第2話 僕と君が入れ替わった日 02

「おーい何やってるんだよ遅いぞ! 早く見せろよー! 」

「そうだそうだ! 早くやってよー! 」


2人が出て行ってから3分ほどで着替えて出て行ったのに、2人はまだ興奮冷めやまぬと言った様子で囃し立てる。


「ちょっと待って。この魔法には時間がかかるんだから。」


実際はカードに魔術陣を簡易化してあるので即座に使えるようになっている。

だけどここにはそんなものは無いので地面に手書きで描くしか無い。


「へえ。魔術陣じゃん。ハルトそんなもん書けたっけ? いつの間に勉強したんだ? 」

「そんなの書いてるところなんて見たこと無い。もしかしてやっぱり別人? 」

「うーん。ハルト君はフレーズさんの事よく研究してたからその延長かも? 」

「ごめん。少し静かにしてもらえるかな? 」


一重に魔術陣と言っても種類は色々だ。

魔力を使って空に描く魔法陣もあるのだけれど、まだこの体だと無理そうだ。

なので今回は直接書き込む魔術陣で行うことにする。

基本的には円の中に効果と範囲を書き込み、核となる魔力を設定すれば完成なのだが1つでも間違えると作動することはない。

だから一個一個確実に丁寧に仕上げていく。


「おいおいまだかよー。」

「やっぱり出来ないんじゃないの? 」


待ちくたびれたとばかりに文句を垂れる2人。

この人達は本当に人の話を聞かないな。

ダメだ集中集中。

あと少しで完成だ。

ここを一筆入れたら。


「よっし出来た! 」

「お、やっと出来たのか? 」

「もう待ちきれないって! 早く早く! 」


完成の合図を告げるとさっきまで文句を言っていた2人は途端に目を輝かせて急かしてくる。


「危ないから僕の後ろに回ってくれない? 」

「おっしわかった。」

「オッケーオッケー。」


2人が後ろに移動するのを確認すると魔法陣を機動させる為、鍵となる魔法を発動させる。

とは言ってもただの火球の魔法なんだけど。


「我が魔力よ。新たなる魔の流動により生まれ変われ。個は多となりて仇なす敵を焼き払う! コンヴェルジェンス・コメット! 」


そして魔術陣の上を通る瞬間に詠唱を叫ぶ。

鍵となる魔法も必要だがそれと合わせて設定した詠唱を読まないと魔術陣は発動しないのだ。


「うおおおおおおおおおお・・・お? 」

「あれ、これって? 」


拡散していない?

おかしい。

魔法陣は何度もチェックして完璧だったはず。

そこで僕は気がついた。

魔法陣は問題ない。

問題があったほうは僕が打ち出した魔法の方だった。

前方に飛んで行く火球がいつもより小さい。

いや小さいなんてものじゃない、まるで火の粉だ。

火球なんて呼ぶのもおこがましい。


「くははははは! なんだよ自信満々に言ってたのに! 失敗してるじゃん! でもすごいな! お前火属性魔法なんて使えなかったのにさ。」

「くっ、ふふ。でもこんな火じゃ虫も殺せないわね。とんだ魔法だわ。」

「そ、そんな筈は。」


戸惑う僕を気にせず爆笑する2人にどうしたらいいのかわからずオロオロとしているシャルル。

人が生成する魔力には属性があり、使役するにあたって相性が存在する。。

稀に例外もあるが大きく分けて火、水、風、土、雷、聖、邪の七種類だ。

火属性魔法は僕の得意魔法。

これは何かの間違いだと色々な魔法を唱えてみるが何も起こらない。

何か起きたとしても効果がとても小さいものだったりと散々だった。

魔法の理屈や感覚は頭が覚えているのだがどうしても上手くいかない。

自分の体ではないからか?


