第13話 初めての遠征と不思議な姉妹 02

翌日、魔力の回復したガルードと一緒に残りの作業を始めていく。

これが終わったらクエストと言う名の旅行が待っているのでガルードも気合が入っている。

なので昨日よりも早く作業が終了した。

そのペースに僕も合わせないといけないので、早く終わったにも関わらず昨日よりも疲れた。

作業が早く終わったと知ったフルアは直ぐに出発しようと言い始めたが、さっきまで全力で作業していた僕達は流石に疲れているのでせめて明日の早朝にしてくれとお願いする。

シャルルも昨日の今日出発するとは思っていなかったようで、準備がまだだからと僕たちに賛同してくれた。


「ねえねえハルト君。明日は旅行だよ旅行! 」

「そうだね楽しみだよね。」


まだ僕が入れ替わってそんなに経っていないのだが、皆の様子からして普段このメグリナリアから出る機会が無いのだろう。

だから僕もその体で合わせていく。


「でもリターンズって専用の馬とか何か移動手段持ってるの? 」

「急にどうしたの? うーん。そういった物は持ってないかな。小型犬とか猫とか可愛くて飼いたいんだけどね。」


やっぱり持っていないか。

今まで生活していて見たこともないし話題にも上がらないもんな。


「そうなるとグリフォン航空運送所に頼むのが一番早いかな。馬だとメグリナリアから遠いし。」


グリフォンと聞いた途端シャルルの顔から表情が消え、身体が微かに震えているのがわかった。


「え、えっとやっぱり。ぐ、グリフォンに乗らないと、ダメなのかな?お馬さんに乗ってゆっくり行くのも楽しいと思うな私。」

「ごめんごめん。そうだよね。シャルル高いところ苦手だったもんね。意地悪で言った訳じゃないんだ。」

「で、でもどうしても。それしか無いって言うなら私。我慢……する。」

「あーもう。大丈夫だから、だからそんな泣きそうな顔やめてって。他にも色々手段はあるんだから。」

「本当? 」


シャルルが涙目でこちらの顔色を伺うように覗きこむ。

その姿が小動物めいた姿にドキッとしてしまう。


「うん。本当本当。大丈夫だよ、移動手段は一杯あるんだし、ガルードも何か考えてくれてるって。」

「そうだよね。ガルード君顔広いし何か考えてくれるよね。よーし、明日の準備頑張らないと。」


僕も長い間ここを空ける訳だし、色々準備しないと。





「おい起きろー! 朝だぞ! 」


何やら騒々しい声が聴こえると思ったら僕の寝室にガルードが上がり込んでいた。


「ウン? あれ? ガルードどうしたの朝早くから。」

「おいおいまだ寝ぼけてるのか?昨日早朝に出発するって言ったろ。」

「あー、そういえばそんなこと言ってたな。」


昨日長旅になると思って薬とか色々準備をしていたらいつの間にか寝ちゃったんだった。

それでいつまで経っても起きてこない俺を待ちくたびれたガルードが起こしに来たってところだね。

おかしいないつもならシャルルが起こしに来るはずなのに。

僕が不思議そうな顔をしているとガルードは何かを察して様子だ。


「ああ、シャルルか?あいつも寝坊だ。今フルアが起こしに行ってる。」

「珍しいねシャルルが寝坊なんて。ああ、でも遅くまでお弁当作ったり楽しみにしてたから楽しみで寝られなかったのかな? 」

「子供か! ってシャルル子供っぽいところあるし仕方ないか。」

「もう時間ないんじゃないの!? 早く準備しな! シャルルはもうとっくに起きてるよ! 」


僕とガルードがのんびり談笑してると今度はフルアが乗り込んで来た。


「そうだったそうだった! おいハルト! 早く準備しろ! 時間がないんだ! 朝一のコカトリス貨物運搬に乗せてもらうって話なんだよ。

