第7話 今の僕にできること 03
「いやー、思いの外簡単に引っかかってくれて拍子抜けだったな。」
「あの子達はお人好しだからね。こんな手で来るなんて思ってないでしょ。」
「それもそうだな。勝負の世界は厳しいのだ。」
「でもこれでまた今まで通り。いや、気兼ねなくお酒が飲める! 」
「お前今まで遠慮なんかしてた事あったか? 」
「いいや全く。」
「はっはっは。だよな! お前そういうこと気にしなそうだもんな! 」
「何よ私ばっかり! 自分だって変なもん買ってる癖に! 」
「俺はギルドをより良くしようと思ってな! 」
「あんなもの置いたって余計不気味になるだけじゃない? 」
「これだから素人は……。」
「はいはい、一生理解できないですよー。理解できるようになるのもなんか嫌だし……。」
「そこまで言うのか!? 」
見えた!
街の大通りを呑気に話しながら歩いてる。
どうやら勝った気になっているな。
だがその慢心のお陰で追いつけたのだからありがたい。
「お先に二人とも! 」
「ガルード君。後で話したい事があるから。」
僕達は歩いていた2人を追い越しドンドン先へ行く。
シャルルさん、さっきの声穏やかだったけど怖いです。
「え、あれ?なんで!? なんで二人ともここにいるの? 」
「お前らの力じゃ出られない様になってたはずなんだけどな……。」
「ふっふっふ。爪が甘かったなガルード! 」
「ハルト君のお陰で出られたんだー。凄かったよ。」
先程の仕返しとばかりにドヤ顔で返す。
はは、ガルードの悔しがる顔が見える。
気持ちいなこりゃ。
「だから言ったじゃん! のんびりしてないで早く行ったほうがいいって! 」
「でもここまで体力を温存できたし結果オーライだろ! フルア! 」
「それもそうだね。ハイよ! アリティ・レイジア! 」
フルアが魔法を唱えると2人はすごいスピードで追いかけてくる。
シャルルの魔法で強化している僕達と互角のようだ。
「驚かせてすみません! 通ります! 」
「ちょっとごめんな! 」
「ごめんねー。」
「すみません、すみません……。」
全力で走っている僕たちに驚く人々を掻き分けながら目的地まで最短で向かう。
商店街を通り抜けた方が早いのだが先ほどの大通りより人口密度が高いので迂回した方が早いかもしれない。
「どうしようハルト君? 」
「何もたもたしてるんだ?行かないなら俺達が先に行くぞ。」
「お先にお二人さん! 」
商店街を通るか迷っていると、後ろから来たガルードとフルアは迷わず商店街を進む。
「シャルル。行こう! 」
「う、うん。」
ここで引き離される訳にはいかないと釣られて僕達も商店街へ。
「ごめんねごめんねー! 」
「おっと。急いでるんだ。すまなかった。」
器用に人混みを抜ける2人になかなか追いつけない。
むしろこっちがあの2人より器用に避けられないからどんどん離されていく。
何かいい手はないか?
商店街の出店の上を行くかと考えたが、、お店の屋根をそのまま踏み抜きそうだから却下。
僕1人だったら建物の上を跳んで進むかと考えたがシャルルに怖いからやめて欲しいとお願いされたのでできない。
何かいい手はないか?
「ごめんねハルト君。私が高いところ苦手だから。」
「気にしないでって。しかしこのままじゃマズイね。何かいい案はないかな。」
「さっきの魔法陣は使えないかな? 」
「あれはもうひとつの魔法陣も書かないと使えないんだ。2つで1つだから。」
「そっか。どうしよう……。」
「とりあえずこのまま進むしかないね。離されないように頑張ろう! 」
「うん! 」
2人との距離がなかなか縮まらないまま集会場まで残り一本道。
ここに来るまでに多くの人にぶつかりそうになったり、商人の馬車が壊れて荷物がバラけたの助けたりと色々あったのだがそれももう終わりだ。
街でレースをするなんて、最前提の人に迷惑をかけないって言うのは無理だったんじゃ。
先に集会場に入ったほうが手続きなどで有利になるはず。
ここは強引にでも抜きに出るべきか?
