第6話 今の僕にできること 02

「なんだか大変な事になっちゃったね。ふふ、でも楽しそうだな。」

「そうだね。でもコレで勝ったらギルドの財政も安定するだろうから頑張るぞ。……でもあいつら本気で来そうだから遊び感覚だと直ぐに負けそうよ。」


ガルードとフルアは仕事を終えると直ぐ様作戦会議すると言ってギルドハウスから帰っていった。

あんなに酒を飲んでいて仕事になるのか不安だが、普段からやっているようなので問題はないのだろう。

僕とシャルルは元々ギルドハウスで暮らしているので夕飯を食べながら作戦会議を始める。


「遊びでも全力だけどね。ガルード君とフルアちゃんは。」

「あいつららしいね。今からあの2人の対策に付いてまとめていこうか。何を気をつけたらいいかとかさ。」


正直僕には2人がどんな魔法が得意なのかよくわからないのでシャルル頼りなのだが。


「そうだね。まず注意しないと行けないのはフルアちゃんかな。」

「どうして? 」


そんな僕の意図を介さずシャルルが意見を出してくれる。

てっきり一番厄介なのはメグリナリアでも名が通っているガルードなのだと思っていたが、違ったようだ。


「知ってると思うけどフルアちゃんは回復魔法を使えるでしょ? その応用で身体強化もできるんだ。厄介な事に回復魔法と一緒で他人や自分まで強化できるんだよ。」

「なるほど。そうなると普通にやったら勝ち目がないんじゃないか? 」

「普通にやったらね。でもあっちが魔法を使うんだからこっちも使えるんだよ。ハルト君の魔法は役に立たないけど、私の魔法なら対抗できるかも。」

「役に立たないか……。」


まだ何が使えるのかよくわかっていないのだが大したことはできなそうで少しがっかりだ。

僕の魔法が役に立たないと言われた事に落ち込んだと勘違いしたシャルルは慌てて訂正する。


「あ、ご、ゴメンね。そういうつもりで言った訳じゃないの。ただレースには向かないってだけで、普段は頼りにしてるんだよ? 」

「ありがとうシャルル。それでシャルルの魔法でどうやって対抗するって? 」

「えっとね。私の魔法って風を使うでしょ? だからそれで後押しするの。」

「そっか、風魔法か。それなら納得だ。もしかして空を飛べたりする? 」


高等な風魔法使いだと飛べたりするらしい。

実際僕の元居たギルドでも飛べる人がいた。


「空は流石に飛べないけどレシ・フィールとかなら使えるよ。」


レシ・フィールはごく一般的な風魔法で、足に風の力を貸りて走力や跳躍力を向上させる魔法だ。

一般的な魔法で一応靴に魔法陣と風の魔石を仕込むことで風魔法を使えない人でも使えるが、魔石は高価な物も多いので使える人は重宝される。


「そっか。それなら問題ないね。互角に戦えそう。」

「頼りにしててね。」


シャルルは朗らかな笑顔で答えてくれる。

この子の笑顔は本当に安心する。

ガルードとフルアが何をしてもシャルルが一緒ならきっと大丈夫だ。


「明日は絶対勝とうなシャルル。」

「うん。でもみんなが無事に終わるといいな。」

「大丈夫だって戦う訳じゃないんだよ?ただのレースだから。」


しかしシャルルにだけ頼るのは情けないので出来る限りのことはしておこう。

夕飯を食べ終わると僕はシャルルと分かれ、明日の準備に取り掛かった。

とは言ってもと時間もないのでそんな大した事はできないのだが。


翌日。

待ち合わせとなる正午5分前にガルードとフルアはギルド前に現れた。


「覚悟はいいなハルト! どっちが勝っても恨みっこなしだぜ。」

「それは僕のセリフだ。もう無駄使いはさせないからな。」

「ふふ。そういうのは勝ってから言いなって。」


勝負前に火花を散らす俺たちをなだめようと、シャルルが間に入り勝負の確認を取り始めた。


「それじゃあルールの確認をするね。まずこの町外れにあるギルドハウスをスタートして、街の中心にある集会場を目指すの。それで依頼を何でもいいから受注してこのギルドハウスへ戻った方が勝ちだよ。」

