第4話 君と僕が入れ替わった日 04

「え、ちょっとどうしたのハルト君! 服もボロボロだし怪我だらけじゃない!? 」


宛もなく無気力で歩いていた僕の前に現れたのは先程の少女シャルルだった。

手に紙袋を持っていてその中からバゲットや色々な食材が飛び出しているのでどうやら食料を買いに街まで来たようだ。

僕の様子を見たシャルルは大慌てで紙袋を放り投げ僕の手を取った。


「急にいなくなったと思ったら。ねえ、何があったの? 大丈夫? 」

「……気にしないで。大丈夫だから。」

「大丈夫じゃないって! こんなに怪我してるんだよ! 早くギルドハウスへ戻らないと。」


シャルルは華奢な腕で強引に僕を連れて歩く。

少しでも抵抗したら止まりそうな力だったが、今の僕に抵抗する気力はなかった。

握られた手の暖かさ心地よくて、不安な心が少し和らいだ気がして少しでも長く感じていたかった。

ギルドハウスへ到着するとシャルルは直ぐに怪我の手当をしてくれた。


「ごめんね。本当はフルアちゃんが居てくれれば直ぐに治せたんだけど……。」

「これだけでも大分楽になったよ。ありがとう。」


僕はまだ割り切れず虚ろな目でシャルルに手当をしてくれたお礼を告げる。

お礼を聞いたシャルルは立ち上がり踵を返して台所へ進んでいく。


「それじゃあ、ご飯作るから待っててね。まだご飯食べてないよね? 今日はいい魚が売ってたんだよー。楽しみにしててね。」

「……何があったのか聞かないの? 」

「うーん。だって言いたくない事なんでしょ? もう傷の手当はしたから安心だし。ハルト君が話したくなるまで待ってるからいつでも言ってね。」

「ごめん……。」


何をどう説明すればいいのか整理がつかず、気まずそうな顔をして断ってもシャルルは微笑みを崩さない。


「ハルト君はいつも内緒にするから。本当は謝る位なら話して欲しいけど。」

「ごめん。」

「だから気にしないで。ふふっ、本当に今日のハルト君はおかしいね。」


これから僕どうしたらいいのだろう。

元に戻りたい。

あんな奴に僕の力が使われるなんて嫌だ。

だけど入れ替わりの魔術なんて今まで聞いたこともない。

御伽草子の中だけの話だと思っていた。


「はい。ハルト君出来たよ。冷めないうちに食べよ。」


色々な考えをグルグルと巡っているといつの間にか台所へ行ったシャルルが戻ってきていた。

どうしてこの子はこんなに人に優しくできるのだろうか。

僕が不思議そうにシャルルを見つめていると照れ笑いを浮かべるシャルル。


「そんなに見つめてどうしたのかな? 」

「いや、何でもない。」

「それならいいけど。何かあるなら言ってね。」


あいつは最後に何か言っていたな。

入れ替わった姿のまま勝てたら戻ってやると。

勝手に入れ替わって何様のつもりだよ。

だけど今のところ解決方法はこれしかない。

なんで僕があいつの為に強くならないといけないのか。

いいや、違う。

あいつは否定した。

自分はこれ以上成長できないと。

ならやってやる。

フレーズよりも強くなってあいつは間違っていたって証明してやる。

ボコボコにした上で、あいつが信じきれなかった可能性を示してやる。

1つ目指すべきゴールが見えた事で、不安が軽くなる。

だけど行く宛も無いし、しばらくここでお世話になるしかないよな。

気が進まないけどリターンズ・ウィンドだっけか? のみんなも悪い人たちじゃ無さそうだし。

そもそも入れ替わったフレーズだってカオスアテットで生活してるんだ。

なら問題無い。

お互い様だ。

そうと決まればまず腹ごしらえだな。


「あ、これ美味しい。」

「でしょ!ああ、だからってそんなに焦って食べなくても大丈夫だよ。おかわりも一杯あるから心配しないで。」

「ありがとう。」


君の優しさのお陰で少し不安が拭われたよ。

僕じゃなくてハルトに接してるってわかっているけど、それでも全てを失った今の僕には十分だった。

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