第14話 初めての遠征と不思議な姉妹 03
マワリルからシラクネ村に向かうには、大きな山道を超えなければならない。
魔物からの防衛依頼ということもあって、道中で魔物に遭遇することを考えて居たのだが杞憂に終わりそうだ。
「そろそろ日が暮れるな。暗くなって森が見えなくなる前に明かりを付けておこう。ハルト、
魔石はあるよな? 」
松明でもいいのだけれど、より明るく魔力が尽きるまで消えることのない光の魔石を持ってきている。
冒険者の便利アイテムだ。
だけど光に寄って魔物が引き寄せられる事もあるから一長一短だ。
どちらがいいかと言われればまだ、光の有る方が安心できる。
「当たり前だよ。そうだね。明かりがあるとは言え、視界が狭まるから警戒していこう。」
「不意打ちでいきなり致命傷なんて嫌だもんね。」
そんなことを話していたからだろうか。
静かだった山に物音が響き渡る。
何かが走り抜ける音だ。
「なんだろう? 動物が走ってるだけかな? 」
シャルルが少し怯えて皆に質問する。
おそらく魔物ではないことを確認して安心したいのだろう。
「ちょっとわからないね。どうする? 一応安全を確認した方がいいんじゃない? ちょっと見に行ってこようか? 」
「無理に危険な所に行かなくてもいいんじゃないかな? このまま進もうよ。」
フルアが様子を見に行こうとするがシャルルは呼び止める。
わざわざ危険を冒したくないようだ。
だけどガルードと僕はフルアに同意した。
「いや、様子を見に行く。もし魔物だったらここで処理しておきたい。」
「僕もそれに賛成だね。大丈夫、僕とガルードが先行するから2人は援護をお願い。」
フルアは僕らを交互にみて僕らが先行する事に渋々了承する。
「はぁ、止めたって無駄そうだね。2人で残るより皆で行動した方が安全だろうから仕方なく付いて行ってあげるよ。」
「で、でも無理はダメだよ?危なかったら直ぐに逃げようね。私とフルアちゃんの魔法があれば逃げられるんだから。」
「ガルシアのおっさんからは逃げられなかったけどな。」
「ほらガルード笑ってないで行くよ。その時は頼りにしてるからねシャルル、フルア」
「高く付くからね。」
「マワリルのワインでいい? 」
「最高ッ! 」
話し合いが終わるとガルードが先頭に立ち、その後ろに僕、フルア、シャルルと並んで木々を掻い潜りながら進んでいく。
「皆静かに。やっぱり魔物がいた。」
ガルードが皆を静止し、息を潜める。
ガルードの視界の先、木々が拓けた場所には5,6匹の獣型の魔物が何かを囲っていた。
「フルア! 強化魔法頼む早く! 」
静かにと言った筈のガルードが突然大声で叫び魔物の群れに飛び込んだ。
その表情には焦りが見える。
「おい! 1人じゃ危ないって! 」
大声で飛び出したから奇襲も何もあったもんじゃない。
魔物が一斉にガルードを睨みつける。
だけど、何でガルードがそんな無茶をしたのか直ぐにわかった。
魔物が囲っていたのは2人の少女だった。
今にも襲われそうだったので、魔物の注目を集める為に飛び込んでいったようだ。
フルアもそれに気がついたようで慌ててガルードと僕に強化魔法をかける。
「おら! こっちに来い !ぶっ飛ばしてやるよ! 」
「無茶すんなガルード! 」
距離を詰めるガルードに反応して魔物全員が一斉に飛びかかってくる。
ガルードは先頭の魔物を大斧で叩き割る。
悲痛な悲鳴とともに消滅する魔物。
だが仲間がやられたのに怯むこと無く次々とガルードに飛びかかる魔物達。
「ディメンション・スパイク! 」
ガルードが魔法を唱えると自身を中心に石の針が一斉に飛び出した。
既に跳びかかっている魔物達はそのまま磔にされる。
それでもまだ消滅せずもがいていた魔物は俺とフルアで止めを指す。
「大丈夫かお嬢さん? 」
「うん。ありがとうお兄ちゃん達。」
魔物が居なくなったからだろうか、笑顔で感謝をする肩くらいまで伸びた金髪の古ぼけて灰色になったワンピースを着た少女。
10歳くらいだろうか?