「一応確認しておくけど、魔法は使っていいんだよね? 」

「うん。全力でやらないと納得しないと思うから。お互い魔法ありだよ。」

「わかった。つまり何でもありなんだな。」


魔法が有りと聞いた瞬間ガルードがニヤリと口元を釣り上がる。

これはなにか企んでるな。

気を付けないと。


「でも危険なことや他の人に迷惑がかかることはダメだよ。」

「そんなことしないって。それじゃあ、ルールも確認したところだし始めましょうか。」

「古典的だけどこのコインが落ちたらスタートね。それじゃあ行くよ。」


僕はコインを構え弾くと、さっきまで緩んでいた空気がガラリと変わり皆僕のコインに集中し始める。

コインが地面に落下し、耳を突くような甲高い音が響き渡ると同時に、僕とシャルルは走りだす。


「行くよシャルル! 」

「うん。」

「ディメンション・ジェイル!! 」


ガルードの声が後ろから聞こえて来ると同時に僕とシャルルは大きな岩檻の中に閉じ込められる。

何かしてくると思ったけどまさかスタートからこんな事をしてくるとは思わなかった。


「はっはっは。悪く思うなよ。何でもありってルールだからな。これも反則じゃないはずだぜ。」

「そういうこと。じゃあお先にー。」


確かに反則ではない。

魔法が有りの時点で妨害されるのは予想していたが、これはあまりにも卑怯だ。


「卑怯だろこんなの! 」

「卑怯じゃありませーん。ルール通りですー! 」


こんな卑怯な手を使われた事よりもガルードの勝ち誇った声が凄いムカつく。

しかし、どうにか出ようとするも思いの外檻が頑丈でびくともしない。

僕が色々試行錯誤していると隣からスンスンと鼻をすする音が聞こえる。


「ごめん、なさい。ごめんなさい。私が、もっとしっかり考えてれば。ガルード君ならこういうことやりそうだってわかってたのに。こんなあっさり、負けて。ごめん、ね。ごめんねハルトくん。」


シャルルは僕の裾を軽く掴み俯きながら泣いて謝り続ける。


「シャルルのせいじゃないって。あんなことするなんて予想もできないよ。まさかまともに勝負すらしないなんてね。」

「でも、ガルード君の魔法も、性格もわかってるから。私がもっと気をつけてれば。」

「僕だって警戒してなかったんだからお互い様だって。それにまだ負けてない。」


僕はシャルルを慰めながら地面に屈みこむ。


「で、でも……どうやって? どうやってここを出るの? 私達の魔法じゃ出られないよ? 」

「ちょっと待ってね。準備するから。」


僕は地面に円を描き、その中に細かい文字や図形を書き続る。

何時ぞやにみんなに見せた物とは別物の魔術陣を完成させる。


「これは……魔術陣? 」

「そう。これで完成っと。じゃあ行くよ。」


魔術陣を完成させるとシャルルと一緒に円の真ん中に移動し、同時に両手を付いて魔力を集中させる。

ハルトがなんの魔法を使えるかわからないが、魔力自体は感じる。

それだけ分かればその魔力を核に魔術陣は発動できる。


「境界と境界を繋げし魔の円よ! 今我の力にてその力を示せ! 」


詠唱を叫ぶと同時に魔法陣が強く光り輝きだす。

視界が真っ白になったと思うと先程とは全く別の景色へ移動していた。


「え、えぇ!? す、すごい! すごいよハルト君! 何が起きたの? ギルドハウスも見えないみたいだけど。」


魔術陣による移動の驚きでシャルルは先程まで泣いていた事は忘れて僕を質問攻めにする。


「実は昨日の夜魔法陣を仕込んでおいたんだ。これは魔術陣と魔術陣の間を移動する魔術。」

「すごいすごい! そんな魔術まで使えるようになってたなんて知らなかった! 」


そうなのか?

ハルトの部屋に独自の魔術書があったからてっきりこれくらい使えるものだと思ってたんだけど。

内容も僕が知らないような複雑で独特な物だったし。


「本当は集会場まで移動したかったんだけどさ。この魔術は半径50メートルくらいの距離しか移動できないんだ。いくら魔術と言っても丸々人を一瞬で移動させるのは大変な事なんだ。」


後1つ、ここから50メートルの所に魔法陣を仕込んでて、ギリギリの勝負の最終手段で使おうと思ってたんだけど思わぬところで役立った。


「流石に集会場まで行くのは反則だよ。でもよかった。まだ追いつけるかも! 」

「そうだね。じゃあ早速お願いしてもいいかな? 」

「うん。任せて! 」


シャルルは先程の涙は嘘のように気合を入れるとレシ・フィールを発動させる。

体がシャルルの魔力に包まれると身体が羽根の様に軽くなる。

試しに軽くジャンプしてみると3メートルほどの高さまで跳ぶことができた。


「お、体が軽い! これなら一気に追いつけるぞ。」

「うん。行こうハルト君。こんなズルい手を使った2人になんか負けてられないよ。」


シャルルの目に普段は見ることの出来ない力強い物を感じる。

いつもおとなしい子がやる気を出すのって頼もしいけど怖くもある。

その矛先が僕じゃなくて本当によかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る