第11話 今の僕にできること 07

「それで、どこで獲物を捕まえるの? 」


どこに向かっているのか検討も着かないので、ギルドハウスから出てから迷いなく進むガルードに訪ねてみた。


「街外れにあるギルドハウスを更に奥へ進むと綺麗で澄んだ湖がある。知る人ぞ知るちょっとした隠れスポットだな。そこには沢山の魚がいて、魚を取りに来たり水を飲みに来る生物も一杯いる。」


この街に長く住んでいるけど森にそんな場所があるなんて知らなかった。


「それなら見つからないって心配は無さそうだね。それで何を狙いに来たの? 」

「普段ならここで取れる魚も美味いからそれでいいんだけど、今日は肉だ肉!肉の気分だ!そうなると鹿や猪になるか。兎や鳥も捨てがたいがな」

「兎は見た目が可愛いからちょっと苦手だな。絞める瞬間気が引けるんだよ。」


あんなふわふわで可愛い生き物を殺すのは今でも苦手だ。

だけど予想外にガルードも僕の答えに同意してきた。

意外と繊細な心の持ち主なのかもしれない。


「あー、わかるなその気持ち。目を見たらアウトだ。絶対に見たらダメだぞ! つぶらな瞳がなんとも言えないんだよな……。」

「やめてやめて! 唯でさえ苦手なのにできなくなったらどうするんだ! 」

「人間必死になったらそんなことも気にしてられなくなるから気にするな! 腹ペコだったら躊躇いもなく殺すだろ。」

「そりゃそうかもしれないけど……。そんな極限状態になった事もないから。」

「しかし意外だな。そんな事を考えていたなんて。お前って昔から生き物捌いてたけど平気な顔してたからさ。」


元のハルトは平気だったのか。

それなら僕も、ってもう遅いか。

それに顔色変えずになんて出来そうにない。


「そりゃ俺だって唯の人間、酪農家や殺人鬼じゃない。平気でいられる訳無いよ。」

「でもさ。俺たちは魔物や虫は平気で殺してる。生き物としては何も変わらないのに躊躇無く殺せる。それなのに小動物は可哀想だから殺せないなんておかしいよな。まあわかっていても割り切れる問題じゃないんだけど。」

「それは魔物や虫がこっちに害を与えてるからだろ。無害な動物自身は何もしてないんだ。そりゃ罪悪感が湧くよ。街にいる知らない人をいきなり殴れって言われても良心が痛むだろ。殺さないにしても。それなら相手の生命を、生活を、全てを奪う行為は尚更だ。別の生き物だとしてもね。」

「結局自分勝手な生き物なんだな人間って。」

「そんな話の流れじゃなかっただろ……。どうしてそうなった。」

「さて、本題に入ろうか。」


重苦しい空気の中ガルードは真剣な眼差しで僕を見据える。


「やっぱりお前は俺の知ってるハルトじゃないわ。考え方も知識も。やっぱり入れ替わってるんだなフレーズさんよ。」

「ガルード……。」


まさか入れ替わっている事に気がついた?

困惑する僕を他所に近くの大岩に座り込みながら話を続けるガルード。


「お前が倒れたあとな。フレーズに会いに行ったんだわ。流石に前のハルトと様子が違いすぎる。そのうち飽きるだろうと思って様子を見てたけどな。それで、フレーズと入れ替わったって騒いでた事を思い出した訳よ。」

「フレーズに会いに行ったらそこにはハルトが居たよ。俺達の知ってる本当のハルトだ。事情を聞いたが戻る気はないって言われたわ。無理にでも連れて帰ろうと思ったがまあ、今の俺じゃお前には勝てないわな。」

「ギルド員の不始末は俺の責任だ。本当にすまない事をした。代わりに謝ろう。」


ガルードは僕に向って深く深く頭を下げる。

だけど僕はそんなガルードに怒りは湧いてこない。

悪いのはハルト。

ガルードに謝られてもこっちが申し訳なくなるだけだ。


「ちょっとちょっと。顔を上げてよ! ガルードが謝る必要なんて無いって。」

「どうやったか知らないがあの馬鹿が本当に迷惑掛けたな。」


それでも顔を下げたままのガルードを僕は無理やり起こす。


「気にしないでって。悪いのはハルトなんだから。それに僕だってハルトの振りをして皆を騙していたんだからお相子だよ。」

「振りしていたって言っても全然ハルトじゃなかったけどな。代わりに俺があいつの代わりに償いをしてやる。なんでもいいぞ。出来る限りの事をしてやる。」


ガルードの目に嘘はない。

だけど僕はガルードや皆からそんな事をして貰いたい訳じゃないんだ。

出来ることなら対等でいたい。

この一週間4人での馬鹿騒ぎは本当に楽しかったんだ。

そしてこの件はもう僕の中で割り切っている。

だから、僕の願いは。


「実はハルトに言われたんだ。あいつよりも強くなったら元に戻ってやるって。だから、その時が来るまで僕をこのギルドに入れてくれないかな? 」

「なんだそんな事か! そんなの大歓迎だぞ。お前はもう俺達の仲間だ! ガルシアのおっさんとやり合ったお前を見て否定する奴なんていやしねーよ。」


良かった。

別人だとわかって追い出されると思ったけど、その心配はないようだ。

このギルドも追い出されたらそれこそもう頼るべき人たちが居なくなる。


「だけど、1つ条件がある。」

「条件? 」

「そのままハルトの振りをしてくれ。フルアにはもうバレているがシャルルにバレると面倒だ。あいつはハルトと同じ街で育った幼なじみなんだよ。」


それは知っている。

だから仲も良くてギルドハウスで一緒に暮らしていると聞いた。


「エクアトリ街って知ってるか? 」


その街の名前を聞いた時。ガルードが何を言いたいのか理解できた。


「有名な話だよ。魔術都市が一夜にして街人がみんな死んだって話。犯人もわからないって。」

「その通りだけど、それは正確じゃない。実はその事件には生き残りがいたんだよ。それがあの2人だ。まぁ、エクアトリ街出身って奴はまだ大勢いるけどな。」


それを聞いて納得した。

シャルルが何でハルトをこんなにも気にかけていたのかも。

ハルトが僕と入れ替わって復讐だの言っていたのかも。

シャルルにとってハルトはたった1人の家族、または大切な人で、ハルトは街を襲った犯人を知っていてその上で自分で街の仇を取りたかったのか。

だからと言って復讐を許容することはできないが。


「わかったよ。どうせこの身体で僕がフレーズだって言っても皆笑い飛ばすだけだしね。」

「やけに聞き分けがいいな。もう事情は知ってたのか。」

「うん、ご丁寧にハルトが教えてくれたからね。」

「それじゃあ、改めてよろしくな。フレーズ。いいやハルト!」

「うん。こちらこそよろしくガルード。」


真面目な表情から一変して普段の笑顔で握手を求めるガルード。

それを僕も笑顔で握り返した。


「そろそろ着くから準備をしろ! さあ、獲物を捕まえようぜ獲物を! 」

「よしきた! 」

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