第17話 告白
学校に着いても、私は落ち着いてた。
少し怖かったけど。でも、なんていうか、早く言いたくて、ドキドキしてた、みたいなのがあった。
きっと、鼻で笑われる。山本さん、困った顔するかもしれない。もしかしたら、もしかしたら、俺も、ちひろのことずっと気になってたんだ。付き合ってくれ、なんて、いきなり抱きしめられてキスとかされちゃうかもしれないっ!
いや、そんなことはない。ないけど、カバンの中にリップは入れてきた。
でもきっと、嬉しいけどごめん、程度だと思う。よくてそれ。でもいい。
なんでだろう。振られても、私は、ずうっと山本さんのことを好きでいると思うから。振られたら、私、これからもずっと、ずっと山本さんのことを追いかけますから、よろしくお願いします。とか言えると思う。
こんな風に考えたこと、今までなかったな。
「早いじゃーん」
不意に、後ろからもりちゃんの声がした。
私は驚かなかった。そして、振り返らないで、おはよー、と言った。
そしたらもりちゃんも、おはよ、と言った。そして、私の肩をぽん、と叩いた。私はくるっと振り向いて
「もりちゃん、ありがとう。応援、して」
とだけ言った。
「がんばれ。ちひろなら、だいじょぶ」
朝の光が教室の机に反射してもりちゃんを眩しく照らして、その中でもりちゃんがすごく優しく微笑んでくれて、わたしはふにゃーっと力が抜けてしまった。
そのままもりちゃんの胸に頭をつけて、
「ほんとはこわいのー」
と、泣き言を言った。
もりちゃんがよしよし、としてくれて、
「ちひろがそこまで固く決めたんだもん。すごい成長したんだよ。だから、だいじょぶ。よく、頑張ったね。よく決めたね」
と言ってくれた。
放課後、山本さんを探すことにした。
その日の授業は、全部、告白のシミュレーションの時間になった。
初めてあなたを見た時、こう思ったの。初めて目があった時、こう思ったの。初めて声を聞いた時、こう思ったの。初めて話をした時、こう思ったの。
あの日、あの時、こー言ってくれた。その時私、こんなこと思ったの。あの時私、こー思ったの。
アドレスを教えてもらってから、毎日毎日、メールを作って、消してたの。もしかしたら、メールが来るかもしれないって、一日何回も新着問い合わせしてたの。
あなたの声が好き。指が好き。笑顔が好き。優しさが好き。厳しくするところが好き。眼差しが好き。あなたの持ち物全てが好き。
私を見てほしいんです。私だけを見てほしいんです。私を、あなたの特別にしてほしいんです。
自分の気持ちを言葉にしていたら、好きの気持ちが身体の中から次から次へとあふれてきて、私の身体と心が山本さんに支配されてしまってもう、ダメになりそうだった。
昼休みにはもりちゃんの前でまた、ダメダメなちひろになった。
「そんなに思われて嫌な思いする人なんているはずないよ。ちひろが好きになった人は、人の想いにとびきり優しい人でしょう? だいじょーぶだよ。もし、山本さんがあなたを泣かすようようなこと言ったら、私がパンチする!」
もりちゃんがいてくれなかったら、私、好きな人に好きって言えないままだったんだろうな、と思った。
「パンチしちゃダメー」
頭を自分の膝にうずめたまま、私は言った
「あーはいはい、ごちそうさま」
もりちゃんが笑った
毎日、放課後はやってきて、その日もやってきた。
私達はダッシュで自転車置き場に行って、そこから下駄箱まで探して、それから別れて校舎の中とかを探した。けど、山本さんの姿はなかった。自転車はまだあった。黄色い自転車。
いないね、って言ったとき、山本さんをみつけた。校庭にいた。一人だった。私は慌てて、上履きのまま走った。
山本さんは、コートを見ていた。まだ誰も来てないコートを、細い目を細めて見ていた。私は、ああ、そうだ、最初にここを探すべきだったと思って、ゆっくり、後ろから近づいた。
コートで、学ラン姿の山本さんを見るのは、変な気分だった。
大好きな人が、目の前にいた。
「せんぱいっ!」
私は声をかけた
肩がひくん、ってして、すごくゆっくり山本さんは振り向いた。ああ、すごく好きな人だ、と思った。
「ああ」
と、山本さんは微笑んだ
「なんとなく、ね。すぐ、帰るよ。邪魔しちゃ悪いからね」
寂しそうな感じがした
「あのっ!」
私は言った
「ん?」
彼が言う
「あのっ!」
「んっ?」
また、言った。
私は少しおかしくなって、肩の力がぬけて、そして、言いたいことを全部忘れた
「あの!」
なんだか、笑顔になった
「ん?」
彼も笑った。
5秒くらい、見つめ合った。すごーく長い時間に感じた。
さあっと風が吹いて、私の髪の毛を揺らした。そして、
「だいすきっ!」
私は叫んで、失礼します、と言ってダッシュで校舎に戻った。
心臓が、すごいことになってた。廊下の壁に背中を預けて、呼吸を整えた
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