「コカトリス貨物運搬って物流だけで人は乗せないじゃなかったっけ? 」

「そこを俺が話をつけてきたんだよ。でも貨物運搬がメインだから時間に遅れたら乗せてもらえないんだ。」

「なるほど。」


どこにそんなコネがあるんだ。

まぁ、ガルードの人柄と仕事っぷりのお蔭なんだろうけど。

街の人と仲いいからなガルード。

前のギルドじゃこういった事は無かったな。


「ほら、ゴチャゴチャ言ってないで早く行くよ! 」


フルアに急かされて僕らは駆け足で向かうも間に合いそうにないので、結局フルアが魔法を使って時間を短縮する事に。

こうなるから早くしろって言ったのに! っと拒否するフルアに僕とガルードが必死に頼み込んで渋々了承してもらった。


「いやー、すみませんね無理言って乗せて貰ったのに時間ギリギリになっちゃって。」


なんとか間に合った僕らはガルードを中心にして貨物運搬のおじさんに頭を下げる。


「ガルードの頼みだ気にすんな。しかし、時間に間に合ってよかったな。あと少し遅かったら出発してるところだったぞ。」


と、おじさんも笑っている。

いい人みたいでよかった。


「でもコカトリスか。よく思いついたね。普通の人は乗れないのに。グリフォンに比べると遅いけどそれでも陸路の中では凄い早いほうだよ。」

「だろ? シャルルは空苦手だからなー。どの経路で行くのがいいか苦労したぜ。」


この選択は意外だったが、疲れていたのにシャルルの為にツテを辺り回った事を想像すると関心してしまう。


「ごめんなさい。どうも落ちるところを想像しちゃって……。」

「でもシャルルだったら問題ないんじゃないの?風魔法で落下の衝撃抑えたりとかできるでしょ。そんな想像するだけ無駄だって。」

「そんなこと言ったってフルアちゃん……。いざ落ちたら多分、身が竦んじゃって魔法どころじゃないと思うの。」

「焦ると普段できることも出来なくなるって言うからね。シャルルだけじゃないって気にしない方がいいよ。」


落ち込むシャルルを励ます僕とフルア。

そんな事をお構いなしで我先にと貨物車に座るガルード。


「もういいじゃんか過程の話なんて。それよりさ、飯にしようぜ!朝何も食べてないから腹減っちゃってよー。」

「あ、ごめんね気が付かなくて。私一杯お弁当準備したんだ。一杯食べてね。」

「これが朝寝坊の原因ね。ホントだ色んなサンドイッチがある美味しそう! 」


ガルードの催促にシャルルが大きな鞄から色々なサンドイッチを取り出した。

色とりどりな上に色々種類があって本当に美味しそうだった。

それを見たガルードとフルアは早食いでも始めるのかという勢いで食べ始める。

鞄いっぱいにあったサンドイッチがどんどん減っていく。


「いやーうめえ! シャルルの料理は本当に美味いよな。」

「僕は毎日食べてるけど飽きないよ本当に。」

「もう、褒めても何も出ないんだからね。あ、運転手さんもいかがですか? 一杯あるので遠慮せずどうぞ。」


そう言っておじさんにサンドイッチを手渡すシャルル。


「おおこりゃありがたい。こんな可愛いらしい子の手料理なんて人生始めてかもな!がはは。お、本当に美味いなあんたいい奥さんになるぞ。」


おじさんのそんな何気ない褒め言葉に真っ赤になって照れているシャルル。


「いい奥さんになるってさシャルル。あーもう赤くなっちゃって可愛いんだから」

「もう……恥ずかしいってフルアちゃん。」


何気ない雑談を続けているともう旅も終盤だ。。

特に魔物や山賊に襲われたりと言うことはなく目的地まで進んでいる。

朝早くに出発したのだがもう日が傾き始めていた。


「いつの間にハルトは回復薬なんて作れるようになったのよ? 私の有難みが減っちゃったじゃん。」


フルアが不貞腐れながら僕に文句を言ってきた。