結構幼い少女だ。
普通この子みたいな少女は魔物に襲われた恐怖から抜け出せないと思うけど肝が座ってるなー。
もう1人の古く黒いワンピースを着た長髪銀髪の綺麗な子は怖かったのか反応がない。
どこか儚げで独特な雰囲気がある不思議な少女だ。
「大丈夫? もう魔物は居ないから安心してね。」
「平気。」
「ごめんなさい。ユウは人見知りなんだ。だから無愛想でも許してね。」
僕の呼びかけにそっけなく返す銀髪の少女。
それを聞いた金髪の少女が僕に教えてくれた。
「えっと2人だけかな? 他に誰か居ないの? 」
シャルルは屈んで2人に目線を合わせて質問する。
「うん。この先の村に行く予定だったの。でも途中に魔物に襲われてお兄さんお姉さんが助けてくれたんだ! 」
「全く。こんな時間に子供だけで歩くなんて危険だよ。親は何をしているのか。」
フルアは呆れていると金髪の少女は少し戸惑いながら小さく答えた。
「お父さんお母さんは……いないんだ。大分前に。」
「ご、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ! 」
慌ててフォローに入るフルア。
そんな少女を見てシャルルが優しく抱きしめる。
「そうなんだ。辛いよね。私も親が居ないからわかるよ。」
「お姉ちゃんも? 」
「うん。でも今はこうやって皆がいるから大丈夫。えっとあなたの名前は? 」
皆がいるから大丈夫と言ったシャルルの笑顔に釣られる様に笑顔が戻る少女。
「ミイナ。ミイナだよ。」
「いい名前だねミイナちゃん。」
「そんな顔するなよミイナ。生きてりゃ楽しいこと一杯あるからさ。とりあえずこんな所で話してもあれだ。いつ魔物が襲ってくるかわからないから早く村に行こう。丁度目的地は同じみたいだからな。」
そのやりとりを見ていたガルードが話に割って入り、先に行こうと促す。
確かにのんびりしている場合ではないね。
それを聞いたミイナは少し驚いた様子で僕らに言った。
「え、一緒に行ってもいいの? 」
「当たり前でしょ!こんな所に女の子2人放置するほうがありえないって。大丈夫心配しないで私達強いから。さっきも見たでしょ? 」
「でもお邪魔になるし……。」
フルアが一緒に行こうと誘ってもどこか遠慮しているミイナ。
何か事情があるのかな?
「子供なんだからもっと大人に甘えていいんだぞ? 遠慮すんな。」
そのガルードの一言でミイナは笑顔で戸惑いながらもお礼を言った。
「ありがとうお兄ちゃん。よろしくお願いします。」
ミイナとユウを連れて山道を進む僕ら。
2人と出会った一件から再び魔物と遭遇することはなかった。
明るく僕らと話しているミイナに、その隣で無表情のユウ。
全く対象的な2人だが、仲が良く一緒に手を繋いで僕らの隣を歩いている。
「お兄ちゃんお姉ちゃん送ってくれてありがとう。ミイナとユウはここでお別れだよ。」
「おう、もうお前ら2人で出歩くんじゃないぞ。」
「こちらこそ楽しかったよミイナちゃんにユウちゃん。気をつけて帰ってねー。」
村が見えると、僕らにお辞儀をしてから元気に手を振るミイナに無表情で軽く手を振るユウ。
どちらも可愛らしい姿で微笑ましくなる。
「ミイナちゃんは元気な笑顔で、ユウちゃんはお人形みたいで可愛かったねフルアちゃん。」
「そうだね。あんな子が妹にいたら楽しいだろうし、1人欲しいくらいだよ。」
シャルルとフルアがキャッキャと楽しそうに話し合っている。
確かに可愛らしい2人だったけど。
僕はあの魔物に囲まれてた事を思い出す。
「本当。助けられてよかった……。ガルードが飛び出さなかったら怪我だけじゃ済まなかったかもしれないね。」
