第8話 今の僕にできること 04
◇ ガルード.side
「おっさんいつまで追ってくるんだよ! 」
「お前らを捕まえるまでは止めんぞ! 」
「しつこい男は女に嫌われるって知ってた。おっさん。」
いい加減諦めて欲しい。
今までずっと走りっぱなしだから体力も辛くなっている。
フルアの軽口にもおっさんは笑い飛ばすだけだ。
くそ、余裕あるなやっぱり。
「ふぁっはっは。妻にだけ好かれていれば後はどう思われようと関係ないわい。」
「一途な人なんですね。素敵です。」
シャルルがおっさんに共感しているがそんな場合ではない。
「そんなことどうでもいいから追いかけるのをやめろよー! 」
「お前らを捕まえたらな! 」
「さっきからこのやりとり何回も繰り返せばいいんだ! 」
「でもそろそろ危ないかも・・・もう少しで魔力が無くなりそう。」
「そうだねー。私もちょっと限界が近いよ。」
シャルルとフルアが申し訳無さそうに魔力切れが近いことを申告してくる。
この追いかけっこもそろそろ終盤の様だ。
「やべえな。あのおっさんはまだまだ元気だし。このままだと本当に捕まっちまうぞ。」
「ハルト頼みかー。不安になってきたよ。」
「大丈夫。ハルトくんはやる時はやる人だもん。」
俺だって知っている。
でも最近のあいつは雰囲気が丸くなったけどどこか抜けてるからなー。
さっきの連携と時もぼーっと見てただけだったし。
「お、もう少しで時間だな。広場へ急ぐぞ。」
「もしハルトがいなかったら?」
「その時はその時だ。戦おうにも、もう俺しか魔力がない。俺が囮になってお前らを逃がすから。3人で捕まるよりはマシだろ。」
「い、嫌だよ。ガルードくんを見捨てるなんて。」
「シャルル。ガルードの事を思うなら言うこと聞いてあげな。3人いてもどうしようもないから1人で残るって言ってるんだよ。」
俺の心情をいちいち口に出すのはやめて欲しい。
「そういうことだ。そろそろ目的地だな。」
「それなら私が残る! 」
俺が残る事を納得しないシャルルが足を止めようとする。
だけどそれを見たフルアが力ずくで引きずる。
「いや、魔力が残ってないお前が残ったって多分時間稼ぎにもならないだろ。無理すんな。」
「噴水が見えてきた! 」
そのフルアの一言で俺達は顔を上げ正面を見据える。
だけどそこに俺達が待っていた姿はない。
「ハルトはまだ来てないみたいだね……。」
「そうか。あいつ1人だけで逃げるって性格でも無いからきっと間に合わなかったんだろう。そんなことになったら何時も除け者扱いしやがってって不貞腐れるからな。」
やっぱり無茶だったか。
まぁ、これであいつは逃げられるだろきっと。
「そんな……。」
言葉を詰まらせているシャルルの肩を叩き俺は先に行く事を促す。
「それじゃあ、さっき話した通り俺が囮になるから2人は逃げろよ。」
「わかった。」
「ガルード君……。ごめんなさい。」
「謝るなって、俺が決めたことなんだからさ!それに仮にもギルドのマスターだから。メンバーを守るのが仕事ってな。いいっていいって怒られるのには慣れてるさ。」
「ほら行くよ、シャルル! 」
「う、うん。ガルード君無理はしないでね? 」
「大丈夫心配するなって。ディメンション・ウォール。」
気休めだろうが、一応俺と2人の間に壁を作って簡単には通れないようにする。
「ほう。逃亡が無理だと悟り、己を犠牲に仲間を逃すか。なかなか見どころある奴。だが、罪は罪。お主を捕まえた後に途中で逃げた奴を含め3人きっちり捕まえる。」
「そうか。ならここでおっさんを倒さなきゃならないな。」
「ふぁっはっは、笑わせおる。倒せないとわかっていたから逃げていたのだろう。」
「やってみないとわからないだろ。」
「そうか。ならやってみるんだな。胸を貸してやるぞ。」
余裕ぶっておっさんめ。
実際余裕なんだろうけどな。
「フォル・アドラ! 」
