第6話 彼女の秘密

悠真が学校に行っても、彼女彩佳はいなかった。


それでも__クラスは、何一つ変わっていなかった。

何の話題に出てくることも無いようだった。

どうして_どうして。


「あのさー、大森のことなんだけど」


話しかけられているのだとわかるまでに、数秒を要した。

前の席の、成田。


「・・・え??」


「大森について。お前、大森と仲良かったじゃん」


「あ、ああ・・・。あのさ、大森って・・・あの、栗色の髪の目がくりくりした、D組の子?」


「そりゃあ。この学年だったら大森なんてあいつしかいねーよ」


「大森・・・」


悠真が呟くと、成田は不思議そうにこちらを見た。


「なんだよ、そんな初めて聞いたみたいに」


「初めて聞いた」


「・・・は!?」


「初めて聞いた・・・あの子、大森って言うんだ・・・下の名前は?」


「・・・ん・・・ぁ、ああええと、、あやか。大森彩佳」


心臓が止まった気がした。

彩佳?

それは、自分が架空に設定した名前ではなかったのか?

偶然?奇跡?そんなことが?

いや、ありえない。

ありえるとしたら___あの子が、本当に、ただひとり悠真の味方になってくれた、あの_


『彩佳ちゃん』?


「でさぁー、あの子またいなくなっちゃったよなー。残念じゃね?」


「また・・・?」


自分が普通にクラスメートと話しているという事実もほとんど意識せず、悠真は聞いた。

成田は頷く。


「ああ。あいつ、ずっと入院してたじゃんよ・・・そっか、お前は中学違うから知らないんか」


「・・・・・」


「大森、めちゃくちゃ薬飲んでんて。そんなそぶり見せてなかっ・・・おい、お前どこ行くんだよ!?」


「すまん、ちょっとサボる!!」


「はあ!?」


成田は叫んだが、悠真は振り返ることはなかった。

成田の口元に、みるみる笑いが浮かんでいく。


「あいつ、あんなに面白いやつだったんだな・・・」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る