第10話 今の僕にできること 06
意識が戻るとそこはつい最近まで知らなかった、でも今では見慣れた天井がある。
ガルードが僕をギルドハウスのベッドまで運んでくれたみたいだ。
「おはようハルト君。また無茶をしたんだって! 心配したんだから! 」
ベッドの隣で椅子に座っていたシャルルは僕が目覚めた事に気が付くと涙目で怒りだす。
「おう起きたかハルト。お前のお陰で助かったぜありがとうな。」
遠くのテーブルに座っていたガルードとフルアも僕が目覚めた事でベッドまで近づいてくる。
「ガルード。途中で意識が無くなったからわからないんだけど、どうなったの? いやー魔獣が眠りにつくほど強力な睡眠薬だと、わかっていても意識が無くなるね。」
「おう、お前が言った通りおっさんも眠りに付いたよ。しっかし無茶な事をする。隙を作る為にわざと倒れるまで殴られるんだから。」
僕はあの後の記憶がないので経緯をガルードに確認するとおおよそ作戦通りだったようだ。
よかった上手くいって。
「そうでもしないとガルシアさんを捕まえるなんて出来そうに無かったからさ。でも上手くいったんだからいいでしょ? 」
「確かにな。でも今後は控えろよ。」
「まあ、どんなに怪我しても私が直して上げるけどね。今日もずいぶん大怪我してたけど元通り! 」
「それもあるから怪我を気にせずに要られるんだよありがとうフルア。」
流石にフルアの回復魔法が無かったらこんな無茶するのは勇気がいる。
本当にありがとうフルア。
「しかし睡眠薬で意識飛んだ後で良かったな。全身大火傷してたんだからな? 地獄だったぞきっと。」
「本当だよ! いくら怪我が治るって言ったって体の負担は大きいんだから次から本当に控えてよね。本当に心配したんだから……。」
ガルードは笑っているが、シャルルは本当に心配していたようで目に涙を溜めて僕を叱る。
「よっし、ハルトも起きたところだしみんなで夕飯にしようぜ! おっさん撃退記念だ! シャルル今日のメニューはなんだ!? 」
ガルードはしんみりした空気を感じたのか勢い良く立ち上がり、シャルルに晩御飯を尋ねる。
それをシャルルは申し訳無さそうに目を逸らした。
「えっと今日は買い物行けなかったから余り物なの。ごめんなさいガルード君。」
「なんだ。言ってくれれば猪でも魚でも狩ってきたのにさ。」
それを聞いたフルアは水くさいじゃないと言いたげな表情でシャルルを見る。
「ごめんなさい。今日もハルト君と2人だけかなって思ってたから。」
「まぁ、急だったからな。でもやっぱりパーティって言ったら肉は必要だ! フルア狩りにいくぞ! 」
「面倒だからパス。」
「今魚でも猪でも狩るって言っただろおおおおおおおおお! 」
「ガルードが行くなら話は別。私はのんびり待ってるよー。大物期待してるから。」
ガルードはどうしても肉が食べたいようでフルアを誘うもフルアは面倒臭そうに腕を振って断った。
「そりゃないだろフルア……。それじゃあハルト一緒に行こうぜ。」
フルアは動きそうにないとわかると今度は僕を誘うガルード。
「怪我人に働かせるのか……。」
「もう怪我治ってるだろ! 全快だろ! それに聞きたいこともあるからさ。」
聞きたい事ってなんだろう。
今までふざけた感じだったのに最後は真面目な表情だった。
「聞きたいこと? 」
だけど僕は心当たりがないので首を傾げる。
「いや重大な事じゃないから狩りに行きながらでも話そうかと思ったんだけどいいか? 」
「何々? 気になるなー! 」
フルアが好奇心いっぱいに僕とガルードの間に割って入ってくる。
「お前は行かないんだろ? 」
「気になるけど今は働きたくはないなー。誰かさんの治療に魔力使っちゃったし。」
「ごめんフルアありがとう。」
僕は申し訳無さそうに謝るが、ガルードは呆れた表情でフルアを見る。
「いやいや、こいつはそれを理由にサボりたいだけだからな。」
「ありゃバレちゃったか。」
「それじゃあ行くかハルト。」
