第15話 初めての遠征と不思議な姉妹 04

シラクネ村に到着した翌日。

魔物もまだ村には現れていないとのことだが念には念を入れて、昼と夜で警護することになった。

村全域を4人で守る事は出来るのだが、全員が不眠不休が前提だ。

流石に無理があるので、村の入口にベースキャンプを張らせてもらい僕らの拠点にして、もう1人が村の外れを警備する事になった。

昼に警護するのは僕とシャルル。

シャルルはベースキャンプに残ってもらい、僕が村の外れを警護する事になった。

その間、ガルードとフルアは自由時間だ。

そして夜に護衛するのがガルードとフルアで、僕らは自由時間。

自由時間と言っても寝ることになるだろうけど。

休憩している2人にも連絡できるように全員が音の魔石を加工して作られた無線伝達を常備。

どんなに離れていても魔力を解放すれば、魔力を通した石の音を対になる石に伝える事ができる優れ物だ。

ガルードは小さな村を襲う魔物くらい余裕だって言ってたけど、それはガルード個人の話だ。

いや実際フルアやシャルルも大丈夫なのだろうけど、僕は別だ。

この前ミイナ達を襲った魔物達ですら危うい所だろう。

もっとこの身体に慣れて、せめて魔法をまともに使える位にならないと。

魔術や薬で誤魔化すのも限界があるし。

とりあえず、今できる事をやろう。

僕が警護する場所をしっかり守れるように罠でも仕掛けておこうか。

早速作業に取り掛かろう。

時間が掛かってもいいから丁寧にしっかり描かないとね。


「ふぅ。今日はこの辺で終わろうかな。」


拘束系魔術陣を3つほど作ったところで終了。

少し大掛かりな物になったので時間がかかってしまった。

魔術陣に魔力が強いモノが入ると反応する察知型と捕縛型を2個作った。

察知型は反応があると腕に刻んだ魔術刻印が反応する様になっているので遠くにいても直ぐにわかる。

今後もドンドン増やして行こう。


「汗もかいたし少し水浴びでもしよう。戻ったらフルアやガルードに汗臭いとか言われそうだしな。」


村の近くには川が流れている。

そこで生活に必要な水を汲んで使うって村人が言っていた。

上流に行けば魚もいっぱいいるらしい。

暇があれば釣りがしたいな。

でも魔物が出たりしないのかな?