「もういい。分かったお前がフレーズだ。」

「そうね。あなたがフレーズだって事はよくわかった。だから次はあの剣技を見せて頂戴。」


さっきまで大笑いしていたのに落ち込んでいた僕を見て2人が急に優しくなる。

認めてくれたのは嬉しいが、その優しさが今は痛い。


「そうだな。魔法は無理でも剣技ならできるかもしれないぞ。見せてくれよお前の剣技を! 」

「ね、ねえもうやめようよ。そこまでしなくても……。」


ガルードが僕を励ます為に笑顔でそんな事を言ってきたが、シャルルは心配そうに止めてくる。


「いいえ。これはハルト、いやフレーズのためでもあるのよシャルル。今得意の魔法が使えなくて失った自信を取り戻すための。」

「そういうわけだ。よろしく頼むぜフレーズ。これを使えよ。ほらっ。」


だけどそれを赤髪の女性が遮り、ガルードが片手剣を手渡してくる。

ガルードが手掛けた業物かと思ったが、よく見るとどこにでも売っているような鉄の剣だった。

僕は剣士や魔法剣士では無くあくまで魔法使いなのでそこまで力を入れて鍛えてきた訳ではない。

剣技だけなら一流の剣士に負けてしまうだろう。

それでもそこら辺の剣士に負けるつもりはないが。


「わかった。」


まずは基本で必須な居合から試してみることにする。


「ふっ! 」


全身の力を抜いた納刀状態から一気に力を開放。

単純に見えて、微妙な力加減で鞘に引っかかったり素早い抜刀が出来ないものだ。

普段なら何も考えず体が自然と動くが今回はそうもいかない。

案の定違和感を感じての抜刀。

居合と呼ぶにはお粗末なものだった。

そして抜刀した勢いで演舞のように数回素振り繰り返す。


「準備はいいようだな。俺が相手してやるから試しに攻撃してみろよ。」


ガルードはどこから取り出したのか、ガルードの背丈程ある斧を構えて立っていた。


「いいの? 安物だとは言え腐っても真剣だよ。危なくない? 」

「おいおい。お前と戦うより野生の魔物と戦ったほうがまだ危険だって。それとも俺の実力を軽んじてるのか?それともお前の腕に自信がないのか? 」


造形師のガルードは確か戦闘もいけるって聞いたことある。

噂通りなら問題ないかな。

それにここまで煽られて引いたら認めたみたいで悔しいし。


「わかった。全力で行くよ。」

「おう来い!」


軽いジャブ程度に上段中段下段にそれぞれ一撃ずつ攻撃を仕掛けてみる。

それを器用に斧の柄を使って最小限の動きで防ぐガルード。


「おいおい全力じゃなかったのか? それともお前の全力はそんなものなのか。がっかりだな」


はぁ。と挑発する為あからさまにため息をつくガルード。


「わかった。怪我しても知らないからな。」


今度はさっきと打って変わって全力で攻撃を仕掛ける。

左右上からほぼ同時に繰り出し上段に意識を向かせてから一気に下から切り上げる。

先ほど見たガルードの動きなら軽い怪我ですむだろう。

と思っていたのだがガルードに難なく防がれてしまう。

驚きながらも次の一手を仕掛けるが、それもまた防がれる。

くそっ、どうして防がれるんだ!

全力でやっているのに!

攻撃が当てられない事に焦りを感じて必死に攻撃する僕に対してガルードはどこか余裕な表情で攻撃を防いでいる。


「く、だ、だめ。ふははっはは。」

「だ、ダメだよフルアちゃん笑っちゃ。ハルト君は必死になんだから。」

「で、でもそんなこと言ったって。」


こうなったらヤケだ。

どうにかして一撃与えないと気がすまない!

剣を持っていない方の手で作った火の粉を近距離から思いっきりガルードに向って噴射させ、驚かせた隙に攻撃を叩き込む!


