小心翼々とした共有その1
※別サイトで投稿した時に、大変不評だったエピソードです。これを踏まえて、この場の投稿に際して、表現をマイルドにする為に、大幅な改稿をしてみました。それでも不快に思われる方がいるかもしれませんので、忠告させて頂きますと”他の男の存在は不要”みたいな方は、読み飛ばした方がいいかもしれません。ご判断はお任せします。
―――数十分後。王都アンバルシア北区、王女親衛隊兵舎改め、赤鳳騎士団寮
先の襲撃事件でほぼ半壊となった王女親衛隊兵舎は、王女親衛隊が改めて赤鳳騎士団として始動した事、フィオナの加入によってゾフ家という、まともな資金提供者を手に入れた事で、予算に
まだ細かい部分にまで手は届いてないものの、ようやく人が住めるようになったのは、つい先日の事だ。とはいっても、基本的な構造はそのままに、突貫で外装や内装を整えた程度の簡易な改築で、建て直しは終了予定になっている。
何故なら、ここは彼女達にとっては訓練場、一時的な仮住まいでしかないからである。赤鳳騎士団は親衛隊として背景が強い。本格的に動くようになれば、アイリーンの側近としてこの場所を離れて過ごす事の方が多くなるから、この場所が立派である必要が少ないのである。
ただ、もしそうなった時に、マテウスは自らの身の振り方が気にならないでもなかったが、(建前上は教官なので、ずっと彼女達の傍にいる訳にいかないので)心に決めた所でその道を進める訳でもなし、今も自らが選んだ道を歩いているとは言い難い。そしてなによりそんな先の事に頭を悩ませるのも馬鹿らしいと考えるような……彼はそんな男であった。
しかし、その反面。降りかかる火の粉に対しては、誰よりも迅速な対応を示すのも、マテウスという男だ。
今、マテウスが立つ場所は、彼の部屋、その目前の廊下。そして、彼の足元では、顔を合わせた事もない、半裸の男が怯えたように体を縮こまらせていた。
半裸の男はその直前まで、全身に酒気を帯びながら、
半裸の男の顔は、マテウスに対しての恐怖に歪み、赤ら顔から青ざめた色へと変色していた。そんな表情のまま、必死に弁明を重ね始める。当然だ。絶世の美女に誘惑された先で、荒事に慣れてそうな2m近い男に引きずり回されれば、大抵の者はこうなるだろう。
「……ちょっ! 待て、待ってくれっ! これは違うんだ。俺はあの女に誘われてここに来ただけでっ! それに、まだなにもっ……」
人生で最高の出会いと、最悪の出会いを同時に果たした男は、瞳に涙を溜めて、必死に言葉を並べようとするが、マテウスはそれを彼自身の衣服を投げつける事で黙らせ、同時に頭皮を掴み上げて、間近に顔を寄せて睨み付ける。
「静かにしろ。1度は許してやる。だが、もう1度俺の女と、この場所に近づいたら……分かってるな?」
「イヒッ……は、はいっ! 絶対、ぁ痛っ! すいません、すいませんっ!!」
マテウスが、半裸の男の頭蓋を掴む手に力を込めると、彼は力の差に愕然として痛みに身を崩しながら何度も平謝りをした。そうして半裸の男は、更に瞳に涙を溜めながら、自身に投げつけられた衣服を、這いつくばりながら必死に搔き集める。
「目障りだ。とっとと失せろ」
「はっ、はいっ!」
「静かにしろ。何時だと思ってんだ」
「ハイ」
そうマテウスが追い立てると、両手で衣服を抱えて、半裸のままで廊下を走り去っていった。マテウスとて、あの男に罪がないのは分かっていた。少々可哀想な事をしている自覚もあったが、これぐらい強く脅しておかないと、ズルズルと関係を断ち切れないのだ。
マテウスの部屋にあの男を連れ込んだ原因……ロザリアはそういった美貌、魅力を兼ね備えた魔性なのである。
「おかえりなさい、マテウスさん」
一仕事終えたマテウスがベッドへと腰かけると、ロザリアは後ろから彼の背中にもたれ掛かり、首に腕を回しながら、その胸板に指先を走らせる。少しの酒気と女の汗とが混ざった色香を放ちながら、肩に顎を乗せて熱い吐息を耳に噴き掛けて、甘えた声で囁き、胸の
「随分遅かったですね。待ちくたびれちゃいました」
「どの口で……まぁいい。いや、良くないか。これで3度目だったな? 前にも伝えたと思うが、君個人が誰とよろしくやろうと構わない。しかし、俺の部屋に男を連れ込むのは勘弁してくれ」
「まぁ、感心しないわ。私が男を連れ込むだなんて。彼が勝手に舞い上がって、
ロザリアは両手でマテウスの顔を捕まえて、自らの顔へと向ける。そして普段は大きく柔和で少し吊り上った瞳を細め、
「ちょっとからかっただけです」
ロザリアの
マテウスは彼女の瞳の色がエメラルドのような緑であると、今更ながらに知る事になった。そうする事によって、自分が彼女に魅入ってしまっていた事を自覚する。
「……なんにせよだ。前回までの宿舎代わりに使っていた宿屋と、この兵舎では事情が違う。この場所に住む女騎士は、男を連れ込むような女だと、噂が立つような真似は、彼女等にとってもアイリーンにとっても、少々可哀想だとは思わないか?」
「はーい。反省してまーす」
一呼吸を置いて頭を冷やした後、ベッドから腰を上げてロザリアの衣服を手に取り、彼女へと手渡す。しかしロザリアはそれを受け取ろうとはせず、横になったまま布団から顔だけを出して、拗ねた表情を浮かべる。
「ただ一言……俺が抱いてやるから他の男とは寝るなって、どうして言ってくれないんですか?」
「ヴィヴィアナに殺されたくはないからな。それに、嘘は苦手なんだ」
「嘘吐き。俺の女って言った癖に」
「苦手なだけで使わないとは言ってない」
「ふふっ、変な屁理屈っ……ねぇ、マテウスさん。もしかして、なにかありましたか?」
察しのいい女だと、マテウスは内心で毒吐いた。彼自身は平然と受け答えしているつもりではあったが、どうしてもロザリアと話している間、彼女の経歴が頭をチラついていたのは事実だったからだ。
「どうしてそう思った?」
「今夜は少しだけ、優しい気がします。いまだに私を追い出そうとしませんし」
「今の時間帯に強引に部屋へ返して、君の部屋の隣で眠るヴィヴィアナに気づかれると、面倒だからな」
「……私じゃ、力になれませんか?」
マテウスは迷っていた。ここで誤魔化す事は可能だが、結局それは問題の先送りでしかないからだ。元々、ロザリアには相談する案も浮かんではいた。そう考えると、邪魔の入らない今のこの時間はベストの選択ではないだろうか? と、思ったのだ。
「今、君をここで抱いたとしても、俺では君を満たす事は出来ないだろう」
「? どういう……」
「力になれないのは、俺の方だ。ロザリア・カラヴァーニ」
そうしてマテウスは、ヴィヴィアナとロザリア。彼女等2人が隠し通してきた家名を使って呼びかけた。
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