まぁ、出たとしてもなんとかなるだろう。

今は水浴びだ。

冒険者必須の水の魔石を加工して作られた水筒を使えば水に困ることはないのだけれど、やっぱりこういう天然モノがあるなら天然モノを使うべきだろ。

大まかな方向しか教わっていないけどさっきから水の音が近づいているから正しい歩行へ進めている筈。

音を頼りに進んでいくと幅10メートル程だろうか。

そこそこ大きな川があった。

流れもそんなに強い訳ではなく、水浴びには持ってこいだ。

水に入る準備を進めていると視界の端に人影がある事に気がついた。

小さくて綺麗な銀髪の少女が裸で髪の毛を洗っている。


「ちょ、こんな所で1人だと危ないよ!? っていうか色々危ないって!? 」


よく見ると昨日ミイナと一緒に居たユウだった。


「どうして? 」


何時もの無表情のまま僕に振り返るユウ。

その素振りに恥ずかしさは微塵も含まれていなかった。


「どうしてって、魔物に襲われるかもしれないし、ていうかこっち向かないで! 隠して! 前かくして! 僕が危ない! 」


こんな村の外れに少女1人は危険だ。

魔物が出なくても万が一山賊が居たりとか、考えたくもないけど欲情した村人に襲われるかもしれない。

助けを求めてもこんな所まで誰も助けには来ないだろうし。


「あなたは危険? 」

「いや、僕は危なくないんだけど僕が危ない! 服来てよ服! 」


色々大変な事になってしまう。

僕は必死に目を合わせないようにしていた。


「わかった。」


ユウはそう頷くと対岸に置いてあった服を取りに行く。

助かった。

あの綺麗な銀色の長髪に、同じ人間とは思えないきめ細かい白い肌。

出るところは出ていないけど細くって何を考えているんだ僕は。

まだ小さい少女なんだぞ。

しかしあんなに無防備で襲われても文句は言えないぞ。

いや、僕にそんな趣味はないけど。


「着た。」

「ありがとうユウちゃん。これで安心だ。もう人前に裸で出ちゃダメだよ? 」

「どうして? 」

「どうしてって恥ずかしくないの? 」

「恥ずかしくない。」


羞恥心はないのかこの子は。

うーん。どう説明したものか。

近づいてくるユウをよく見ると昨日と同じ黒いワンピースなのだがずぶ濡れだった。


「もしかして今洗濯してた? 」

「してた。」

「そのままだと風邪ひいちゃうな……。しかたないコレを着てよ。」


僕は今着ていた服を脱ぐと、そのままユウに手渡した。


「いいの? 」

「いいよ。そんなに濡れてる服着たら風邪ひいちゃうからね。」

「ありがとう。」


ユウがそのまま着ようとするので慌てて止めた。


「そのまま着たら意味無いでしょ。」

「どうしたらいい? 」

「今着てる服を脱いで、この乾いた服を着るんだよ。」

「わかった。」


返事と同時にユウは服を脱ぎ始めたので僕は慌てて後ろを向いた。


「着た。」


後ろを向いて数秒もしないうちにユウが声をかけてきた。

着るの早いなおい。

サイズが合っていないどころか男物を少女が着ているので凄くブカブカだ。

だけどコレなら日陰でも温かいだろう。


「これなら風邪ひかないね。」

「不思議な匂い。」


あ、そうだよな。

ここに来たのって汗流しに来たんだから汗臭いに決まってるよ。


「ゴメン。こんな汗臭いの嫌だよね。」

「嫌じゃない。」

「今直ぐ脱いで、いやそれもダメだ。ゴメン。服が乾くまでこれで我慢して。って嫌じゃない? 」



僕の服を嗅ぎながら答えるユウ。

そんなに嗅がれると僕が恥ずかしいのでやめていただきたい。


「うん。」

「ならいいか。」


僕は勝手に納得しているとユウは蒼い綺麗な瞳でジッと僕を見つめる。


「何しにきたの? 」

「僕? 」

「そう。」

「ちょっと汗かいたから水浴びしに来たんだよ。」


僕の答えを聞いて見つめている瞳が少しだけ柔らかくなった気がした。


「水浴び好き? 」

「好きだよ。気持ちいいよね。」

「同じ。」

「ユウちゃんも水浴び好きなの?」

「好き。」


そう答えるユウは少し嬉しそうな顔をしてる。

片言で話すけど無表情って訳じゃないんだよな。


「それじゃあ僕は水浴びをするね。丁度服も脱いでる所だし」


ちょっと恥ずかしいけど下着姿になり、川に入ると後ろからユウが着いて来た。

裸で。


「ちょっと何で脱いでるの!? 」

「水浴び。」

「ダメだって2人で水浴びするのは! 」


こんな所を皆に見られたらマズイ。

非常にマズイ。


「1人でズルい。」


ズルいって言われてもな。

もう言っても聞かなそうだし。僕だけ外で見てるか?

裸の少女を見守る半裸の男か。

うん、アウトだな。

かと言ってこの子を1人置いていくのも……。


「入らないの? 」


ユウが問い掛けたその時、ここへ来る前に作った魔術刻印に鈍い痛みが走った。

どうやら魔法陣が魔物を感知したようだ。

こんな短時間でもう反応があるなんて……。

本当にこの村は危ないのかもしれない。

……。

護衛する僕がここにいるって事は今誰もいないよね?

ヤバイ突破されたら被害が出ちゃう!


「ゴメンユウちゃん!僕はコレで失礼するね! 」

「まだ入ってない。」

「また後で入るよ!」

「これは? 」


ユウが何やら言っていたがそんな事を気にしている暇はない。

僕はそのまま急いで門へ駈け出した。

この川からそんなに遠くない。

今ならまだ村を襲われる前に喰い止められる。

急げ急げ!

体中に刻んだ身体強化の魔術刻印をフル稼働させる。

副作用なんて今は気にしてる場合じゃない。

もう少しで村に到着だ。

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