僕に呼びかけて部屋を出ていこうとするとフルアはガルードを呼び止めた。
「あ、ちょっと待って。」
「なんだどうしたまだあるのかフルア? 」
「うん。今日のレースの事覚えてる? 」
どうしたんだろ突然。
ガルシアさん騒動でレースの事なんかすっかり忘れていた。。
「覚えてるも何もそれが原因でガルシアさんに追われてたんじゃないか。」
「レースの条件その1。この町外れにあるギルドハウスをスタートして街の中心にある集会場に行き依頼を受注して戻ってくること。」
フルアは不敵な笑みを浮かべながら僕らに人差し指を立てて得意げに言った。
「それがどうしたの? でも有耶無耶になっちゃって結局集会場にも行かなかったよね。フルアちゃんは私と一緒に帰ってきたし。」
シャルルも不思議そうにフルアに質問する。
「あー、俺もハルトを背負って直接帰ってきたし集会場まで行ってないな。」
ガルードもフルアの意図が読めないようだ。
そんな僕らを尻目にフルアは更にニヤけると自慢気に1枚の紙を僕らに見せつける。
「ふふふ、これなーんだ! 」
「そ、それはまさか……! 」
「そう依頼受注書だよ! 」
僕らはその1枚の紙をフルアから受け取る。
確かにそれは依頼の受注書だった。
「い、いつの間に! しかも受付日が今日になっているし。」
「え、だって……。フルアちゃん私と一緒に……あっ!? 」
困惑するシャルルの言葉が詰まる。
何か思い当たる節があるみたいだ。
「気がついた、シャルル? 甘いね本当に。」
「どういうことだシャルル? 」
3人が注目する中シャルルは俯き指を弄りながらゆっくりと喋りだした。
「途中フルアちゃんお手洗いに行くって言って私と離れたの……。」
「まさか……その隙に。」
その一言で僕らは察した。
棒とガルードは一斉にフルアを見ると自慢げな顔がそこにあった。
「正解! 」
「ご、ごめんなさいハルト君。」
「こんな純粋なシャルルを騙すなんて心が傷まないのか鬼! 悪魔! 」
「勝てばいいんだよ勝てば! これで私達の勝ちってことでいいね。」
流石のガルードも絶句していたが、突然水を得た魚の様に元気になる。
「うわー……。ドン引きだわって言いたいところだがナイスだフルア! 」
そう。ガルードは自分たちの勝利に気が付きフルアを褒め始めたのだ。
「僕はこんな奴らの為に体を張ったのか……。」
こんな事だったら皆でガルシアさんに怒られればよかったのかもしれない。
落ち込む僕の肩をニヤけ面で叩くフルア。
「その体を治したのは誰かな? それでお相子だよ。って事で私はお酒を飲むのを止めない! 止めないぞ! 」
「この呑んだくれなんとかしろよマスター! 」
「って言ってもなー。ルールはルールだし。俺も心置きなく買い物ができるって訳だ。」
ダメだこのマスター。
止める気も無いしやめる気も無いぞ。
「それならせめて一度僕たちに相談してからにしてくれ。」
「そ、そうだね。もう置く場所にも困ってきてるし。」
シャルルにそう言われてギルドを見渡すガルード。
確かにもうめぼしい所には大体何かしらが置いてあった。
「うぬぅ……それなら仕方ない。」
「で、ガルードとハルトは早く狩りに行かなくていいの?もう日が暮れるけど。お腹すいたー。」
フルアはこの話題にはもう飽きたらしくあくびをしている。
「お前が脱線させたのに!? 日が暮れたら色々面倒だ。早く行くかハルト。」
「はいよ。それじゃあ行ってくるね。」
「頑張ってね二人とも。でも無理はしちゃダメだよ? 」
「人より大きな獲物じゃないと認めないから! 」
魔法を使えない僕にそんな事を言うならフルアが狩ってくれと言いたくなったが直前に飲み込む。
隣に余裕な表情のガルードがいるから問題ないだろう。
「無理せず大物を狩ってこいってことだな。余裕余裕。楽しみに待ってろ! 」
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