第5話

2年の教室ってのも緊張するな、と思った。普段は近寄りもしない。

1時間目の後、南中の元1番手の吉田くんと斉藤くんのいるクラスにやってきた。岡部も一緒だった。


教室を覗くと、マネージャーがすぐに気づいて、吉田と斉藤を呼んでくれた。廊下で、話した


「ちわっ。どしたんすか」

にやにやと、背の高い吉田が笑う

「部活の話、しにきた」

「あ、すみません。新学期で色々あって。また練習顔出しますよ」

「ああ。それだといままで通りになっちまうからな。お前らの力が必要なんだよ。ちっと、真面目にやってもらいたいんだ」

「けっこう、真面目ですよ、俺たち」

斉藤が、真面目な顔で言った。

「ふざけてるとは言わねえよ。ただ、今まで以上にやってもらいたい。まずは、夏まででいい」

「夏?」

「団体戦、出ようと思ってさ。俺たち、最後だし」

岡部が言った。

「だんたい、っすか」

斉藤がため息をついた

「無理、じゃないっすか?」

吉田が、笑顔をひっこめた

「なにが、無理だ?」

「いやあ、出るだけ無駄ってか、出ても、無理じゃないすか」

「わかんねーだろ。やってみなきゃ」

「山本さんには、わかんないんですか?」

「どういう意味だよ」

「勝てないって意味ですよ」

「だから、勝てるように練習すんだろ。それが部活だろが」

「山本さん」斉藤が言う。「誰が出るんですか」

「まだ、決定はしてないけど、大体わかるだろ。だから、お前らの力借りたいっつってるだろ」

「俺達と、誰ですか? 悪いですけど、俺達、高校の1番手に勝てる気しないんですよ。だから、無理でしょう」

「俺達がうちで1番強いです、みたいな言い方だなあ、斎藤よ」

語気を強めた。吉田が割り込んできた。

「山本さん。わからないわけじゃないでしょう。俺達がうちで1番じゃないみたいな言い方しないでくださいよ」

「半年もちゃんと練習してない奴に言われたくねえよ。それに、お前らより、俺達のが今はつえーよ。お前らは、2番手として試合に出てもらう」

「ちょっ。真面目な顔してやめてくださいよ。」

「真面目だから真面目な顔してんだよ。出てくれるのか? どうなんだよ」

「いやあ、どっちにしても、無駄っすよ」


話し合いは平行線ってやつね、と思った。仕方ない、と思いながら、言う。


「じゃあ、俺達がお前たちより強いってことをまずは証明してやるよ。」

「はい?」

「明日の放課後、試合でハッキリさせようぜ。俺達が勝ったら、大会が終わるまでは真面目にやってもらう」

「ちょっ、なに勝手に決めてんすか。」

「お前たちより強い俺達が、他の学校の1番手をやっつけてやるから、お前たちは2番手やっつけたらいいだろ。」

「はあ? 無理っすよ、山本さんと岡部さんじゃ、あ、いや…」

「無理じゃねえことを明日証明するっての。ちゃんと来いよ」


そう言って帰ろうとした時、

「ちょ、待ってくださいよ」

と、斉藤が呼び止めた

「なんだよ。負けるのが怖いのか?」

「変に挑発するのやめてくださいよ。てか、俺達が勝ったら、どーなるんですか?その、明日の試合ってのは」

しめた、と思った。

「別に、俺達は負けないけど、お前らが勝ったら、お前らのが強かった、それだけだろ。」

と言って、斉藤の反応を待つ

「先輩たちが勝ったら俺達はいう事聞く。それはいいですけどね、俺達が勝ったら何もなしじゃないっすか。そんなのやる意味ないっす。悪いですけど、お断りします」

「斉藤、おまえね、いちおーは部員でしょうが。先輩がそう言ってるんだから従うのも悪くないだろうが」

「いや、でも、そんな一方的な条件の試合はできませんよ」

「ちっ、しょうがねーな。じゃあ、お前らが勝ったら…」

チラリ、と教室の中を見回す。マネージャーたちはこちらを伺ってはいるが、話が聞こえるほど近くにはいない


「お前らが勝ったら、マネージャーと2人きりのデートのセッティングしてやるよ」

「ええ?」岡部が声を出した

「はあ? 何言ってんですか、わけわかんねえ」斉藤が頭をかいた

吉田の動きが止まった

「おい、どーなんだ吉田」

「え、え? いや」

「誰でもいいぞ、俺からちゃんと頼み込んでやるから。丸一日、好きなとこ行けるようにすふ。試合して、目の前で俺達をやっつけりゃ、カッコイイ! って思うだろうなあ。もちろん、宇田川でも、いいんだぜ?」

「は? べ、つに…」

「別に、そうだよな。そんなの条件なんかなくたって、ちょっと試合して普通に勝てば、大会にも出なくていいわけだし、問題ないんじゃね? たまには試合もした方がいいだろ?」

「いやあまあ、たまには、ね、そうっすかね」

「吉田おま、何言ってんの」

「それから、今日から1年が2人入ってる。なかなか有望な人材だ。そいつらのためにも、ちょっとマジで試合したいんだよ。頼む。」

「1年か… 」斎藤は、中学時代部長だった。後輩の面倒見のいい部長だったらしい。「俺達が勝ったら、団体戦には出ないってことでいいんですね」


斉藤の顔が変わった

「いいよ。なんなら、負けた瞬間にオレたちが引退してもいい」

「お、おい」岡部が慌てた

「勝てばいいだろ」

「約束、ですよ」斎藤が、真剣な目で言った。弱い先輩はお荷物です、と言いたそうだった

「お前らも、負けたら、ちゃんと練習もやるんだぞ。」

「や、山本さん。約束は守ってくださいね」

吉田が言った。

「万が一俺達が負けたら、お前と宇田川のデートを実現させてやる。絶対だ」


「明日の放課後、7ゲームマッチ。やり直し無しの一発勝負。審判は、お前らが2年連れてこい。いいな?」

「わかりました。やります」

斉藤がそう言うと教室へ消えた

「斉藤がやるって言うなら、俺も、仕方ない、やりますよ」吉田が教室へ入ろうとした

「吉田。マネージャーたちも明日は全員来るぞ」

「へーそーっすかー」

足を止めて、言ってから、教室へと消えた


チラりと、マネージャーの方へ目配せして、2年の教室を後にした。


「しかし、なんだよあの条件」

岡部がパタパタと歩きながら言った。

「なんだかんだカッコつけたって、恋のチカラは強いもんだよな、やっぱ」

「吉田って宇田川さんのこと好きなのか」

「あんなの、誰が見たって一目瞭然だろ」

「全然! わかんねーよ。山本って、俺とひかるのこととかも知ってたしな。よくわかるよな。」

「なんとなく、かねえ」

「しかし、マネージャーよくオッケーしたね」

「え?なにが?」

「え?」

「言ったろ? 俺達が勝つって。勝てばなにも問題ないって」

「山本… お前…」

「作戦通りやれば勝てるよ。な? 岡部くん」

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