「おっと! 」


不意に魔法を使用したことが予想外だったのか、こちらの予想以上に驚いていたが直ぐに体勢を立て直す。

くっそ。これでもダメなのか。


「アハハハハハ! もうダメ無理! 無理だってシャルル! 」


僕らの戦いを見ていたフルアが突然大笑し、それに釣られたかの様にガルードも笑い出した。


「笑っちゃダメだって二人共! ハルト君必死に頑張ってたんだから。」


爆笑している2人を咎めるシャルル。

だけど、2人は笑うのを止めない。


「だってシャルルも見たでしょ。チャンバラで大人相手にどうにかして攻撃を当てようとしてる子供にしか見えないじゃん!そう思うと可笑しくって。」

「確かにムキになって可愛かったけど……。」

「そうなんだよ! 俺もさー、合わせるのが大変だったぜ」


こっちは必死にやっているのにここまで笑われると流石の僕も頭にくる。


「こっちは真剣にやってるのにそんなに笑うことはないじゃないか。」

「だってねえ。いいわ。今度は私に攻撃してきてよ」

「後悔したって知らないからね! 」


武器も持たずに素手のフルアまで一気に距離を詰め横一閃の斬撃を仕掛ける。

だけど僕の攻撃をフルアは受け止める。

って受け止めた!?


「なんていうか、端から見てても攻撃がわかり易いんだよね。頭に体がついていってないって言うの? それにあんたは自覚してないみたいだけど攻撃が遅いし。もうちょっと頑張らないと。」

「お、遅い? 」


こっちは体が悲鳴を上げるほど全力で攻撃してるのに。


「ま、ハルトだからな。剣もまともに使えなかった筈なのに意外と様になっててじゃないか。驚いたぞ。」

「そうね。ここまでできるなんて驚いたけどさ。もういいでしょフレーズごっこは。楽しかったわよ。それじゃあ今日の仕事と行きますか! 」

「ハルト君。私は凄かったと思うよ。魔術陣や剣戟まで真似できて。」


攻撃を当てることが出来なかった上に、遅くてわかり易いとまで言われた。

今までやってきた事を否定された気分になる。

その結果を受け入れられず戸惑う僕を見て慰める3人。


「い、いや。だから本人なんだって。僕が……。」


それでもなんとかフレーズだと言うことを信じて貰おうと声を絞り出す。

その様子を見たからか3人は本気で心配し始める。


「どうした。やっぱり調子悪そうだな。そういえば記憶が曖昧なんだっけか。今日は休んでていいぞ。そんなに仕事も依頼も受けてないしな」

「そうね。記憶喪失なんて信じがたいけど調子が悪そうなのは確かだし。」

「ハルト君ごめんね。私が騒いだからこんな事になっちゃって。」

「は。ははは……。」


もう乾いた笑いしか出てこない。

ダメだ。どうやってもこの人達に別人だと信じて貰うことができない気がする。

そんな諦めから今まで考えて来なかった事が次々に浮かび上がる。

どうしてハルトという人物と入れ替わってしまったのだろう。

原因がわからないと元に戻る術すらわからない。

そうなると一生このままなのか。

そんなのは嫌だ。

次々とマイナスのイメージが膨らみ不安になっていく。

このままどうなるのだろうと不安に押しつぶされそうになっていると1つ忘れている事に気がついた。

まだ僕のギルド、カオスアテットのみんなに会ってなかったじゃないか!

あいつらならきっと僕だってわかってくれるはずだ!

長年一緒に戦ってきた仲間なんだから!

なんだこんなに簡単な事に気がつかないなんて。

そうと決まれば落ち込んでる場合じゃない。

直ぐに行ってみんなで一緒に解決策を考えてもらおう。。

見た所ここはメグリナリアの外れに位置する森のようだ。

走れば1時間もほどでカオスアテットのギルドハウスに行ける筈。


「よっしゃ、いくぞ! 」

「おーい。いきなり大声出してどうかしたか?ってあれ、あいつどこ行った? 」

「大丈夫かなハルト君……。」

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