「コラ~! お前ら何をしとる!!! 」
僕らが一本道を走り抜けていると渋カッコイイ怒声が一本道に響き渡った。
「げ、何てタイミングで出てきやがる……。」
「ちょっとマズイわね。」
「あれはガルシアさん? 」
「どうしようハルト君。」
王都メグリナリア守護騎士団3番隊隊長ガルシア。
真面目なおじさんで腕っ節も強く、街の風紀を取り締まっているので街人にも頼りにされている人だ。
ただ生真面目すぎるのが玉に瑕。
そこも愛嬌があっていいという人もいるけど。
強化された僕らのスピードに追いつく速度で走り来るガルシアさん。
「ハァ、ハァ……。またお前らかリターンズ。何度街で騒ぎを起こせば気が済む! 」
「ハッハッハ! 俺たちリターンズ! 何度でも現れるわ! 」
「馬鹿言ってないで逃げるよ。」
「しかし目の前に集会場があるのに撤退するなんて。それに捕まるような事はやってないだろ。」
「罪は無いけど、一日お説教を食らうわよ。こんだけ街に迷惑掛けたんだから。」
「僕達はそのまま行ってみる?」
「ダメかな……。多分私たちのことも捕まえて来ると思う」
そりゃそうか。
僕らも同罪だもんな。
「仕方ない。ここは協力しておっさんから逃げないか? 」
「その方がいいかもね。バラバラに逃げても追われなかった方が有利で不公平だし。そもそもおっさん強いから逃げられないかも。」
勝負に水を差されて不服そうなガルードが協定を申し込んでくる。
それにフルアも同意する。
仕方ないけどここはそうするしか無いね。
「分かった協力して逃げよう。まずどうしようか。」
僕とシャルルもそれに同意する。
「とりあえずシャルル。あのおっさん吹き飛ばしてくれ」
「え、私から行くの? 」
「だって遠距離で魔法使えるのシャルルしか居ないし。吹っ飛ばすだけでいいよ。」
「うーん。わかった。」
「何をゴチャゴチャ話しておる! そこを動くなよリターンズ! 」
「ごめんなさいごめんなさい! バレ・フィール! 」
両手をガルシアさんに向けたシャルルの手から風の塊が高速で打ち出される。
ガルシアさんに直撃したのだが少しよろけただけで直ぐ様こちらへ走りだす。
「シャルル! なんでそんな威力の低いので攻撃したー!? 余計怒らすだけだぞ! 」
流石のガルードもここでシャルルが威力の低い魔法で攻撃するのは予想外だったようだ。
鬼のような形相で僕らとの距離を詰めるガルシアさん。
「ごめんなさいごめんなさい! だって怪我したら危ないし。」
「あのおっさんがあれくらいで怪我する訳無いでしょ。あーあーカンカンだよあの人。」
「ていうかすごいな。威力が低いって言ったって一般人なら気絶する威力だぞ。何事も無く走ってくるし流石騎士団の隊長を張るだけはあるな。」
流石は僕の尊敬する人の1人だ。
この身体も鍛えればあれくらいにならないかな?
「このままだとおっさん捕まる! 仕方ない、ディメンション・ウォール!シャルル突風起こしてくれ! 」
「え、どうして? 」
「いいから早く! 」
「わ、わかったフィーフロール! 」
「フルア! 」
「了解了解あいあいさー。」
シャルルがガルシアさんに向けて突風を起こすがガルードの作った壁に阻まれる。
何がしたいのかと眺めているとフルアがその壁をガルシアさんに向って思いっきり蹴飛ばし粉砕した。
そして壊れた破片がシャルルの起こした突風との相乗効果で凄まじい勢いでガルシアさんを襲う。
「おいハルトぼさっとするな! シールド張れ! 」
「え、何? 」
ガルシアさんは迫り来る破片を大剣で一つ一つ撃ち落としていく。
やっぱりガルシアさんはすごいな。
そしてガルシアさんに飛ばなかった破片が辺りの建物を破壊していく。
幸い騒ぎを見ていた野次馬に怪我はなかったみたいだ。よかった。
「おいいいいいいいいいいい! なんで! なんでシールド張らないの!? 周囲の建物ボロボロになったじゃん!! ここまで完璧な連携だったのに! 」
「え、僕のせい? 」
何をそんなに起こっているのかわからずに居ると、隣に居るフルアも呆れていた。
