第26話

みちくんと手つないじゃったー!


私は、ものすごい勢いで自転車をこいだと思う。多分、何台か車を抜かしたんじゃないかな。よく、覚えてない。


みちくんと、まさか、今日、手つなげるなんて思ってなかった。いきなりだった。突然過ぎて、心の準備ができてなくて、すごいドキドキしたんだからーっ! みちくんのバカーっ!


心の中で叫んだ。でも、顔はニヤニヤしてた。ニヤニヤ、ニヤニヤしてた。

みちくんの手は思ってたよりしなやかだった。大きさは、想像通り。でも、男の人って、あんなにそっと手を握るんだな。もっとギュッと握られるのかと思った。そっと、うーん、ふわっと、温かい空気にそこだけ包まれたような、とか、すごく柔らかい毛糸の手袋に包まれたような、そんな感じだった


家に帰ると、ごはんがあって、いつも通りの時間が過ぎて、お風呂に入ったり明日の準備をしたりした。

部屋の床に座って、ニヤニヤした。

漫画みたいに、クッションを抱えて、顔をうずめて、ジタバタした。


ケータイを取り出した。写真を見た。


今日、もりちゃんが撮ってくれた。

みちくんと、私の写真。ツーショット。私服の2人。


拡大して、ずうっと、見た。


幸せだった。この人が、私の彼氏で、私はこの人の彼女で、私はこの人のことが大好きで、この人は、私のことを、好き。


「今日はありがとう」


メールを送った。

すぐに返ってきた。

「こちらこそ。ケーキ、おいしかった。あと、ちひろの手、あたたかくて、可愛かった。また、つないでいい?」


きゃーっ! って思った。大胆!みちくん、意外と大胆だよ! って。

「うん。ぜひ、お願いします」

って返した。すごくドキドキしながら。それから何回かメールして、私はベッドにもぐりこんだ


ケータイの写真を見ながら、みちくんの手のぬくもりを思い出す。

ドキドキ、ドキドキする。

あのまま、誰も来なかったら、、、


みちくんがこっち見て、私も、みちくんの方見て、目をそらさなかったら?

ドキドキした。

キス。された?

みちくん、したかったのかな?

してくれる、のかな?

私は、、、


きゅん、とした。


手のひらから、ひとつにからみあって、溶け合っちゃいたい、って思った。

唇から、私とみちくんがひとつになれたらいいのに、と思った。

好きだった。ほしかった。みちくんを、私だけのものに、いや、私を、みちくんのものにしてほしかった。


ケータイから意識が薄れて、頭の中で、みちくんと一緒にいる想像の世界にとんだ。

みちくんが私にキスをした。

私はちっちゃくなって顔を隠す。

みちくんは、だまって私の顔をおさえて、また、キスをした。

長くて、深いキス。

私は、身体の力がぬける。

みちくんが、強く私を抱きしめる。

私は、そっとみちくんの背中に腕を回す。恥ずかしくて力を入れられない。


いつの間にか想像の世界には、白くて、シルクみたいなサラサラのシーツが敷いてある大きなベッドが置いてあって、私は、そこに、ふわっと倒された。いつの間にか2人とも裸になって、みちくんが私の身体の上に重みがなく、重なった。

やけに、あたたかくて、柔らかい、みちくんの身体。


ドクン。私の胸が打つ。

ドキドキ、ドキドキする。

この人には、なにをされてもいいと思う。全てを、任せたい、と思った。


想像の世界でみちくんに包まれて、私は、ベッドの中で、みちくんをひたらすらに想った。

身体の中が、あたたかくなって、みちくんの名前を何度も呼んだ。


かすれるような私の吐息が、暗い部屋にひとつふたつ、舞った

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