僕の夜 5日目

 ……夢を見ている。幼い頃の夢だ。お母さんと一緒にご飯を食べて、お母さんと一緒に寝て、お母さんと毎日を過ごした幸せな日々。だけど僕は知っている。この幸せな夢がもうすぐ終わる事を。お母さんと過ごす日々に、影がさし始めた。僕の体に変なアザがポツポツと出来て、お母さんと過ごす時間がだんだんと短くなって、お母さんが長い長い電話をかけた次の日、この幸せな夢は終わる。

 覚めろ。ここで覚めてくれ。もう聞きたくない。僕を1番愛してくれた、僕が1番好きだった人からの、あの言葉。もう嫌だ。覚めろ、覚めろ、覚めろ、覚めろ……。

 だけど、僕の夢は止まることなく先へ進む。

 

 その日、お母さんの所に客が来た。マスクをつけていた。お母さんは僕に言った。そして、マスクの人と隣の部屋に入っていった。

 「ちょっと、お話してくるから良い子で待っててね」

 僕は良い子で待っていた。お気に入りのヒーローのおもちゃで遊びながら。

 「出たな、化け物め! お前達はこの僕が許さない」出来るだけ声は小さくした。お母さんのお話の邪魔にならないように。

 暫くすると、お母さんはマスクの人と一緒に出てきた。僕はお母さんに駆け寄った。褒めてもらいに。僕は良い子で待っていた。「良い子で待っていて偉かったね」そう、言って貰える筈だった。だけどその代わりに、もっと別の言葉が放たれた。

 「こっちに来ないで、化け物!!」

 

 ……えっ? お母さん……? 化け物って? 誰が? 僕が? なんで?


 化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物……。


 来ないで、化け物。



 ベットから勢いよく飛び上がる。規則正しい電子音とは反対に、激しく脈打つ僕の心臓。あの時から、10年以上も経っているのにいまだに見る悪夢。

 心を落ち着ける為に周りを見渡す。真っ暗な部屋。隣との境目が曖昧になって見える。

 今日も彼女と話した位置に行く。彼らの声も、彼らの病気も遮断するガラスの壁に手をつき大切な彼女に向かって彼は言う。

 「君を守れるヒーローになれるなら、僕は他人から化け物だと言われても構わない。だから、僕を頼ってほしい。君が僕のヒーローであるように、僕は君のヒーローになりたい」

 彼の言葉は、誰にも届かずに暗闇に溶けていった。

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