「もう考えてる余裕無かったからな。無事助けられてよかった。また会いたいならこの村に住んでるみたいだしその辺歩いてたら会えるだろ。」
「そうだよね。また会えたらいいなー。」
フルアが2人の少女を思い出して惚けながらそう言った。
まあ、会う機会なんてここに居る間はいくらでも有るだろう。
「そんじゃ俺たちも依頼主の村長のところへ行くとするか。」
村に入り、一番最初に見つけた人に道を尋ねると快く村長の元へ案内してくれた。
ここまで来る人はなかなか珍しいようで村を歩く人々に歓迎される。
「中々活気のある村ですね。」
僕は率直な感想を村長に告げる。
「こんな何もない村ですからの。自慢の村人達ですじゃ。」
「そんで、今まで魔物に襲われたりしたのか?見たところ平和そうに見えるんだが。」
「辺りは森に囲まれているが、魔物が村に来るなんて事は滅多に無いのう。」
ガルードが不思議そうに質問するが村長の答えはどうも要領を得ない。
確かに魔物が住む森だとしても魔物は縄張りに居座る為、わざわざ人の多い村を襲うなんて事はない。
「それなら護衛なんていらないんじゃないの? なんでまた依頼を出したのさ。」
だけどフルアの言葉に表情が陰る村長。
「シラクネ村の隣町、コニ村をご存知ですかな? 」
村長の質問にシャルルは頭を捻りながら答える。
「えっと、この村と同じくらい小さな村……かな? よく覚えてないよ。」
「その通りだよシャルル。その村がどうかしたんですか? 」
「実はの……。その村は魔物に襲われてしまったのじゃ。」
「それは災難だったわね。」
稀に今村長が言うように逸れた魔物に村が襲われるケースもある。
「だからこの村も襲われるかもしれないから護衛して欲しいって訳だな。」
大筋は理解したとガルードは答えるが、村長はどこか歯切れが悪い。
「それだけならよかったのじゃがのう……。この周辺の村が次々襲われているんじゃ。皆殺しじゃ。じゃが、子供の遺体だけは何故か見つかることがないって話じゃ。」
「つまりこの村も直に襲われるかもって事? 」
確かにそれだけ被害が出てるとなるとシラクネ村だけ無被害だと考えるのは楽観視しすぎている。
「だからこうして僕達を呼んだって訳だ。でも村を襲って移動してるって事は集団って事だよね。」
不安そうに答える僕だがガルードは余裕そうだ。
「問題ないだろ前も言ったけどこんな小さな村ばかり襲う魔物だ。村に魔物を退治できるような手練が居なかっただけだろ。」
ガルードの言葉に村長も少し納得がいったようで。
「ふむ、確かに力を持った者がおるとは聞いた事ないのう。なら貴方方が居てくれるなら安心ですじゃ。」
「つまり僕らが原因となる魔物を倒したら護衛も終わりって事でいいですか? 」
「そうじゃのう。もう守ってもらう必要がないってことじゃから、それでいいじゃろう。」
「そんで、その魔物とやらが現れない場合は契約通り1か月護衛するって事だな。さっさと出て来ると助かるな。」
「宿の方には話を付けてあるので貴方方はそこで寝泊まりしてくださいな。何か困ったことがあれば儂に声をかけてくれれば対応しますじゃ。」
こうして村長に宿を案内してもらいシラクネ村での生活が始まる。
案内してもらった宿はレストランと兼用でお世辞にも綺麗なとは言いがたいが、温かみを感じられる。
他に宿の利用者も居ないのでほぼ貸し切り状態。
魔物さえ出なかったらちょっとした息抜きになったかもしれないので残念だ。
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