僕の7日目
朝、目が覚める。いつも通りに、隣の部屋に目をやると、いつもなら目に映るはずの彼女がいなかった。彼女の物、棚も、机も椅子も、全てが片付いていて、ただベットの上にポツンッと電話が置いてあった。
綺麗に片付けられた隣の部屋。姿の見えない彼女。この部屋の意味。
全てを繋げて、だんだんとハッキリとした輪郭が浮かび上がってくる“答え”から必死で目を逸らす。
違う、違う、違うんだ……。きっと治ったんだ。彼女はきっと、“この部屋にいる必要がなくなった”ただそれだけだ。悪い方向へと突き進む想像を無理矢理にいい方向へ持っていく。
大丈夫。大丈夫だ……。彼女は、彼女はきっと。
止まらない涙……。震える指で、ベットの横のコールボタンを押す。そういえば、コールボタンを押したのはここに来てからこれが初めてだな。余計な事を考えながら、マスクの人を待つ。
「どうしたんだ」そう聞かれ、僕は言う。「彼女は……。隣の、彼女は何処ですか」震える声、溢れて止まぬ涙。答えを聞きたい、聞きたくない。頭の中がグチャグチャになっている。
マスクの人は少し間をあけてから言った。
「あぁ……。彼女は亡くなったよ。昨日、突然の発作でな。……彼女から君宛の手紙だ。ここに置いておく。朝ごはんも置いておくからな」そう言ってマスクの人は去っていった。
……亡くなった? 誰が? 彼女が? 何で? 何で? 何で?
グルグルと回る疑問を頭の隅に追いやってから、僕は彼女からの手紙を取りに行く。
食事横に置かれた手紙を取り、ベットに腰掛ける。ゆっくりと、丁寧に、あけていく。あけると、中に入っていたのは筆談の時に使っていたメモ用紙と、折りたたまれた紙だった。
折りたたまれた紙に描かれている事は予想できた。昨日描いていた、僕の絵だろう、そう思って開いて、予想外の絵にびっくりした。
そこに描かれていたのは、2人で手を繋いで、幸せそうに話しながら、夕日を眺めている男女だった。僕には、確かに彼らは僕らだと分かった。その絵には色がついていた。それが、彼女にとってどういう意味を表すのか僕には分からない。絵の右端に彼女の文字で書かれた、“私のヒーローへ”の文字は滲む視界の中でハッキリと見えた。
メモ用紙に目を移す。そこには彼女の文字でこう書かれていた。
“私のヒーローへ
やっと絵が完成したよ! 色もつけたから少し時間がかかっちゃった。今はまだ、君は私の過去を知らないし、私も君の過去を知らない。たけどいつか、この絵の中の私達の様に、15cmの壁に阻まれずに話せるといな!
君の絵を描いて、やっとハッキリと分かった。
私は君の事が大好きです。友達としてじゃないよ。人としてでもない。本を一杯読んでる君なら分かってくれるよね?
君の返事はちゃんと聞くからね! これからも、ずっと、ずっと、一緒にいよう。約束だよ!
君のヒーローより”
彼女の手紙を読み、この7日間、いや、6日間に思いを馳せる。
僕は、君は一体何の為に生きてきたのだろう。約1週間。たったの1週間……。僕と君は15cmの壁に阻まれて生きてきた。
この距離を遠いと感じた事は無かった。むしろ近いとさえ、感じていた。だけど、もしこの15cmの壁が無かったら2人で過ごす時間はもっと違っていたのかもしれない。
いつも、彼女と話していた椅子に座る。机に置かれた電話を取り、スイッチをいれ、画面に触れる。そういえば、僕から電話をするのは初めてだったな……。プツッという音が聞こえる。
約束を守れなくてごめんね。君を守れなくてごめん。だけど、これだけは伝えたい。もう、届かないかもしれないけれど、精一杯想いを込めて僕は言う。
「僕も、君が大好きです」
そして、そのまま机に突っ伏して彼は深い、深い、眠りについた。
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