おっさんの頭上に1メートル程ある岩を作り出し落下させる。
「そんな攻撃通用すると思っておるのか! 避けるまでもないわ! 」
おっさんはそのまま両手剣で自分に当りそうな岩を軽々砕いて攻撃を防いだ。
ほんと規格外だよあのおっさん。
「見たところお前は土系の魔法使い。確か造形の仕事をしていたな。なかなかに評判だとワシの耳にも届いておる。だが所詮は芸術家。戦闘には向かんようじゃな。」
「余計なお世話だよ! 」
確かに俺の魔法は派手ではないしおっさんに比べたら戦闘に向かない。
何かを作るだけだからな。
サポートには向いているのだが今嘆いても始まらない。
それでも通常戦闘も少しは自信あったんだが……。
だけど今回の俺の役割は時間稼ぎ。
おっさんに勝つことじゃない。
「今度はこっちの番じゃな。大人しくしていれば直ぐに済む。ライガ・スピア。」
おっさんが片手を俺に向けると掌から稲妻を放たれる。
辛うじてそれを避けると代わりに直撃した地面が大きく抉れている。
「おいおい! 初級魔法の威力じゃないだろ!こんなの連発されたらたまったもんじゃねえ! 」
「ちょっと加減を間違いたか。地面が砕けてしまったわい。やはりワシはこっちの方が合っておる。」
おっさんが今度は両手剣を構えて突進してくる。
咄嗟に斧を作り出しおっさんの豪快な一振りを防ぐが、1回防ぐだけで斧が砕けてしまった。
魔法で作ったものだから確かに強度は低いけども、それでも1回で壊すな馬鹿力!手がまだ痺れてるぞこのやろう!
「ほらほら! ドンドン行くぞ! 手を休めると直ぐやられてしまうぞ!」
「おい! おっさん楽しんでるだろ! 」
俺は次々斧を作り出すがおっさんは片っ端から壊していく。
「ふははは。おっと、若者に稽古をつけている気分になっていたわ!なかなか筋がいいもんでな。さっき言ったことは訂正してやろう。」
「くそ、舐めやがって! 」
でも潰しに来ていない今がチャンスだ。
ここで不意を付けば一気に決めることができるかもしれない。
再び斧が壊れる瞬間を見計らい魔法を唱える。
「ディメンション・スパイク! 」
おっさんの背後から鋭く太い一本の針を打ち出す。
「ぬぅ、小癪な! 」
背後から突然の不意打ちだというのにおっさんは身を無理やり捻り回避する。
だがそれも予想通りだ。
「フラタ・アドラ! 」
無理な体勢になったところを両端から作り出した岩で押しつぶす!
が、おっさんはそれを両手で支え耐えている。
対処するとは思っていたが受け止めるのは流石に予想外だ。
規格外すぎるぞおっさん!
「いい連携だった。だがワシには通用せんぞ! 」
「ここで終わりのはずがないだろ! フォル・アドラ! 」
今度は頭上からおっさんが支えてる岩ごと押しつぶしてやる!
これで逃げ場はない!
両手が塞がっているから剣で砕くことともできないだろ!
「ふはははは。惜しいな!ワシがただの剣士ならやられていただろう。だが生憎ワシも魔法を使えるのを忘れた訳ではあるまい! 」
おっさんは両手から稲妻を放出し、支えていた岩を粉々にする。
そして落ちてきた岩を両手剣で防いだ。
「バケモンだなおっさん……。」
流石に俺も絶句する。
その隙を逃さないとばかりに接近してきたおっさんは俺の胸ぐらを締め上げた。
「これしきのことでやられていたら守護騎士団隊長は努められんからな! さあ、打つ手はないだろ。大人しく捕まれ。」
「人を持ち上げて、いう台詞、じゃない、だろそれ。」
「そうだな。もう捕まえておるわい。がはは! 」
頑張ったがもうだめだな。
まぁ結構時間を稼げたからいいか。
予定通り予定通り。
奥の手もあるのだがそんな隙はこのおっさん作ってくれないだろう。
だけど、捕まるにしても一撃位は入れたかったがな畜生。
「ガルードを離せ! 」
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