第22話
水曜日。部活が休みのため、一緒に帰ろう、と誘った。
帰る方向は逆だけど、家まで、いや、家の近くまで送るよ、と言った。
放課後、部室長屋の隅で2人で少し話した。みんなが大体帰っていなくなるのを待った。
定期試験までもう少しってこともあって、教科書なんかを見ながら、少し勉強した
「あー。なるほどー。すごい。わかった!」
「おーよかった。やればできるじゃん」
「いや、全然わかんなくて。でもセンパイ、すごい! わかりやすいよ」
「そお? こー見えても3年生だから。それくらい。まかせて」
「うれしーたすかる。ね、テスト前になったらさ、って、センパイにもテストはあるんだよね…」
「あ? いいよ。一緒に勉強すればはかどるよ。図書室とか図書館とかあるしさ」
「やった。じゃ、お願いします。センパイ」
「うん。まかして。おっと、そろそろ帰るか」
「はーい」
いつの間にか、スムーズに話せるようになった。いや、元から、普通に話していた2人であって、付き合い始めた時がギクシャクしてただけだった。
ただ、敬語で話すことは、なくなってた。
2人で自転車をこぐ。
他愛ない話をする。今日ね、こんなことがあったの。先生がね、こんなこと言ったの。びっくりしちゃった。そーそー、あのテレビ見た? 私、あの歌手好きなの。
峯岸さんは、いろんなことを話して聞かせてくれた。大人しいイメージで、確かにおとなしいんだけど、話したいことをちゃんと言葉にして教えてくれた。俺は嬉しかった。
あっという間に、峯岸さんの家の近くまで来てしまった。
「この近くのなんだ」
「うん」
小さな公園に、二人で入って自転車を止めた
「こっから見える?」
「うーん、その先を曲がって、もう少し。だから、見えないな」
「そっか…」
あ。会話が止まった、と思った。
なんか、夕方だし、静かだし、寂しくなると嫌だな、と思った。
「あのぉ」
不意に峯岸さんが言う。
「んー?」
俺が答える。会話が始まることにホッとする
「これね、作ったの。よかったら…」
「え? まじで?」
見るからにお菓子です、みたいな包みを、峯岸さんはカバンから取り出した
「ごめんなさいなかなか、渡せなくて。ちょっと、失敗して、見た目とかよくないから、気に入らなかったら捨てていいんで、あの、よかったら…」
「いやいやいや。すげー嬉しいよー。少しどころか見た目が悪かろうがなんだろうが、峯岸さんの作ってくれたものなら、なんでも、ほんと、ちょう、嬉しいよー。ありがと!」
「ほんと? よかったー」
「ほんとほんと。あ、でも、もらってばっかで悪いな。なにか、あげられるものでもあればな」
「あー全然。平気、あのほんと、したくてしてるだけだし。好きだし。いやあの、作るのがってことで、いや、好きだけど、え?なに?いや、もう…」
「ぶっ 何言ってんだ」
「やだーもう、あげないー」
「ちょちょちょ、待って!頂戴! でもほんと、なんか、ほしいものとか、ある? なんでもとかは無理だけど、お願い聞かせてもらいますよ」
「えー、いいよ、ほんと」
「うーんでも、なんか言ってよ。ただもらうだけってのも」
「うーん、じゃあ…」
「はい。」
「あ。じゃあ、」
「はい」
「なまえ、よんでください」
「え?」
「峯岸さん、じゃなくて、名前でよんでほしい」
「あ。う、ん。」
「やった。よかった。断られたらどーしよって怖かった」
「えーっと、うん。そうだよね。えー、ち」
「ち」
「ちひろ、さ、いや、ちゃ、ん」
「ちゃん?」
「え? いきなり?」
「だめ?」
「いや、全然。じゃあち、ひ、ろ」
「はい」
「ちひろ」
「はい」
照れるな、と俺が笑い、うん、とちひろが笑った。
「あれ、俺は? センパイとかだけど」
「それはもう、決まってるの」
「え?」
「ありがとう。。。
みちくん」
つま先に落としていた視線をコチラに向けたちひろが、腹が立つほどかわいかった。
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