第27話
「バイト? 山本さんが?」
もりちゃんが声を出した。私はうん、と頷いた。
「なんで?」
「わかんないけど、前からやりたかったって言ってた。」
「いつから?」
「来週だって。」
「うちの学校ってバイトいいんだっけ?」
「ほんとはダメなんだけど、けっこうやってる人いるって。」
「ふーん。で、なんのバイトするの?」
「コンビニだって。」
「どこの?」
「え? いや、えーっと、どこだったかなー?」
「ちょっとちひろ。」
もりちゃんがキッと私を睨んだ
「え?」
私は心の中でしまった、と思った。嘘がバレた。
「ど、こ、で?」
もりちゃんが私の顔に顔を近づけながら聞いてきた。
「あ、あの、南町の、コンビニ、です。」
目をそらせずに私が言うと、もりちゃんはニヤっと笑って、ふふーん、と鼻を鳴らしながら
「ごちそうさま」と言った。
「な、なになに、私なにも、何も言ってないよ。」
「山本さんが勝手にそこでバイトするって決めてきたの?}
「そ、そーだよ。私も昨日、初めて、突然、聞かされたんだから」
「へー。それはそれは。ごちそうさまでした。」
南町は、学校から私の家の方角にあって、みちくんの家とは反対方向だった。あと、そのコンビニは、私の通学路にあって、私の家から、そう遠くない場所にあった。
昨日、電話でみちくんが突然「バイト始めるんだ。」と言った。
コンビニのバイトで、3年生のナントカさんも働いてるから紹介してもらったと言ってた。私はコンビニで働くみちくんの姿を想像して、なんだかすごい大人だなー、なんて感心した。自分でお金を稼ぐなんてすごいな、と思った。私もいつか、バイトしたいな、と思った。
なんで? というのは私も率直に聞いた。突然のことだったから、何も考えずに質問してしまった。みちくんは
「えー、だってほら、ちひろとデートしたりするのにお金必要じゃん。バイト代もらったらおいしいものご馳走するよ。」
と言っていた。私はなんかすごい嬉しかった。でも、
「でもさ」
もりちゃんが言った。「バイト始めちゃったらあんまり会ったりできなくなっちゃうんじゃない?」
私はドキッとした。さすが、もりちゃん、と思った。
「うん。」
私は力なく答えた。
もりちゃんはそんな私の肩をぽん、と叩いて
「とか言って。毎日学校で会ってるし。LINE、はじめたんでしょ?」
と明るい声で言った。
「うん、そだね。」
私は答えた。授業の開始を知らせるチャイムが鳴って、私たちは席に着いた。
*****
夏休みが終わると、学園祭の準備が本格的に始まる。今年は文化祭の番だ。うちの高校は文化祭と体育祭を交互に行うことになっている。そこそこ盛り上がるし、それなりの楽しい内容ではあるものの、そんなにみんなやる気があるわけでもないし、積極的に参加をするという奴は少ない。
生徒会室に集まるのは各部の部費の決定会議と、学園祭シーズンぐらいだ。
時間前に生徒会室に入ると、会計の女子がすでにパソコンを叩いていた。
「早いね」
「あ、山本さんこそ。早いですね。」
会計さんはこっちを向いてそれだけ言うと、メガネを少し直してまたパソコンに向かってしまった。
「深沢、少し遅れるって。」
椅子に腰掛けながら、言った。
「またですか。会長さんにも困ったものですね。」
会計さんは、淡々と、パソコンのモニタから目を離さずに言った。
相変わらず、仕事熱心ですねえ、と思いながら、きっちりと揃えて並べてある資料に目を落とした。
「山本さん」
会計が呼んだ。キーボードを叩く音は続いていたから、俺も資料を見たまま、「はい?」と答えた。
「ご覧のとおり、議事が詰まってます。時間になったら会議を始めてくださいね。」
「え、おれが?」
「過半数が出席していれば委員会は成立します。会長が不在の時は副会長が権限をもちます。ですから」
「あー。はい。わかりました。」
「よろしくお願いします。」
時間になると、生徒会役員が、会長を除いて全員席についていた。
「えーでは、時間になりましたのではじめます。」
この瞬間から、秋の文化祭準備がはじまる。
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