「あんなに一杯野生の薬草が自生してるのを見て勿体無いと思ったんだよ。それに完成度も低いし、傷は塞がるけど生命力までは回復しないし。気休めにしかならないよ。」

「体力が回復するのは嬉しいんだが味も美味しくない。もっと味を追求してくれ。」

「薬に味を求めないでよ。効果が変わっちゃうじゃんか。そういう訳だから傷を癒してくれるフルアは本当に助かるよ。治癒魔法って使える人少ないし。」


前のギルドでは治癒魔法使える人が少ないのでパーティの組み方次第では自分で治すしか無かったし。

それで色々調べていく内に調合にハマっちゃったんだよね。

もっと質のいい薬草でもあれば効果の高い薬を作れるのだけど。


「はっはっは。もっと褒めるがいい。」

「でも2人はちょっとフルアちゃんを宛てにしすぎだよ?もっと自分の身体を労ってよ。」

「そろそろマワリルに着くぞ。降りる準備をしてくれ。」


心配するシャルルの目線から逃れるように話題を外すガルード。

しかし僕も人ごとではない。

この数週間でもう何度大怪我したかわからないんだから。


都市マワリル。

シラクネ村の近くにある大都市。

僕達の住むメグリナリアよりは小さいがそれでも大きな都市だ。


「おっし、皆降りる準備だ。ありがとなおっちゃん。」

「これくらいお安いご用さ。すまんな。本当はシラクネ村まで連れて行ってやりたかったんだが、仕事がな。」

「流石にそこまで世話になれないって。ここまでで十分だ。」


コカトリスのおじさんはメグリナリアから運んだ荷物をマワリルに渡し、荷物を受け取ってまたメグリナリアに戻らないと行けない。

コカトリスも疲労してるので一日休ませないと行けないし、検問での手続きなど色々忙しい。


「長旅お疲れ様です。ありがとうございました。」

「おう、お前らも依頼頑張れよ! 」


おじさんとマワリルの入り口で別れを告げ、僕達は宿を探す。

シラクネ村に行くにはマワリルから一日歩かないと行けない。

今日は座りっぱなしで疲れた身体を休めて明日に備えよう。


「マワリルって何が名産だっけハルト? 」

「えっと、ワインが有名だった気がする。だから肉料理とか美味しいって話だね。」


ワインと聞いた瞬間、フルアの眼の色が目に見えて変わった。


「ワイン!? これはもう行くしか無いね。」

「ダメだよフルアちゃん。明日一日歩くんだから。」


シャルルが我慢しようよと止めると駄々をこね始めるフルア。


「えーいいじゃん! こんな所に来るなんて滅多にないんだから楽しまないとさ! 」


流石のガルードもフルアに同意しないで批判する。


「目的を間違えるなよ? シラクネ村に着いたらいくらでも飲んでいいから今日は我慢しろ。嫌だぞ。酔いつぶれたお前を運びながら一日歩くなんて。」

「ハルトー二日酔いに効く薬作ってよー。」


すがるような目で僕を見つめるフルア。


「そんな薬は作ったこと無いし、作れても絶対作らないよ。絶対限界まで毎回飲みそうだし。」


だけど僕はバッサリ切り捨てる。

これ以上酒を飲まれたらギルドは崩壊してしまう。


「ちぇ、しょうが無い今日は諦めるよ。その代わりシラクネ村に付いたら一杯飲ませて貰うからねガルード! 」

「わかったわかった約束するよ。」


その後夕飯を目的の宿の近くのレストランで済ませ、早々に就寝することにした。

別にどうってことのないよくあるレストランだと思ったが、赤ワインで煮込んだお肉は絶品と言っても過言はなかった。

これは赤ワインを飲みたがっていたフルアに申し訳無いのでコッソリお土産様に買っておいてあげよう。

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