第22話 Highest Arms 03

「これでやっと一個目が完成か。ユウちゃんなんとなくわかった? 」

「わかった。」


制作に取り掛かって1時間。

僕が魔術陣を描く過程をユウに見てもらった。

この子にはこれだけで十分伝わる。


「それじゃあユウちゃんはコレを復習しながら作ってみて。僕は次の魔術陣を作るね。」

「覚えられない。」


むーっと口を膨らませるユウ。

さっき作った魔術陣はわかったって言ってたから、今から僕が作る魔術陣が覚えられないって事かな?


「大丈夫。今教えた魔術陣ができてたらしっかり教えてあげるからさ。」

「絶対。」

「わかってるわかってるって。」

「危ない。」

「え、何が? 」


魔術陣を描く為に屈んでいた僕はユウが言った危ないの一言で顔を上げる。

するとさっきまで僕の顔があった所を通過して何かが地面を抉った。


「流石ハル君。こっちに全く気がついて無かったのに避けるなんて凄いね。」

「シャルル!? なんでここに! 」


シャルルはガルードと一緒に拠点作成するはずだったのに何でここにいるんだ?

それに顔は笑顔なのになんていうか、目が全く笑っていない。

実際怖い。


「ハル君。何か私に隠し事してない? 例えばなんで今もユウちゃんと一緒にいるのかな? 」

「そ、それは昨日話しただろ? ユウちゃんに魔術を教えるたッめ……!? 」


僕の発言に割りこむように風の弾丸を僕の足元に打ち込むシャルル。

あのーシャルルさん?

これ手加減してないですよね。


「そうだね。確かに聞いたよ。ユウちゃんが魔術覚えたいんだよね。でも、その前にユウちゃんとしてた事あるよね?なんで教えてくれなかったのかな。」


ユウとしてた事……。

あぁ!水浴びの件か!

でもシャルルが怒るような事してないよね?


「確かにユウちゃんの水浴びを偶然覗いてしまったけどそれ以上の事はしてなッ」


今度は僕に直接風の弾丸を打ち込んできた。

間一髪の所をギリギリ回避すると後ろにあった木がメリメリという音が聞こえると共に僕の横を掠め倒れた。

昨日ガルードと揉めあった時僕を庇ったユウもシャルルの並ならぬ雰囲気に押されて何もできないでいる。

そりゃそうだ僕だって関わらなくていいなら関わりたくない。


「嘘だよ。だってガルード君にミイナちゃんが言ってたよ手とり足取り何かを教えようとしてたって。」

「魔術の話だよ教えようとしたのは。水浴びは関係ないんだって。」

「ならそう昨日言ってくれればよかったじゃない。なんで隠してたの? 」


詰め寄るシャルル。

普段の小さくて優しくて可愛いシャルルが嘘の様に迫力がある。


「それは言う必要が無いと思ったからだよ。ガルードやフルアに散々イジられた後だったから。」

「ねえ、ハル君。小さい子が好きって訳じゃないよね?前は子供嫌いって言ってたのにこうやってユウちゃんに魔術を教えてるのはなんで? 」

「ユウちゃんが強くなりたいって。だから教えて上げたんだ。」

「何で水浴びからそうなるの? 理解できないよ。それに護衛任務をほっぽり出して一緒に水浴びするなんて普通の人はしないと思うよ。」


順序がおかしいことになっているからこんがらがっているんだろうな……。

どうにか誤解を解きたいけど聞く耳持たないしどうしよう。

ふとその時、僕の視界の外。

森がガサゴソと動いた瞬間人影が僕、いやシャルルに向って飛び出した。


「シャルル!? 」


そう呼びかけると同時にシャルルは目線も向けずに手だけを音のする方向へ向け風の弾丸を打ち込む。

グギャアアと魔物特有の声と共に飛び出した木へ直撃し、煙を上げて徐々に消滅していく。


「今大事な話をしてるの。邪魔しないで。」


シャルルさん。

魔物だってわかって攻撃したんですよね?

