第9話 今の僕にできること 05
予想以上に魔法陣を描く場所を探すのに手間取ってしまった。
それでも頑張って描き切ったのだが、待ち合わせ時間に間に合わなかったみたいだ。
まだみんながいると信じて噴水まで走って来てみると、ガルシアさんがガルードの首を締めているところだった。
他の2人はどうしたのだろうか?
「ガルードを離せ! 」
僕はガルシアさんの注意を引き付けるために大声で叫んだ。
「お前は。最初に逃げた男か。せっかく逃して貰ったのにわざわざ戻ってくるとは愚かな。だが、そういう仲間思いな奴は嫌いではないぞ。」
「ハルト……。どうして戻ってきた! 」
ガルシアさんはガルードを解放し、僕を鋭い眼光で見定める。
「どうしてって、ここで落ち合う予定だったろ。」
僕は倒れ咳き込んでいるガルードに駆け寄る。
「そうだけど、この状況で出てくるなよ! 二人とも捕まるだけだろ!お前に何ができるんだ!? 」
「そうだな。確かに僕じゃガルシアさんを倒す事はできない。でも、相打ちにはできる。」
「ほう、言ったな小僧。これは楽しみじゃい。」
僕の発言に愉快愉快とガルシアさんは笑い出す。
負けるとは微塵も思っていない。
いや、それとも負ける事も含めて楽しみなのかおかしな人だ。
「俺にも勝てないお前がおっさんに勝てる訳無いだろ! もう俺を置いて早く逃げろ! 」
「だから言っただろ。勝つんじゃない、相打ちだって。大体この状況でガルードを置いてなんて逃げられない。ほら、コレ飲んで。」
僕は詰め寄るガルードに無理やり薬の入った瓶を押し込む。
それをガルードは勢い良く飲んでしまったようで咽ている。
「ゲホッゲホッ……おい! いきなり口の中突っ込むなよ! しかも変な味だしなんだこれ! 」
「おっし、これで元気になっただろ。」
「何言って……? あれ、本当だ。さっきまでの痛みと疲労感が消えてスッキリしてる。」
ガルードは不思議そうに身体を弄り確認する。
「回復薬。流石に魔力までは回復しないけどね。」
「どうしたんだこれ? 回復薬なんて高いのによく持ってたな。」
「自作した。」
「はぁ? 」
「自作した。簡単な物だから流石に市販品よりは効果薄いけど。ギルドハウスのある森の中に材料が一杯生えてるんだよね。」
冒険を始めた頃。
高くて買えない回復薬をどうにかしようと思い薬学を学んでいたんだよね。
懐かしいな。
回復薬を買えるようになった今でも冒険先などで重宝する。
「お前いつのまに……。どこでそんな知識覚えたんだ?」
「いつだっていいじゃん。それよりまずガルシアさんを倒そう。それでガルードにやって欲しい事があるんだ。」
僕はそっとガルシアさんに聞こえないようにガルードに小さくそして簡潔に作戦を伝えた。
「お前、そんなことしておっさんが本気出したら怪我じゃ済まないんじゃないか? 」
「かもね。まあ、でも任せてよ。絶対に倒してくるからさ! 」
僕の心配をするガルードを尻目に僕はガルシアさんの前に出る。
「何をゴチャゴチャ話しておる! そっちから来ないならこっちから行くぞ! 」
僕らのやりとりを退屈そうに見ていたガルシアさんが僕に向って突撃してくる。
「じゃあそういうことだから頼むわ! ガルシアさん行きますよ! 」
僕は素手でガルシアさんを迎え撃つ。
そのまま勢いを乗せた右ストレート。
格上の相手にこんな攻撃普通に考えて無謀ですらないのだけど、相手はガルシアさんだ。
予想が正しければ魔法を使うよりは安全に近づけるはず。
「ほほう。素手でくるのか。見かけによらず男らしい奴だ。よかろうなら付き合ってやる! 」
僕の渾身の攻撃はガルシアさんに呆気無く受け止められ、そのまま顔面を思いっきり殴られ吹き飛ばされる。
「なんだなんだ! 遅い弱い呆気ない! そんなんでワシに格闘戦を挑もうなど百年早いわ!」
「ま、まだまだこれからだ……。」
うへー。
覚悟してたけどすごい良い物を貰ってしまった。
一発しか殴られてないのにもう目がパチパチするぞ。
「どうした!? もう終わりか? 」
「終わりの訳ないだろ! 」
なんで魔法を使わないのか。
それは相手が相手の土俵で戦う卑怯なんて言葉が似合わない真面目人間だからだ。
それ故に融通の聞かないところもあるけどな。
こちらが魔法を使わなければきっと使うことはしてこない。
