第47話 第三話『奇妙な事実』最終回
四角形のバトルフィールドの中で、二体のロボットが一進一退の攻防を繰り広げていた。
俊敏な動きで終始、ポジション取りを優位に進めているのは昨年度のチャンピオンである『ギャラクシーZ』だった。俺と昇太の『ギガンダーⅣ』は何度となくコーナーに追い詰められ、勝敗の決め手となる赤いマーカーをすでに一個、壊されていた。
『ギャラクシーZ』はリーチのある両腕を振り回しながら、カウンターを狙おうと逃げ回る『ギガンダーⅣ』を器用に追い詰めていった。回転をうまく使えば逃げ切れるはずだが、昇太は敵の太い腕に恐れをなし、背後を取るチャンスをことごとくふいにしていた。
「いいか、正面から馬鹿正直に行こうとするな。回転をうまく使うんだ」
俺は昇太に囁いた。右へ左へと翻弄され、いつの間にか『ギガンダーⅣ』はコーナーへと追い込まれていた。『ギャラクシーZ』は両手を広げ、『ギガンダーⅣ』の前に通せんぼをするように立ちはだかった。
重量のある『ギャラクシーZ』のボディは体当たりしたとしても、弾き飛ばせそうになかった。『ギガンダーⅣ』がコーナーに接触する音が響き、『ギャラクシーZ』の腹部から多関節を持った蛇のようなアームが現れた。どうやら一気に決着をつけるつもりらしい。
「よし、勝負だ。こっちも「奥の手」を出すんだ」
昇太がコントローラーの赤いボタンを押すと、追い詰められた『ギガンダーⅣ』の背中からも、重機を思わせる長いアームが出現した。先に攻撃を仕掛けてきたのは『ギャラクシーZ』の方だった。多関節アームが『ギガンダーⅣ』の肩のマーカーに狙いを定め、パンチを繰り出すように伸び縮みした。
「よし、こっちも挑発だ。距離は縮めるな」
『ギガンダーⅣ』の長いアームが、『ギャラクシーZ』の肩に向かって鞭のように振り下ろされた。肩を庇おうと上げられた『ギャラクシーZ』のアームと『ギガンダーⅣ』のそれとがぶつかり、鈍い金属音が響いた。
『ギガンダーⅣ』のアームが再び振り上げられると、『ギャラクシーZ』の胴体から、細長い物が突き出され、傘のように開いた。プロペラだった。プロペラはゆっくりと回り出し、肩のマーカーが回転する羽根の下に隠れる格好になった。
「畜生、これじゃ正面と上からの攻撃は効かないぞ」
昇太が叫んだ。『ギャラクシーZ』の多関節アームが、再び『ギガンダーⅣ』のマーカーに向けて繰り出された。ガツンと言う堅い音が響き、マーカーの一部が白くなった。
「昇太、アームを後ろに倒せ。倒したら右か左に回せ」
俺が言うと昇太は頭上にかざしていたアームを後ろに倒し、右に回した。そのわずかの隙に『ギャラクシーZ』のアームがまたしても繰り出された。
「よし、右スピンフックだ、昇太。肩を狙え!」
俺が叫ぶのと同時に『ギガンダーⅣ』がぐるりと右に回転した。ボディ同士が勢いよくぶつかり「ギガンダーZ」の背中のアームが『ギャラクシーZ』の左腕の下を潜り抜けて肩のマーカーにヒットした。
パリンという音とともにマーカーが割れ「ギャラクシーーZ」は狼狽えたかのように後ずさった。
「よし、続けてもう一つだ!」
『ギガンダーⅣ』はアームの方向を素早く左に変え、『ギャラクシーZ』に詰め寄った。
反射的に後ずさった『ギャラクシーZ』を逃すまいとするかのように『ギガンダーⅣ』が旋回しながら体当たりした。次の瞬間、先ほどと同じ破裂音がして『ギャラクシーZ』の右肩のマーカーが破壊されるのが見えた。同時に、ホイッスルの鋭い音が響き渡った。
「KO!勝者、ギガンダーⅣ!」
レフェリーが高らかに宣言し、俺たちのコーナー側の手を上げた。
「やったな、昇太!肉を切らせて骨を断つ、だ」
「それ、どういう意味?肉を切られても死なないの?」
昇太は不思議そうな目で俺を見た。俺は「まあな」と言った。
「背骨を折られるくらいのダメ―ジを受けるまでは、死んじゃいけない。死んだと見せかけて、何度でも生き返るんだ」
「すげえ、格好いい!」
俺は奇妙な気持ちになった。死に損ないが格好いいと言われる日が来ようとは。やはり一度くらいは死んでみないと、何事もわからないものだ。
〈第三話 最終回 了〉
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