一瞬の出来事で人が飛び出してきた様にしか見えなかったけど、手加減なんて一切ない。

ガルシアさんに攻撃した時よりも威力が高い気がするんですけど。

飛び出した魔物をよく見ると昨日の狼のような外見とは全く違う`キラーエイプ`だった。

猿の様な外見だが凶暴性、攻撃性が比べ物にならない。

そして厄介な事に他の魔物よりも知性が高い事でも知られている。

何より厄介なのが。


「来る。」


ユウがそう呟くと森から1匹また1匹と僕らに飛びかかってくる。

そう集団で行動するのがこいつらの特徴だ。

現状魔術陣以外にはシャルルしか対抗手段が無いので辛い戦いになる事間違いない。

それでもやるしか無いんだ。

接近戦は手足に刻んだ魔術刻印を発動しないとまず対抗出来ない。

それもごく短時間というハンデ付きだ。


「ハル君。小さい子に欲情するのは国で禁じられてるんだよ? 犯罪なの。私はハル君に犯罪者になって欲しくないから言ってるんだよ。」

「シャルル。わかった! わかったから! 今はこいつらを追い払う事を考えて。」


シャルルは僕の懇願を無言で受け止め、襲いかかるキラーエイプを一瞥する。


「……。そうだね。こんな状況じゃちゃんと話し合い出来ないもん。」


そう言うと両手を前に突き出し突風で魔物を森のなかへ吹き飛ばす。


「ハル君。30秒、いや20秒間引きつけて。」

「わ、わかった! 」


シャルルは胸の前で腕を組むと瞑想を始め呪文を唱える。

上級魔法の準備に取り掛かったようだ。

突風を抜けた1匹が今度はシャルルではなくユウに襲いかかる。

さっきはシャルル。

次はユウ。

キラーエイプは女子供を襲いかかるって言うのは本当のようだ。

僕はユウちゃんを引き寄せ地面に手を付ける。


「今はまだ虚ろな領域。なれどこの一瞬我らを守る光と成れ。」


魔術陣の円を中心に半球の光が僕らを包み込む。

飛びかかった魔物はその壁に阻まれると同時に後方へと弾け飛ぶ。

その隙を追撃するように僕は魔術刻印を起動し腰につけた剣を抜き、魔物の胴を切り裂き消滅させる。

流石に素早いキラーエイプも空中では身動きが取れずすんなり攻撃を当てる事が出来た。

刻印もほんの一瞬しか作動してないため反動もない。

シャルルが吹き飛ばした魔物も体制を整えるとシャルルとユウに襲いかかる。

シャルルは今詠唱中の為無防備だ。

僕が2人を守らないと。


「我が領域を侵す者。今大地の鎖にて。捕縛し三っつの裁きを下そう。一領域に秘められし業火にて。二地より出ずる茨にて。三天より舞い降りる雷にて。」


ユウは自分に向かってきた魔物を覚えたての魔術陣で対処する。

最初は魔術陣から伸びる鎖を引き千切ろうと暴れていたがなんとか最後の攻撃で倒す事ができた。

よかった。

このクラスの魔物なら有利に戦える。

魔物の数は多いが準備した魔術陣で時間稼ぎ位は事足りそうだ。

ユウの方も魔術陣があるうちは大丈夫だろう。

しかし実践でも難なく使いこなしているな。

僕はシャルルを庇う事に専念する。


「ハル君私の近くに! ユウちゃんも! 」

「了解! 」

「わかった。」


シャルルと魔物の間を遮るように立ってた僕は慌ててシャルルの足元に飛び込む。

飛び込むと同時に僕らの周りを突風が吹き抜ける。

その突風が徐々に音を上げ周りにいる魔物を木々ごと斬り裂き広がる様子は、まるで風のバリアに守られているみたいだ。


「今全てを飲み込み蓄えしその力。解き放ち全ての敵を殲滅せよ! フラメ・ソニトラ・フレシオン! 」


シャルルが詠唱を唱えると風のバリアが一気に弾け周囲を囲んでいた魔物と木々を跡形もなく吹き飛ばした。

何も知らない人が見たら爆心地と見間違えるんじゃないかって位何もない更地だ。

詠唱に時間が掛かるだけあって凄まじい威力だ。

護衛対象である門も抉れてしまっている。

幸い村には被害はない。

しかしシャルルが上級魔法を使えると思わなかった。

もしかしてこのギルドは皆上級魔法を使えるのかな?


「これで話の続きができるねハル君。」


あれだけの魔法を使ったのに何事も無く話を再開するシャルル。

でも流れが途切れた今がチャンスだ。


「ごめんシャルル。一旦僕の話を聞いてもらえるかな? 」

「私こそゴメン。そうだよね。ハルト君の話も聞かないで。」


シャルルも魔物との戦闘や上級魔法を唱えた事で少し気持ちが落ち着いたのかもしれない。

さっきまでは一方的に詰め寄ってきたのに今は僕の話を聞いてくれる余裕が出来ている。


「ええっと、まず昨日ちょっと汗をかいたから水浴びしに行ったんだよ。そうしたらそこにユウがいたんだ。服を洗濯していて濡れていたから僕の服を代わりに来てもらったんだ。そうしたらガルードやミイナが面白がってからかってくるんだよ。」


僕の言葉に顎に手を当てて少し考えこむシャルル。


「最近のハルト君を見てるとあり得ない話じゃないね。確かに揺れた服を来て木陰に居たら風引いちゃうし。それで、なんで魔術を教える事になったのかな? 」

「それはさっきも言ったけどユウが強くなりたいって言ったんだ。今までミイナと2人で暮らしていて、ミイナに迷惑をかけてるからって。」


本当は一言強くなりたいとしか言ってなかったけど、僕の解釈を付け足しておいた。

それを聞いたシャルルはユウをギュッと抱きしめる。


「ユウちゃん偉い! 偉いよ! そうだよね。助けられてばかりじゃ辛いもんね。私は魔術の事はよくわからないけど教えて欲しい事があったら何でも聞いていいからね。」

「わかった。」


強く抱きしめられてちょっと苦しそうに頷くユウ。

ようやく収まる。

そう思った時。

上空から地面を抉りながら1匹のキラーエイプが着地する。

そのキラーエイプは先ほど襲いかかってきたモノよりも一回り、いや二回り程大きく全身が焔色に輝いている。

キラーエイプは集団で行動し、集団には当然長がいる。

だからってそんなこんな時に普段滅多に遭遇しない魔物が来るなんて。


「最悪だ……。」

「レッドデビル……だよね。」


シャルルはユウを抱きしめたまま。

僕はポケットに入っている無線伝達を素早く取り出し、ガルードに救援要請を出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る