唯でさえ実力差があるのに魔法まで使われたらそれこそ一瞬でやられてしまう。
それではダメだ。
僕は再び素手で無理な特攻を繰り返す。
「なんだお主は。先ほどの造形師に比べセンスの欠片もない。そんなものでワシに格闘戦を挑むなど片腹痛いわ! ほれ、先ほど何か言っておったな。ワシを倒すと。ならそれを使わせてやろう、どうした遠慮は要らんぞ? 上級魔法でも、
「舐めやがって……! 」
「それほど実力差があると言うことだ。ほれ、早く撃ってこい」
「……。」
まだこの身体がどんな魔法が使えるのかもわかっていないのに上級魔法や
だから僕は変わらず突っ込んで行くしか無い。
「がっかりだな。秘策など無いではないか。いや、勝手に盛り上がっていたワシが悪いのか。もう良い。これで終わりだ。」
先ほどとは打って変わって本気の拳の嵐を繰り出してくる。
「ガハッ……!」
そんなものを避けきれる訳もなく全弾直撃した僕は体を支えることすらできなくなりとうとう地面に倒れこんでしまう。
一瞬で意識が持って行かれそうになるのを踏ん張るのに必死だぞ……。
「後はお主だけだな。もっとも先ほどの戦いで底は知れている。大人しく連行された方がよかろう。」
倒れこんだ僕を背にし、今度はガルードに目を向けるガルシアさん。
だけどガルードは焦りや気圧される事のない余裕の表情だ。
「おいおい。いいのか? まだ戦いは終わっていないのに目を離して。」
「何を馬鹿な。もうあの男は倒し!? 」
「残念でしたガルシアさん! ダメですよ最後まで気を抜いては? 」
僕はガルシアさんの意識が離れた時を見計らって回復薬を一気に飲み干す。
そして、背後からガルシアさんの背中に飛びつき羽交い締めにした。
「ぬぅ……そういえばお主は回復薬を持っていたな。不覚……。だが回復したところで何ができる!? 」
「ガルード!!! 」
僕はガルードにさっき伝えた作戦の合図を送る。
「オッケー! 待ってたぞこのやろう! ヒヤヒヤしたじゃないか! 」
「悪かったね! 」
「ディメンション・ボックス!! 」
ガルードが僕とガルシアさんを囲む様にしてさっき僕を逃がすために使った魔法の箱を作り出す。
「なんの! 易易捕まるような真似はせんぞ! お主の力など直ぐに振りほどけ……!? 」
「どうしました? 振りほどくんじゃないんですか? 」
ガルシアさんは箱に閉じ込められないように僕を引き剥がそうとするが、それでも僕は押さえつける。
「お主……力を隠しておったのか!? 」
「そんな訳ないって。さっきも全力。今も全力だ。2人で仲良く箱に入りましょうか。」
予め仕込んでいた魔術刻印を発動したからこんなことができるだけだ。
フルアの身体向上魔法に似た効果の魔術刻印。
だけど効果は10秒も持たない。
ガルシアさんが本気を出したらすぐに解けるだろうけど、予想外の力でガルシアさんは油断していた。
その一瞬の判断ミスが今回は命取りだ。
「まあ良い! こんな箱なんぞ貴様ごとまた直ぐに壊してやるわ! 」
箱から逃げられない事を悟ったガルシアさんは魔力を身体に込め始めた。
「そんな簡単にいくかな? 」
「何ぃ! 」
箱が閉じられた瞬間。
僕は手に握っていた薬をぶち撒ける。
暗闇の中必死にガルシアさんを抑えていたがもう抑えることはできない。
魔術で強化しているというのに生身で振りほどくのだからつくづく化け物だと痛感する。
だけどそれだけ時間を稼げれ……ば十、分だ……。
もう……限界……の、よ、うだ……。
遠のく意識の中最後に感じたものは箱を破壊した大きな爆発音と全身を襲う激しい痛みだった。
「次は貴……様の番だぞ? なんだ体が……頭が……。」
「おー本当によく効いているな。流石だぜハルト。」
「貴様ら……一体……何を、した?」
「詳しいことはわからないけどスリプ草を圧縮して作ったなんか強力な睡眠薬? それを密室の至近距離で思いっきり吸い込んだんだ。そりゃ意識も吹っ飛ぶさ。」
「スリプ……なるほど……一杯、食わされ……たわけか。」
「それじゃあ、俺達は退散させて貰うぜ。じゃあなおっさん。もう追いかけるのは勘弁してくれよ。」
「ハッ、お前達……が大人しく、してい……ればな。」
「それは無理な話だわきっと。」
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