃ誰にも勝てないんだよ!」


確かにその通りだ。

ハルトが使える魔法は全て防御魔法しかない。

防ぐ事しかできないのだから誰にも勝てない。

だけど今はそれだけで十分だ。

終わってみれば簡単な事だった。

何故魔法が上手く使えなかったのか。

アイツは僕の魔法が使えて、僕にアイツの魔法が使えなかったのか。

それは僕がハルトの身体を受け入れていなかったから。

僕が早く入れ替わった現実を受け入れていればシャルルがこんな目に会うことはなかったって事か。


「グロウ・スフィル!」


僕はシャルルへの謝罪と共に魔法を唱える。

光の円がシャルルを包み込み火柱から攻撃を防いだ。

僕は急いでシャルルに駆け寄った。。

酷い……。

右腕は普通ならありえない方向に曲がって、全身傷だらけだ。

服は血で真っ赤に染まり、身体は火傷で爛れ、地面にスレた所はズル剥けている。

全身激痛で耐えられない筈。

死んだほうがマシかもしれない。

でも、生きるのを投げ出さないで。

もう少しだけ頑張って。

今助けるから。

僕は持てるありったけの回復薬をシャルルにぶち撒ける。

シャルルの傷はゆっくりと塞がっていくが、折れた腕はそのままで、生気までは戻らない。

ここまで重症を負ってしまうと劣化品では気休めにしかならない。

僕が魔法を防いだのを見て、今度は火球を打ち出すレッドデビル。


「グロウ・シルド!!」


光の盾を僕とシャルルの前に作り出しそれも危うげなく防ぐ。

それを防いだのは予想外だったのか、レッドデビルは悔しそうに地団駄を踏みさっきまでより大きな火球を作り出す。

……マズイ。

これは上級魔法でないと防げない。

でも先ほど浮かんだ魔法に上級魔法らしき物はない。

せっかく魔法が使えるようになったのにコレで終わりなのか?


……。

いいや違う。

まだ手はある。

今この場所、この状況であれを防げる可能性。

ぶっつけ本番になるけど。

大丈夫。

今まで10回、何100回もやってきた事だ。


「グロウ・スフィル!! 」


魔法を唱える瞬間魔力が全身に通う。

感じ取るんだ。


「グロウ・シルド! 」


感じ取れ。

魔力の本流。


「プロテ・シェルグ! 」


感じ取るんだ。

僕の魔力がどこから生まれているのか。


「リヴェル・ベロスクード! 」


魔法を唱えるごとにどこから魔力が広がるのか徐々にわかってくる。

もう少し。

もう少しだ。


「聖なる光よ。我が脅威から守護する盾と成れ! 」


敵の魔法はこれだけ唱えても一向に弱まる気配がない。

そんな事はわかっている。

気にするだけ無駄だ。


「グロウ・スフィル! 」

「グロウ・シルド! 」


繰り返す。

唯愚直に魔法を唱え続ける。

何回唱えただろうか?

魔力がもう枯れそうになるがもう少しだ。


「母なる大地より湧き出る聖なる光。今壁となりて我を護り給え! 」


一瞬身体の奥に小さな光を感じる。

その小さな光から一瞬で全身に魔力が行き渡る感覚。

見つけた!掴んだ!もう逃さない!

これがハルトの魔力の源!


「我が魔力の根源よ! 今我が身離れ全ての力開放せよ! 」


僕の胸から純白に光り輝く大きな珠が現れる。

その光と共に頭に浮かんだ詠唱を僕は唱える。


「我は守る。全ての者を。我求む。その力! 顕現せよ! シルシャルマ!! 」

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