僕と彼女の6日目
朝、目が覚める。隣の部屋に目をやると、彼女もちょうど起き出したところだった。僕と目が合うと、すぐに電話を手に取り、かけてきた。
「おはよう」眠そうな彼女の言葉に答える。「おはよう」
いつも通りにご飯を受け取り、壁を挟んで向かい合わせの席につく。彼女が座るのを待ってから、一緒に手を合わせて言う。「いただきます」綺麗に合わさった声。それから、2人で何でもないことを話しながらご飯を食べた。時間はあっという間に過ぎ、2人手を合わせて「ごちそうさま」と言う。やはり、重なった2つの声が耳に届き、気持ちが良かった。
食器をいつもの所に戻してから彼女の所に行くと、彼女は紙と鉛筆を握りしめながら、改まった様子で言った。
「君の絵を書かせてください!」そう言った彼女は、とても緊張しているようだった。
……僕の絵を?
「良いよ、別に。でも、僕は何をすればいいの?」そう聞くと、彼女はほっとしたように笑って言った。
「椅子に座っといてくれるだけで良いよ」僕がいつもの位置に座ると彼女は困った様子で言った。
「えっと……。ちょっと近いかな。出来ればもう少し離れてくれると……」
「ご、ごめん!」そう言って慌ててガラスの壁から距離をとる。椅子に座ると彼女から声がかかった。
「じゃあ、描くよ?」僕が黙って頷くと紙の上で彼女の手が動き出した。彼女の視線を感じる。恥ずかしくて体を固くしていると、彼女は笑いながら言った。
「そんなに緊張しなくてもいいんだよ?」僕は言う。「いや、でも恥ずかしくて……」自分の頬がどんどん熱くなっていくのを感じる。きっと僕の顔は真っ赤だろう。彼女は少し考えてから言った。
「じゃあ、話しながらにしよう」
「えっ、でも……」必死で何か言おうとする僕の言葉を遮って、彼女は言った。
「大丈夫! じゃあ早速私から質問。君はいつここに来たの?」
「10年くらい前かな」そう答えると、彼女は目を輝かせて言った。「あれ、私と同じ!! 私と会うまでは1人だったの?」彼女は続けて聞いた。「うん、そうだよ。君は?」今度は僕も質問する。僕の質問に、彼女は昔を思い出す様に言った。「うん、1人だった……」また、辛い過去を思い出させてしまったと思い、慌てて別の話題を探す。けれど、彼女はすぐに続けた。
「でも……。でも、ここに来てからは、君と出会えてからは、幸せだった。凄く幸せだった」彼女は笑って言った。その笑顔は眩しくて、特に何も考えずに僕は言った。「僕も幸せだよ。1人で退屈だった日々が君と出会ってからは、毎日が、キラキラしていて、楽しくて……」それ以上は言葉が繋がらなかった。だから、精一杯笑った。君にこの想いが届くように。
「あっ!!」彼女は急に叫んだ。そして、鉛筆を持った右手を物凄い勢いで動かし始めた。
「どうしたの?」僕が聞くと、「待って。ちょっと待って!!」と間髪いれずに返ってきた。黙って待っているとすぐに、「よしっ!」と言う声が聞こえた。彼女はいつもの様なキラキラした瞳をこちらに向けてきた。
「出来たの?」そう聞くと、彼女は頭をブンブンと横に振った。「まだだよ。でも、きっと、いや絶対良い絵になる! 描き終わったら見せるね。……今日は集中したいから、電話きっても大丈夫?」彼女はまるで大切な物を見失わないように焦った、それでもキラキラした瞳をこちらに向けて言った。「うん、大丈夫。じゃあね」そう言って電話をきろうとする僕に彼女はいきなり声をかけた。
「待って!!」彼女の方を見ると、何故か彼女は不安そうな顔をしていた。
「ずっと、ずっと一緒にいたい」いきなりそう言ってきた彼女によく分からず首をかしげると、「幸せなんだ……」と言葉が続いた。「幸せなんだよ、今凄く。ただ、一緒にご飯を食べるだけで、それだけで幸せを感じる。無くしたくない、君との時間」今にも泣きそうな彼女を宥める様に僕は言った。「大丈夫だよ。ずっと一緒だ」そう、僕が言うと彼女はやっと笑って言った。
「ありがとう。変な事言ってごめんね。じゃあまた後で」そう言って彼女は電話をきる。
その日1日、彼女はずっと絵を描いていた。僕は彼女を邪魔しないように、お気に入りの本を読んで過ごした。
寝る前に1度だけ彼女に電話した。
「大丈夫? 描き終わったら早く寝なよ。おやすみ」彼女は顔をこちらに向けて、笑顔でに答えた。
「おやすみ」そして、僕を気遣ってか彼女は部屋の明かりを暗くした。
ベットに入ってすぐ、僕は眠りに落ちていった。
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