第12話
次にパピ子が目を覚ますと、午後の八時だった。夕食時を逃してしまった。きっと母が声を掛けに来たのだろうが、何も覚えていない。乾いた喉と、まだ重い瞼があるだけだった。一家団欒の時間を逃してしまったと言えばそうだろうが、あんな喧嘩の後ではそこに団欒などと呼べる楽しい会話がないことはわかっている。
腹の減った彼女だったが、このまま一階に降りて食事をする気にもならない。というのも、誰か、つまり幸平に見つかればきっと家族と食事をしなかったことを咎められるに違いないからだ。
しょうがないので彼女は小学校時代からの友人に電話をすることにする。こんな時、健太がいたら彼がファーストチョイスだったに違いないが、今では彼はドベである。
「もしもし」
その友人の名前は友恵(ともえ)と言った。同じく大学生だったが、一浪しているので学年は下である。だが通っている学校はパピ子よりもずっと偏差値の高いところだった。
「もしもし」
向こうの声がする。
久しぶり、という程ではない。二週間前にも一度会って食事をしていた。こうやって突然誘える唯一の友人だった。親友と言っても差支えないだろう。
「もうご飯食べちゃった?」
友恵が水曜日にバイトのシフトを入れていないことは知っている。
「いや、まだ。テレビ見てた」
「これから食べにいかない?」
「どこ?」
「デニーズで良いっしょ」
いつもの場所だった。喫茶店代わりに利用もしている駅前のファミリーレストラン。酒を飲む感じではなかった。アルコールはお互い嫌いじゃないが、それほど好きという訳でもない。
「わかった」
「じゃ一時間後?」
「オッケー」
ということで彼女は友人と食事の約束を取り付ける。
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