第23話

「今週末、ひま?」


けっこー、思い切ってきいてみた


「え? あー、ごめんなさいちょっと、予定があって…」


放課後、初めてのデートに誘うつもりだったのが、あっけなく玉砕した

部室長屋の前で待ち伏せしたのに。カッコわりー、と思った。


「あ! ああそうだよね。ごめんごめん」


と笑いながら言ったものの、内心ショックもあった

岡部とひかるに色々と、根掘り葉掘りデートの内容を聞き、お金がかからず時間も潰せて楽しく過ごせるプランを教わったし、2人を家にこさせて、着るものもあーでもないこーでもないと話し合ったからのに。


週末開けて待ってるに決まってんじゃん。早く誘ってあげないと、ちひろちゃん、不安になっちゃうよ! なんてひかるが言うからだ。ほらみろ。失敗したじゃねーかひかるのヤロー覚えてろよ…


などと思っていたら、ちひろが言った

「あのね。前から約束してて、もりちゃんとケーキ食べるの。それで、土曜日は作らないといけなくて。ごめんね。」


別に、ちひろは悪くないよ。悪いのはひかる。あいつさえいなければポストは青いし自転車はタイヤが3つだったに違いないさ。

などとひかるを責めた


「ん? ケーキ?」

「うん。約束してて、なかなかできなくて。それで今週末ならいいよって。いちおー、テスト勉強ってことで、もりちゃん家に行くんだよ」

「へー。そー。ケーキ。ケーキね」

「うんそう。ケーキ。前からね、約束してて」

「それあれ? チーズケーキとかでしょ? イチゴのショートケーキとかじゃないんでしょ?」

「え? イチゴのケーキだよ。ホールで作るのー」

「イチゴ? ホール?」

「うんイチゴの。ホールで」

「え? 誕生日なの?」

「え? ちがうよ」

「え? ちがうの? ちがうのに、丸いの? デコレーションケーキじゃん」

「3角のケーキなんて作れないよお」

「そらそーだけど、イチゴの丸いの?」

「今回は、もりちゃんの、だからね」

「うん、まあ、前からね、約束してたんだもんね」

「そーなのー」

「じゃ、俺も今度、いつか、作ってくれるとすげー嬉しいんだけど」

「うんもちろん。食べてくれるならいつでも」


「え? そう?」

「もちろん」


にへっ、と笑ってしまった


「すみませーん。関係者以外は部室に近寄らないでもらえますかー?」


噂の森田さんがやってきた


「お。この幸せ者め」

俺が言う。

「おつかれさまー」

ちひろが言う。


「なんですか幸せ者って」

「ケーキ、食べるんだって?」

「あ、聞きましたー? いいでしょー」

「うらやましくて泣いてたとこだよ」

「ちょっと残しといてあげてもいいですよ?」

「お。マジで?」

「いいんですか残り物で」

「ちひろのケーキが食えるならなんでもいい」

「プライド持ってくださいよ」

「あはは」


「ねえ山本センパイ、ほんとに、ケーキ分けますので、べんきょー、教えてくれませんか? 私マジでやばくて。テスト」

「ちょっと、もりちゃん、私のケーキで、なにを?」

「わはは。確かに。しかしなに、ヤバいって?」

「暗記系はいけると思うんですけど、数学とか英語とか、ついていけてないっぽいんです」

「いや、教えるのは簡単だけど…」


チラリとちひろの方を見る

ちひろは、きょとん、としていた

「いや、あの、いい?かな?」

「え?なにが?」

「いや、勉強、教えても」

「えー。なんで? いいに決まってるよ」

「あ。ああ。そうだね。うん」

他の女の子に勉強教えたりするの、嫌じゃないのかなー、なんて、思った


「じゃあ、森田さん。特訓するかね。いつがいいかな」

「ありがとうございます。じゃあ、日曜日!」

「え?」

「え?」

「ちひろも、山本さんいた方がいいでしょ? それに、2人で勉強ってわけにもいかないし、ケーキもあるし」


「え。森田さんち、で?」

「はい。うち、だいじょぶなんで」

「え。いい、の、かな?」

ちひろを見る。ちひろも首をかしげた

「だいじょぶだいじょぶ。また、連絡します。ほらちひろ、遅れる」


森田さんは部室へ向かった


「え、いい、の、かな?」

「うーん。もりちゃんがいいなら、私は、嬉しいけど…」

「なんか、あの子、変なとこに気を使ってるんじゃないよね」

「うーん…」

「もっかい、さりげなく聞いてみて。もしほんとにいいなら、喜んで行かせてもらうし、勉強もみせてもらうから」

「そう、だね。きいてみる」

「じゃ、いってらっしゃい。夜メールするね」

「うん。いってきます」


ちひろは部活へ急ぎ、俺は1人、家へと向かった。

その夜、ちひろからのメールによると、森田さんは、ほんとに勉強教えて欲しいみたいで、ゼッタイ来てほしいって言ってたということだった。


とにもかくにも、日曜日にもちひろに会えることになった

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