第24話

土曜日の夜、ちひろと電話していた。

俺からちひろに電話をするのは無料だから、つい、いつも長くなってしまう。


「できた?」

「うん。上出来だと思う。楽しみにしててね」

「おーすげー」

「私は明日早くに行ってるから、近くまで来たら電話して」

「はいはい。なんかでも、緊張するな」

私服でちひろに会うのは初めてだった。

つまり、私服のちひろを見るのも初めてで、緊張する


「あはは。だいじょーぶよ。もりちゃんお母さん優しいし面白いし」


「ぅえっ!?」

「えっ?」

「お母さん?」

「え?お母さん、いるよ。おもしろいの」

「あ、ああ。そうだよね。お母さんね」

「だって、うちのお母さんがいるわけじゃないし」

「そ、そうだよね。うん。あ、あはは」

「じゃあ、明日ね」

「あ、うん。おやすみちひろ」

「おやすみ、みちくん」


森田さんのお母さん。と聞いて、みょうに緊張してしまった。どこかで、なんかのつながりで、ちひろのお母さんに話がいくかもしれない。なんか、眠れないほど緊張したので、1年のテスト範囲をまとめたレポートを作った。


なんか楽しくて、明け方になってしまったので、そのまま昼まで眠った


目が覚めて、顔を洗って着替えた。

荷物を整えて、買い物をしながら、森田さん宅方面へと向かった。


そろそろ行くよ。とメールを送って家を出て、自転車をこいだ。教わった場所あたりに着いて電話をする。すぐにちひろが来てくれることになった。

ドキドキしていた。


俺はといえば、ありふれたジーパン、それでも細めのシルエットの、青っぽいのを履いて、普通のスニーカーをはいた。Tシャツを着るのはやめて、淡い黄色のポロシャツを着た。ふつーの少年になってしまった。

カバンは、勉強道具があるので、学校に持ってってる、ショルダーのカバンを持ってきた。

ポ、ポロシャツはズボンに入れたほうが好印象なのか? なんてことを真剣に考えるほどに緊張していた。

そこへ、女の子が1人やってきた。


淡い色のワンピースにカーディガンをはおって、髪の毛をアップにした、夏の景色に溶け込んでしまいそうな少女だった。

ちひろだった。

ちひろは、小さく手をふった。

俺も、つられて手を上げた。ちひろに見とれて、自転車を倒しそうになった。


「おまたせ」

「あ、いや。ぜん、ぜん」

「どしたの?」

「あ、いや、あの」

「え?なに?」

「制服じゃないからさ、ちょっと…」

「あ。これ? … どう、かな…」

「いや、かわいいや。すごい。うん、かわいい。似合ってる。すごく」


なんだか、自分の格好が恥ずかしくなった。オシャレだろうな、とは思ってたけど、こんなにかわいいとは思ってなかった。俺はといえば、ファッションなんて今まで興味をもったことすらなかったし


「ほんとぅ? よかった。みちくんも、ステキ。かっこいーです」

ちひろの目はまっすぐだった。

「ありがと。俺、着るものとかさ、わかんないから、また、教えてくれる?」

「えー。おかしくないけど、うん。それなら私にもわかるから、教える。いこ。もりちゃん待ってるから」


2人は、並んで森田さんの家へと向かった。

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