「自分の魔法も忘れたの? ハルト以外の誰がいるっていうのよ……。」
「は、ハルト君はちょっと調子が悪かっただけなんだよ。責めないであげて。」
「シャルルはハルトに甘すぎなんだよ! クソッ、後で建物治すの手伝えよハルト。」
「なんだかわからないけどわかったよ。」
まだ自分の使える魔法がわからないからって言ったらいい訳になるかな。
でも仕方ないじゃないか。
わからないものは使えない。
「やっぱりおっさんは無傷か。本当はこの瓦礫に乗じて逃げたかったんだけど、誰かさんのお陰で機会を逃した。」
破片を落とし切ったガルシアさんは再び僕らに向って走りだす。
「はいはい。ごめんなさい申し訳ございません。」
「反省してないでしょ。まあいいわ。それじゃあ普通に逃げるしかないでしょ。シャルル準備はいい? 」
「う、うん。大丈夫だよ。レシ・フィール。」
「よっし。みんな行くよ! アリティ・レイジア! 」
シャルルの風魔法にフルアの魔法が上乗せされる。
先ほどガルードとフルアが使っていた聖属性の能力向上魔法。
これにより先ほどとは比べ物にならない速度で移動することができる。
「これならガルシアのおっさんも撒けるだろ。」
「コラ~! 止まらんかお前たち! 街をこんなに破壊しおって!! 」
「げ、まだ追いかけてくるよ。しかもこのスピードに付いてくるし。騎士団団長の名は伊達じゃないな。」
身体強化の魔法を重ねがけしている僕らに付いてくるのか。
それくらい出来ないと守護騎士団の団長にはなれないって事だね。
これで3番隊なのだから2番隊と1番隊はどんな化物なのだろうか。
「ちょっとマズイね。後で直すにしても今ので器物破損罪の現行犯だし。普通に捕まっちゃうって。」
「で、でもどうしよう。これ以上はスピード上げられないよ? あ、そうだ!ハルト君さっきの魔術で逃げられないかな? 」
何か逃げる手は無いかと模索しているとシャルルがそう提案してきた。
「ガルードの檻から出た魔術? 確かにあれなら一瞬で移動するから気が付かれないで逃げられるだろうけど……。そもそも魔法陣を描く時間がないよ。」
僕の発言にガルードは焦りながら振り向いた。
「時間があったらできるのか!? できるんだな! わかった。なら俺達が時間を稼ぐからお前は準備しろ! 」
「わ、わかった。頑張る。」
あまりの勢いに僕はつい同意してしまう。
それを聞いたガルードは早口に作戦を僕らに伝える。
「今からおっさんを捕まえる。だが直ぐに脱出されるだろう。その隙にお前は隠れろ。3人でもおっさんはこっちに向かってくるはずだ。その隙に準備して合流するぞ。準備するのに何分かかる? 」
「えっと、だいたい5分位かな。2つ用意しないといけないし。」
「わかった5分だな。なら5分後メグリ広場の噴水前に集合だ! 」
「間に合わなかったら? 」
「そんなものは知らん。間に合わせろ! いいな! 俺達の命運はお前にかかっている! 」
ガルードが騒ぎ立てるがフルアとシャルルはいつもの調子で僕に声をかける。
「そんな大げさなものじゃないけど頑張って。じゃないと面倒だしさ。」
「ハルト君ならきっと大丈夫だよ。」
「よし。行くぞ! ディメンション・ボックス! ほら!早く行け! 」
ガルードがガルシアさんを岩で出来た箱で閉じ込めた隙に俺は近くの裏路地へ走り出す。
裏路地で姿を隠していると3秒程後に大きな爆発音が響き渡る。
見つからないように慎重に顔を覗かせるとガルシアさんが勢い良くガルード達を追いかける姿が見えた。
どうやらガロード達は上手くやってくれたみたいだ。
よし、僕は信じてくれたみんなの為にやるべきことをやるだけだ。
えっと、合流するのがメグリ広場の噴水だから。
そこから半径50メートル以内の地点に描かないといけないのか。
でも広場ってあれ?視界が開けてるから直ぐ見つかるんじゃ……。
時間が無かったとはいえもっといい場所で待ち合わせるんだった。
過ぎたことを悔やんでもしょうがない。
後5分しか無いのだから。
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