第3話

「試合の作戦の前に、まずはそっちの作戦会議しなきゃってことか」

岡部がラケットのガットをいじりながら言った


「なんで、部員を大会に出すのにこんなに面倒な思いをしなきゃなんないのかね」

「最後の年だからでしょ」

「まあ、とりあえず練習すっか。岡部、サーブ。8割で、50本。それを3セット。」

「え? 150も?」

「で、それをクロスとバッククロスで。」

「まじ?…」

「さあ頑張って。」


練習が終わって、岡部といつものファミレスに行った。

ケータイをいじりながら岡部が言った。

「デザートフェアなのでイチゴパフェ先生をいただく。」

「おークーポンか。じゃあ俺も。チョコパフェ一択。と、セットでドリンクバーね」

「しかし疲れたわ」

「まだまだ。全国への道は険しいのだ」

「バカじゃん」

「まずは頭数からねー」

「マネージャーに言われてはっとしたなー。2年にしてみりゃ試合するメリットないとか」

「考えてみりゃ、わけわかんねーけどな。部員だっつーの」


愛想の悪い店員にオーダーをして、岡部はまたケータイをいじった


「ひかる?」

「ん? まあ」

「ったく、お前らも仲いいね」

「今日電話するっつったのすっかり忘れてた」

「長くなるなら後にしてよ」

「はいはい」


岡部はメールをうって、ケータイをテーブルに置きながら

「俺らが勝ったら、2年は部活ちゃんとやって、試合に出る。それはいいとして」

と、言って腕を組んだ

「負けた場合の条件ねえ」

俺も、腕を組んで、天井を見つめた


「部活やめてもいいぞってのは?」

岡部がとりあえず言ってみた、みたいな感じで言った。

「辞めたきゃ辞めてるっしょ。あいつらにしてみりゃ」

俺は天井から手をそらさずに言った。


「一万円やるぞ!ってのは?」

「金ないでしょが」

「だって、勝てるんだろ?」

「いやそりゃ…」

「おい、勝てるっつったじゃん」

「ほぼ、間違いなく勝つよ。」

「なんだあ? ハッタリ?」

「いやちげーよ。ちがうけど、万が一はあるでしょうに」



岡部のケータイが震えた。

「やべ」

「電話?」

「ああ」

「まさかのひかるちゃん?」

「ああ。お前といるってメールしたんだけど」

「疑われてるねえ」

「まいったな」

「出てやる?」

「あ?そだな。頼むよ」


岡部がケータイを渡してきた。

「もしもーし」

「ああ。俺。今岡部トイレだけど」

「いや、ひかるからの着信だったからだよ。なんでおまえの彼氏は待受だけじゃなくて着信画面も彼女の画像なんだろうねまったく」

「今?いつものとこだよ。」

「作戦会議してんの。あ?詳しくは後で彼氏に聞いて。夜には暇になってるから」

「おまえねえ、誰のおかけでその優しいカレと付き合ってると思ってんの?」

「わかりゃいいんだよ。だから、作戦会議が終わったら岡部から電話させるから」

「うるせーな、余計なお世話だよ。じゃーな。忙しいから切るぞ」


岡部にケータイを渡しながら

「話なげーよ」

と愚痴をはいた

「怒ってた?」

と、岡部がビビりながら聞いてきた

「いや。ごきげんでしたよ。とりあえず、着信画面はカワイイ彼女の写真に設定しときな」

「どーやんだよ」

「しらね。家帰ってから調べな」

「お前らも仲いいよな。悔しいけどさ」

「何言ってんの、幸せものが」

「誰か紹介しようか?」

「そんなのいたらとっくに紹介してもらって… 待てよ…」

「あん?」

「いや… わかった。条件は俺に任せて。ひらめいちゃったよ。」

「なに?」

「いや、それは解決した。じゃあ、明後日の試合の作戦会議するか」

「秘密主義だよなあ、いつも」


岡部はグラスを持って立ち上がった。俺はコーラね、と言いながら岡部にグラスを渡し、チョコレートパフェを食べた。

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