第16話
1ヶ月。
岡部も、二年生も、一年生も、マネージャーたちも、ほんとによく頑張ってくれた。俺が見る限り、かなりのものになったと思う。ただ、経験、特に実戦経験が圧倒的に足りなかったのと、指導者がいないこと、この二つが大きくハンディとなった。
それでも俺たちは頑張ったと思う。県大会ベスト16までたどり着いた。ベスト8の壁はとてつもなく高かった。俺も、岡部も、吉田たちも、まったくといっていいほど歯が立たない相手だった。
俺たちの部活は終わった。
俺が嬉しかったのは、中学時代に県選抜でお世話になった先生がたまたま試合を見ていてくれて、「指導者不在のチームなのに、いいチームだな」と褒めてくれたことだった。そして、見事なまでの負けっぷりをした、うちのチームの全員が、清々しい顔をして、笑顔でその日の終わりを迎えられたことだった。
週が明けて月曜日の放課後、俺たちは引退した。何人かがコートに集まって、新しい部長は斉藤になって、おつかれさんでした、と言って、引退した。
あとのことは2年生を中心に決めればいい。前のようにだらだらとやってもいい。指導者がいない部活だから、真面目にやってもたかがしれてるから。
マネージャーの子達が、少し泣いてたかもしれない。俺たちは部室の荷物を片付けて、ひかると3人で、いつもの、もうあまり行くことはないかもしれないけど、いつものファミレスに打ち上げに行った
ひかるは最後の試合、応援に来ていた。最初は居場所がなさそうにウロウロしていたけど、最後の試合は部員たちと一緒になって声を出して応援していたりした。試合後、岡部に惚れ直したと言っていたから、俺としてもよかった、と思った。
その日は、やたらテンションが高かった。三人とも。
何気ないことで大きな声で笑って、はしゃいで、デザートも食べて、いつもより遅い時間まで、ファミレスで騒いだ。
帰り道、少しさみしい感じがして、
夜、すごくさみしくなった。
***
最後の試合、私はすごい大きな声を出した。今までで多分、一番大きな声。
部員、マネージャー、あと、ひかるさんも、みんなみんな大きな声で応援した。負けちゃったけど、なんていうか、楽しかった。負けちゃって悔しかったけど、でも、みんなすごく楽しそうだった。だから、私は、よかった、って思った。
もりちゃんに、ほんとに感謝してる。短い時間でも、こんなにすごい経験させてもらえるなんて、あの時もりちゃんに誘ってもらわなかったら、私には無縁の世界だった。
そして、山本さんを好きになってよかった。
ほんとに、そう思う。
月曜日。部室から山本さんの荷物がなくなった。おつかれさんでした。と言って、山本さんはいなくなった。2年生と、私たちだけになった。
部活が終わって家に帰った。もりちゃんと電話で少し話した。メールをたくさんした。
私、やっぱり、伝えたい。山本さんが好きだよ。
当たり前のように毎朝、毎日一緒にいられた。これからずうっとこのままでもいいかな、なんて思った。ずうっと私は山本さんを好きで、そばでお手伝いして、一緒にいられれば、いいかな、なんて思った。でもそれは、有限だった。昨日がその限度の日だった。
私の日常から山本さんはいなくなった。そして、山本さんの日常から、私は消えていなくなるの?
いやだ。いやだ。すごく嫌だ。
明日の朝、会えない。もう、マネージャーって構ってもらえない。そんなのは、嫌だ。
なぜか、涙が溢れた。そして、こんなに山本さんを好きだったんだと改めて気づいた。
ふられてもいい。怒られてもいい。私は、あなたのことをずうっとずうっと好きだったんです。見てたんですって、伝えたい。知ってほしい。
胸が張り裂けそうなほど、会えないことが苦しかった。
明日、言おう。明日、伝えよう。
私はそう決めた。そしたら、涙が止まった。
「もりちゃん、たくさんたくさん、ありがとう。私、明日、言うね。応援して。夜中にごめんね。おやすみ」
メールを送って、ベッドに入った。
メールがきた。
「ちひろ。私こそ、ちひろにほんとに救われてるんだよ。いつもありがと。明日、ガンバレ。ちひろは、私にとって最高の女の子だよ。自信持って、おもいっきりぶつかっちゃいな! 私が全力で応援するからね!」
私はそのメールを見て、ウトウトして、そのまま眠ってしまった。
もりちゃんの言葉は不思議だ。すごく信じられる。ふうわりと心が軽くなった。
朝が来た。
なんだかとても気分が軽くて、天気も良くて、朝ごはんもしっかり食べた。
いつもより10分も早く仕度が済んで、いつもより10分早く家を出た。
通い慣れた道が、見慣れない景色に見えた。
今日、私は、山本さんに言うの。好き。って。ずっとずっと好きでした。って。
他に何をどう言えばいいのかはわからないけど、とにかく、好きってことだけは伝えたい。
こんな気持ちは、初めてだった
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